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ツバメroof物語(小説編)

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堺市にあるカフェのようなお店の話。 自分たちでDIYして2年がかりで作りました。 まだまだ進化中。日常を小説風にしています。 お店にもぜひ遊びにきてください。
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#珈琲

【ツバメroof物語①】(半分フィクション半分ノンフィクション)/石井-珈琲係

~プロローグ~ 『飽きた』  これが11℃の二人の口癖で、私はいつもその言葉に振り回される事になっていた。  だけど最近では、この「振り回される」という表現は語弊が出てきた様に感じる。  私自身「振り回される」事を楽しむようになってきたし、何より、私も二人と一緒にいる内に飽きる体質がうつってきたせいかもしれない。    11℃というのは、建築士二人のデザインユニット名で、一人は私の姉でアイ、もう一人は姉の友人のその子さんだ。  何しろこのユニット名も、元々はミドリスイッチ

【ツバメroof物語⑤】(半分フィクション半分ノンフィクション)/石井‐珈琲係

お茶を飲み終えて、何かが剥がれた夕子は、この場所が何かになる事に対して受け身で有ることに気がついた。  答えを求めても、だいたい瞬間的生物アイから返ってくるはずはないのだ。ナンセンスな質問だったんだ。  自分で考えて、答えを見つけ出せばいいんだ、と夕子はハッとして…そして呆然とした。  今回に限らず今までもずっと受け身だったかもしれない。楽しそうな事にすぐ首を突っ込んでいたが、それはいつも誰かが用意していたものだったかもしれない。   だけど、自分がどうしたいのか、さ

【ツバメroof物語⑥】(半分フィクション半分ノンフィクション)/石井‐珈琲係

 カフェ担当珈琲係(仮)というものの、珈琲の事はよくわからない。ただ唯一の救いは、珈琲が好きな事だ。よくカフェに行ったり、珈琲豆を購入したりしていた。     ヨシ!いける気がしてきた!(笑)  でも…逆光のカウンターで珈琲をにいれる湯けむりの中の寡黙なマスターを想像したが、到底無理な気がしてきた。珈琲薀蓄は言えないし、ちょび髭も生えてない。蝶ネクタイだって柄じゃない。  夕子は思考がぐにゃりと変換されたと思っていたが、やっぱりやる前に冷静さを失わない自分も嫌いではない。そ

【ツバメroof物語⑦】(半分フィクション、半分ノンフィクション)/石井‐珈琲係

 いつもは、喫茶室になっている10畳ほどの和室に案内された。ちゃぶ台の上には、カセットコンロ、あとは珈琲を淹れる時に必要な物がセットされていて、私達を待ち構えている。まず手書きのリーフレットで丁寧に説明を受けた。そして、お手本にと焙烙で生豆を煎り始めた。   しずくさんは優しい手つきで、静かに物を触る。それは流れるようで無駄のない所作だ。夕子みたいに全然ガサツじゃない。少し心配になってきた。 …が、ここは落ち着いたふりしていこう。   へぇ、珈琲豆ってこんな色なんですね

【ツバメroof物語⑧】(半分フィクション、半分ノンフィクション)石井‐珈琲係

 順番に手焙煎している間、市販の珈琲袋がちらちら視界に入る。私も時々購入するちょっと高めの珈琲袋。そんな私をよそに、しずくさんが、粗熱が取れた珈琲豆をゴリゴリとミルで挽いてくれた。  鼻の奥が広がる芳醇な香りは、焙煎時の香ばしさとは違った、深みのある香りだ。    そしていよいよ、珈琲を淹れる時が来た。一番重要だと思っていたが、なかなかこの時までも重要だった気がする。  しずくさんが、ケトルの細い口からお湯を注ぐ。全体に珈琲を湿らせた頃合いで、手を止める。煎りたての珈琲豆

ツバメ物語⑨/珈琲係-石井

 私は、しずくさんに珈琲のあれこれ教えてもらってから、俄然やる気に満ち溢れていた。  まずは焙烙、生豆を購入して、自主トレーニングをした。何度も焙煎したけど、真っ黒になったり、生焼けだったり、ムラがあったり。  良い頃合いを見つけられるようになってきた時、飲み過ぎでしばらく珈琲を身体が受けつけなくなってしまった。  全く欲しくなくなってしまった。あんなに好きな珈琲が飲めなくなったのか、と愕然…とはしなかったけど。  とりあえずしばらく飲むのは控えようと決めた。毎朝飲んで

ツバメ物語⑩/珈琲係・石井

ところで、お店づくりの工事は遅々として進んでいなかった。暇なのは夕子だけという日もあり、そうなると、建築士がいない一人ぼっちの現場で出来る事は掃除しかなかった。 オープンは当初の目標時よりすでに3か月遅れていた。私は、掃除するか、珈琲を焙煎するか、色々なお店に珈琲を飲みに行くか、という生活を送っていた。 内心はこのままオープンするのがまだまだ先になり、挙句の果てにはやっぱりオープンしない、という選択肢もまだ残っているのではないかという一抹の不安もあった。 そんなある日「