「変わり者メルヘン」第1話
むかしむかしあるところに、マッチ売りの少女がいました。
少女は根っからの商売人だったので、いつも「どうしたらもっとマッチが売れるかしら」と考えていました。
少女の営業トークには子供離れしたカリスマ性があり、マッチ売り業界では知らぬ者がいない、売れっ子マッチ売りでした。
しかし、いくらマッチ売りとして売れっ子になっても生活は苦しいままです。少女は病気のおばあさんと二人で暮らしていました。
大好きなおばあさんの薬代を稼ぐため、少女は昼も夜も一生懸命働きました。
ある日、おばあさんのための薬と栄養のある食べ物を買ったらお金がなくなりました。よくあることです。
少女はなじみのパン屋に足を運びました。パン屋のおばさんはぶすっとした顔でパンの耳を袋に入れてくれました。サンドイッチを作るために切り落とすパンの耳は無料です。
少女はおばさんにお礼を言って、かごからマッチを出しました。
「いらないよ。あんたのマッチはうち中に転がってる」
少女はマッチをかごに戻しました。
感謝の気持ちを受け取ってもらえなかったのは残念ですが、ここは売り物のマッチが減らなかったことを喜ぶべきでしょう。少女はパン屋のおばさんほど親切な人を知りません。
家に帰り、パンの耳をかじっていると、扉を叩く音がしました。
「よう」
新聞売りの少年が訪ねてきました。近所に住む幼なじみです。少年もマッチ売りの少女と同じくらい貧しい家の子供でした。
少年は古新聞を差し出しました。少女はマッチを渡しました。物々交換です。
「もうすぐ冬だな」
「憂鬱ね」
「お互い無事に越せるといいな」
「本当ね」
二人の家には暖房器具もあたたかい布団も厚手の冬服もありません。冬は生きるか死ぬかの戦いです。うっかりすると凍えます。
売れっ子の少女は奮発して毛布を買いました。もちろん病気のおばあさんのためです。自分は薄い布団に新聞紙を敷いて眠っています。
「おばあさんの調子どうだ?」
ベッドで眠っているおばあさんに聞こえないよう、少年は声を低めて尋ねました。
「うーん……」
「うーんっておい」
「わからないの。落ち着いてはいるんだけど、少しずつ元気がなくなるみたい」
「薬は?」
「もちろん飲んでるわ。でも……」
少女が続けようとした言葉を察して、少年は首を振りました。
「お前も体には気をつけろよ」
「あんたもね」
少年に手を振り、少女は仕事に出かけました。
少女が手際よくマッチを売っていると、若い女性が通りかかりました。
「こんにちは。マッチはいかがですか?」
「あら、小さいのに偉いのね」
とてもきれいなお姉さんでした。金色の長い髪は灰をかぶってくすみ、つぎはぎだらけの服を着ていますが、そんなことでは彼女の美しさを損なうことはできません。
貧しい身なりをしているのが不思議なほど品のいい女性です。
「まあ。素敵なマッチ箱」
お姉さんは目を見開きました。
「他の柄もあるんですよ」
少女はかごの中のマッチをいくつか取り出しました。
マッチ箱のイラストは少女が描いたものです。少女のお客さんの中にはすべての柄を揃えるために何度もマッチを買う人もいました。少女のマッチがよく売れる理由の一つです。
「では、一ついただくわ」
お姉さんは優しい声で言いました。
「これからもがんばってね。可愛いお嬢さん」
見る人を幸せにする微笑みを浮かべ、お姉さんは去っていきました。
少女は昼の分の仕事を終え、帰りを急ぎました。
途中でおしゃれな服屋が立ち並ぶ通りに出ます。ここではきれいに着飾った女性たちが買い物を楽しんでいます。
みすぼらしい格好の少女はそそくさと通りを歩きます。しかし、横目でショーウィンドウを眺めることは忘れません。
秋の終わり、お店のウィンドウには冬のコートやセーターが飾られていました。
マッチ売りの少女の目がきらりと光ります。
冬物なのにこんな寒々しくてはいけないわ。このペラペラした生地でこの値段? ぼったくりね。でも、こっちのコートは素敵だわ。あたたかそうだし、おしゃれだし、実際の値段より高く見えるもの。
少女は自分の服を買ったことがありません。おばあさんの古い服を仕立て直して着ています。
ですが、こんな風にショーウィンドウを眺め、街を行くおしゃれな女性たちを見ているうちに目が肥えました。だからこそ、センスのいいイラストが描けるのです。
「シンデレラ! 遅かったじゃない」
「シンデレラ! ちゃんとおつかいは済ませたでしょうね?」
突然、洗練された通りにふさわしくない大声が聞こえました。
キンキン声で喋る女性二人がきれいなお姉さんに詰め寄っています。シンデレラと呼ばれているのは、さっきマッチを買ってくれたお姉さんです。
「はい、お義姉さま……」
お姉さんは買い物かごを渡しました。女性二人は揃ってかごを覗き込みました。
「シンデレラ! カボチャがないわよ!」
「シンデレラ! カボチャはどこなの!」
「お、お店に置いてなくて」
「うそをおっしゃい!」
お姉さんはしゅんと肩を落としました。
まさか、マッチを買ったからカボチャが買えなくなった?
もしそうだとしたら……少女は申し訳なく思いました。お客さんに損をさせるなど、商売人の風上にも置けません。
私の押しが強すぎたのかもしれないわ。
少女はストイックかつ誠実なマッチ売りです。この失敗は必ず次に生かそうと決めました。
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