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【エッセイ】花子の呪い

私は現在進行形でトイレの花子に呪われている。
トイレの花子とは小学校の怪談によく登場する女の子のお化けである。私が通っていた小学校では、北棟一階の女子トイレの三番目に住んでいるとされていた。
三回ノックした後に「花子さんいらっしゃいますか」と扉越しに声をかけると中から返事がある、という程度の話だったが、小学生の私は花子が怖くてしょうがなかった。北棟一階のトイレという噂だけどずっとそこにいるとは限らない。他のトイレを巡回しているかもしれない。用を足しているときに上から覗き込んできたりするのかも。便器の中から出てくるのかな、などありえない妄想を膨らませ恐怖のどん底に突き落とされていた。かなり築年数のいっている校舎でトイレも汚く、全体的におどろおどろしい雰囲気が漂っていたことも私のとんでもない妄想に拍車をかけた。

トイレの花子、こわい。

そんなこんなでトイレに行けなくなり、我慢し続けた結果、私は小学生で浣腸デビューすることとなった。花子の呪いである。
腹痛で病院に連れていかれた私は便秘という診断であれよあれよと処置室に入れられ、新人と思われる若い女性看護師に浣腸された。「三分くらい我慢してね。」と言われていたが一分経たずして猛烈な便意がきた。「出ちゃいそう。」と申告すると看護師は処置室に併設されているトイレに案内してくれたのだが、扉を開けるとそこには老婆がいた。看護師が「ごめんなさい…!!」と謝罪し勢いよく扉を閉める。目の前でトイレの扉が閉まったとき、私は小学生ながらに「あ、終わったな。」と思った。周りを見渡しても他にトイレがない。私の肛門括約筋はもう限界だった。ここで漏らすのか。さよなら私の尊厳。さすがの看護師も血相を変え「走れる!?あとちょっと頑張れる!?」と私の方を一瞥し走り出した。ここで諦めるのはまだ早い、と自分を鼓舞し限界を迎えた肛門括約筋を締め後を追う。走ってる途中も「頑張って!」「もう少しだよ!」と看護師に励まされながら、とにかく肛門括約筋を締め死に物狂いで走り続けた。途中、ロビーを走り抜け大勢の視線を集めることになったのだが、ロビーに座っていた大人たちもまさか浣腸された小学生が看護師とトイレに向かってダッシュしているとは思わなかっただろう。
無事トイレに到着し、私の尊厳は守られた。

トイレの花子に病院送りにされた小学生時代。今思えばこれが私の便秘人生の始まりだった。数日うんこが出ないのは当たり前。ひねり出してもウサギの糞みたいなものしか出ない。そのうち溜まったガスと便で腹が張り、食欲がなくなり、きゅううっと締め付けられるような腹痛に苛まれるのだ。放置しておくと一週間出ないこともあるので、四日目くらいで下剤を飲むことにしている。下剤を飲んだ翌日は一日中腹をくだすので家に篭る。こうして文字に起こすと私の生活はうんこに支配されすぎているように感じる。それもこれも、元をたどると小学校の北棟一階女子トイレに行きつくのだ。
花子の呪い、恐るべし。

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