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夏日記② 仕切り直しと限りなく透明に近いブルー

5月4日 

小説を書き終えたばかりである。
直さなくちゃいけないところはたくさんあるけど、とりあえずプロットの最後まで突っ切った。
はー、疲れた-。
肩がかちこちで、誰がどう見てもなで肩の私の肩も、実質四角形という感じである。

今書いている小説、どうしても気に入らないことがたくさんあって、めずらしく担当さんに泣きついた。
4万字くらい書いたところで、最初から書き直しさせてもらったのだ。

早く仕切り直した方がいいとは思っていた。
しかしこの違和感はもしかしたら「勘違い」かもしれない、時を置いたら案外悪くないんじゃないか、というパターンに運ぶ可能性を捨てきれなかった。
反省しかない。
「株と男はさっさと損切りしろ」と、言われたことはあるが、自作に関してもそうである。覚えておくためにここに書き記しておく。ちなみに株の方は、ひと銘柄塩漬けしている。もうばあさんになるまで漬けるしかないかな。しょっぱくて仕方がねえ。

書き上げるまで不安だった。またあの「ムキーッ、気に入らねえ!!」が始まったらどうしようかと思っていた。
このモードに入ると全然だめ。良いと思えない作品を10万字も書けない。じんましんも出てくるし、酒も進んじゃうし、犬とごろごろするだけの人生を生きていきたかったと思ってしまう。
でも、書ききれた時点で自分のある程度の基準は超えられたのだ。
ゴールテープを切れた。ほっとした。はーッ。

なんかもう、最初に4万字をうっちゃった時のメンタルは最悪で、新しいやつを最後まで書けるか不安で仕方がなかった。
何度も鳥村さんに「びええーん」と愚痴ったし、F氏にもぼやいてしまった。四方八方愚痴りまくりで、ごめんなさいねという感じである。

とはいっても、油断は禁物。次は地獄の赤入れだ。
原稿を一度印刷し、セルフツッコミを入れながらおかしいところを修正していくのだ。
私はだいたい第一稿を書き上げてから、推敲して、その推敲を更に推敲したものを担当さんに渡している。
このとき、背景描写を書き加えたり、心理描写を掘り下げたり、シーンをまるごと書き直したり、追加したりする。
あるいは、逆。くどくなっている描写を削ったり、わかりやすくするためにシーンを削ったりする。
自分の作品を、できるだけ厳しい視線で精査しないといけない。
ゴールデンウィーク後半はこの作業に費やすことになるだろう。
まだまだ自分との戦いは続く。

今、かばんの中に村上龍の「限りなく透明に近いブルー」がある。
積ん読が山になってるのに、また買ってしまったのだ、この本を……。

先日、初めてのバーにふらりと入った。
若いバーテンダーさんが、常連さんと映画の話をしていた。
なんでも「後味が悪くてもいいから、心に残る映画、考えさせられる映画が観たい」ということだった。
私がいくつかの映画を薦めると、お返しにバーテンダーさんもお気に入りの作品(たぶん「ピアッシング」だったと思う。違ったらすみません)を薦めてくれたのだが、残念。
この映画、私の苦手とする嘔吐シーンがけっこう派手にあるそうなのだ。
件のシーン、文章や漫画なら平気なのだが、映像になるとダメなのである。

なんだ~観れないじゃん……と思って、検索したら原作は村上龍、と出てきた。

青春時代があざやかによみがえってきた。
「限りなく透明に近いブルー」を中学生の時、友達に勧められて読んだ。そして衝撃を受けた。「コインロッカー・ベイビーズ」も夢中になって読んだ。

「えッッ、原作、村上龍!?」
と叫ぶと、バーテンダーさんは、「僕、村上龍読んだことないんですよ~」と、お客さんからごちそうになったビールを飲んでいる。

「えッッじゃあこれから初めて村上龍読めるってこと!? すげえ!!」
と、興奮してしまった。

隣の席にいたオジサマも、「いやあ、限りなく透明に近いブルーね」「コインロッカー・ベイビーズね」としたり顔で、酒もうまいというものである。

しかし、作品名はすらすらと出てくるし、おおよそのあらすじは思い出せるのだが、なにせすっごく前に読んだ作品だし、私自身の多感だった時代の妄想とかも入っている気がするし、丁寧に説明することができない。
それに、これらの作品において「すごいポイント」を口頭で説明しようとすると、野暮になるのである。
(私の口から出ると野暮になるだけで、たぶん書評家の方とかだったら違うと思うのだけれど、すみません)

「いやあ、いいから、四の五の言わず読んでみてよ……うん」としか言えなかった。

その後、むらむらと「村上龍 読みたい欲」みたいなのが湧いてきて、平日を迎えた。
電話をとっていても、納品書をサルベージしていても、ずーっと「読みたい欲」から逃れられなかった。
この本は一度手放してしまったので、買い直すしかない。

会社の昼休みに本屋さんに行ったのだが、置いていなかった。
「限りなく透明に近いブルー」も「コインロッカー・ベイビーズ」も「トパーズ」もなくて、久々にこんちくしょうと思った。
退勤後、別の本屋さんにもなく、はしごするはめになった。
飲み屋以外ではしごしたくない。最悪である。

「名作を置いてなくて何が本屋じゃッ」と思いながら(完全に自分本位の悪態であるが、私のように昔なつかし購入勢が一定数いるので置いてくれてもいいと思う)、ようやく池袋のジュンク堂で見つけた。

限りなく透明に近いブルー、棚に2冊も差さっていた。

さすがのジュンク堂本店である。
俺に揃えられない本はない、あのでかいビルがそう言っている気がする。
やはり私のようにどこの本屋でもあぶれてしまった迷える子羊が、めちゃくちゃ列をなしていたが、池袋ジュンク堂のレジはどんなに長くても優秀なので、短時間ではける。人が店内におさまっているうちは臆することはない。

というわけでウン十年ぶりの再会だ。
とはいっても、今読んでいる「わたしの名店」と併読だから、ペースは遅いだろう。
「わたしの名店」は豪華な作家陣によるごはんもののエッセイアンソロジーなのだが、読んでいるとおなかがすいてきて、空腹の時はとてもじゃないけれど読めない。なので、読むタイミングがむずかしい。最近の私は常におなかがすいているのである。
満腹~腹八分目、いまだッというときに読まないと、飯テロされてしまう。それだけ魅力的なエッセイが目白押しなのだ。

では、原稿の印刷ターンに戻り、現実を見ることにする。
いやになったら本を開けばいいし、犬とごろごろすればいいのである。

そして出オチも10話が更新された。忘れずに宣伝しておく。
出オチキャラだったはずなのに、今やすっかり聖女です | デジタルマーガレット (digitalmargaret.jp)

ゴールデンウィーク、めいっぱい楽しむぞ。