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夏日記⑧ギャンブルと炊き込みご飯

先週父が階段から落ち、わりと派手めに骨を折って入院した。
そういうわけで家が静かである。全治二か月らしいが、病院の方針で面会は一週間に一度と決まっており、どう過ごしているかは不明だ。

しかし、命に別条があるような怪我ではなく、本人も「俺のことは見捨ててくれて構わない……!」と悲劇のヒーローになりきって申していたため、とりあえず入院中はほどよく放置でよろしいであろうということになった。
家族よりも病院の方が、なにくれとなく面倒をみてくれるはずだ。

親族の葬儀も終わって間もないタイミングで、まだ四十九日法要も終わっていないというのに、父は入院するし、ご近所に住む親戚も要支援になってしまった。そういうわけで私もいろいろと活躍せざるをえなくなっている。一家総出でお祓いに行ったほうがいいのだろうか。
今年の初めに私がノリで受けた厄除けのせいで、厄が落とされるのではなく周囲に散ってしまったのかもしれないと危惧している。

母は今まで野球部の男子みたいにもりもりとごはんを食べていたのに、そんなこんなで食が細くなってしまった。私がキュウリとミョウガをかじるだけの食事をしていても珍しくないが、母の食欲減退は相当なことで、娘としてなんとかしなければならないなと思う。

しかし、すばらしい料理を作る技術は私にはない。
今日の夕飯? スーパーで売っているキャベツの千切りに塩をかけて食しました。というレベルなのである。
なぜ野菜ばかり食べているかというと、もとより野菜が好物であるのもそうだが、仕事帰りの遅い時間にしっかり食事をすると胃がもたれてしまうので、野菜の切れ端などをかじる、という方法が体調的にベストなのだ。
(もちろん、日中は普通の食事をしている)
胃弱の癖に酒と辛い物は好きなのだが、なぜかそのふたつでそこまで体調を崩すことはないので、相性もあるのだろう。

私はそもそもそういう生活スタイルなので問題ないが、少なくとも母には栄養をとらせなくては。両親がどっちも倒れたら、最悪のエンドである。

というわけで、炊き込みご飯を作ることにした。
炊飯器が勝手に調理してくれるし、「炊き込みご飯なら具材と御飯がいっしょくたになって手軽に栄養も取れる」と、Xでどなたかがポストしているのを見た気がしたのだ。
今食べる気分じゃないんだよね……というときも、おにぎりにしておけばいいし、便利である。

こういうときに頼りになるのは、少女小説家の先輩、Yさんである。
Yさんはとても気さくな方で、創作のことでも実生活のことでも愚痴をきいてくれたり、相談に乗ってくれたりする。
Yさんがお子さんのために作られたお弁当は、ほうれんそうの胡麻和えやふわふわの卵焼き、ハンバーグやナゲット、海苔でかわいらしい顔のついた鯛めしのおにぎりなど、そうそう、こういうメニューをお弁当で食べたいよね、といったものがしっかりおさまっている。
シュークリームやオランジェットなどのスイーツ類も作られているときもあり、ご家族がたいへんうらやましい。
ご相伴にあずかりたいほど魅力的だ。

そして私の自炊レベルが雑魚クラスでも、それにあわせたレシピを教えてくれるのだ。
包丁を使わなくてもすむように缶詰を利用したレシピも添えてくれた。
「炊き込みご飯ができたらみそ汁はインスタントだっていいですよ」とのことだ。優しいがすぎるであろう。

Yさん直伝のレシピをここで公開していいかわからないので詳細は省くが、Yさんの教えに従い、いそいそと材料を買ってきた。
枝豆やらにんじんやらあぶらあげやら、さまざまな具材がもりだくさんである。(ここに書いている以外にも具材はある)
調味料を加え、水を投下し、いざ炊飯器のふたをしめる。

これ……成功するんだろうか……。

炊飯器調理、不安すぎる。
フライパンなら「あ、残念でした。これ失敗ですね」と惨敗していく様子がわかるのだが、炊飯器にいたってはふたを開けるまで「勝っている」かどうかすらわからないため、一種のギャンブルというか、デッドorアライブが過ぎる。

大量の食材と二合の米が生ごみと化すのか、夢のようなご飯となるのか。

もちろん、Y先生のレシピに不足などない。
これはすべて私側の問題だ。
あぶらあげの油抜きをしたときに、しぼりが足りなかったかもしれないし、冷凍の枝豆の水気をもっとよくとっておけばよかったかもしれないし、調子に乗って材料を入れすぎたかもしれない。メモリに沿って水を入れたが、ちゃんと水平な視線で確認したか自信を持てなくなってきた。

さまざまな要因が炊飯器の中で傍若無人に暴れている可能性も否定できない。

実はこれを書いている今この瞬間、炊飯中である。
これからおそるおそる、ふたをあけていこうと思う。

誰も気にしてなどいないと思うが、続報待たれよ、ということで、重い腰をあげることにしたのだった。

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