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夏日記③ テントウムシとタンタン麺

5月9日

あっという間にゴールデンウィークが終わってしまった。
今週は天気もよくないし、仕事も山積みだし、なんだかだるくて調子が出ない。
よかったことといえば、職場でテントウムシをみつけたことくらいである。
こんなところに……テントウムシがいる……!
と、一瞬だけ気分が高揚した。
これが一日のテンションの最大瞬間風速(?)である。お察しいただけるであろう。

帰宅後、ミュージカル刀剣乱舞・陸奥一蓮の見逃し配信を見ることで、なんとか気持ちを保った。

たとえ「今日あったいいこと……あ、テントウムシいました……」という日であったとしても、まぁいいや、帰ったら刀ミュが見られるし。と持ち直して、ご機嫌に過ごせる。
今回の刀ミュは現場にも行ったのだが、あまりにも良いものを観せていただいたことでかえって記憶がおぼろげになり、あとは感動と興奮の渦に呑まれてしまった。
いや、おぼえてはいるのだが、満足しすぎて現実感が希薄である。観劇後は「三日月……眩しすぎる……」という感情がかろうじて残っていた。
なので必ず配信を買い、復習をしなくてはと思っていたのである。
決意通りに二回ほど本編を見て、あとはライブパートをえんえんと流し続けている。
しかしこの配信はわずかな期間しか見られないのだ。刀ミュエリクサーもあとすこしで切れてしまう。

やはり、みずから工夫して気持ちを上向きにしていかなくてはいけない。

というわけで、汁なし担々麺を食べることにした。
私は昔から辛いものが好きである。十年くらい前までは、辛さのギリギリを攻めて、攻めて、とにかく攻めまくり、あとは肛門との戦いに転じることもめずらしくなかったが、もとより胃弱体質であるため、そういった命知らずの戦いに身を投じるのはやめた。
とにかく、ほどほどが一番である。

今お気に入りの担々麺専門店に入り、いつもの「パクチー入り汁なし担々麺」を注文する。
賛否両論あれど、私はパクチーを欠かしたくない派だ。

辛さのレベル、麺の量ともに普通で注文。もっと辛くできるらしいけれど、結果これでちょうど良い。男性は麺の量を増やす人が多いようだ。

しばらくすると、大きな器に入った汁なし担々麺がどんと出てくる。あざやかなパクチーと水菜に、肉味噌やピーナッツが入った胡麻だれ。その下に、こしのあってつやつやした黄色みがかった麺がのぞく。
きれいに盛りつけられているのでもったいないが、えいやと箸を入れる。

食べ放題のザーサイをがっつり入れて、中身をよく混ぜる。混ぜている間に香辛料の香りが広がって、早く食べたくてうずうずしてしまうのだが、ここはぐっと我慢である。
しっかり混ざった頃合いで、麺を1・2本、けちくさく取って、つるつるっと食べる。
しびれる辛さが口いっぱいに広がって、わずかな量でもいっきに幸せだ。
なぜ少しずつ食べるかというと、このお店、味変の楽しみがあるのだ。
卓上に自家製のラー油や山椒、お酢などが置いてあり、自分好みの担々麺を作れるようになっている。

初めは遠慮がちに、終盤は大胆に、ラー油と山椒をこれでもかというほどガツガツ入れて、オリジナル担々麺に仕上げていくのが、この店で食す醍醐味なのである。
そのため、辛さは普通を選んでも、最終的にはもう一段階くらいは辛くなっている気がする。

なめらかな味噌だれ、胡麻をたっぷりまとったお肉、舌の上でじりっとしびれる山椒、ピーナッツやザーサイのこりこりした食感。それが麺と絡んで、飽きのこない味わいとなる。
最後は仕上がった最高の肉味噌だれに、ほんの少しだけ盛ってもらった真っ白いご飯を投入し、ザーサイをたっぷり入れて混ぜ、思い切りよく食べる。辛味噌とザーサイが、白いごはんと合わないはずがないのだ。

食べ終わる頃には額からつーっと汗が流れている。
器の中にタレは残っていない。きれいなものだ。
すっきり、爽快。
ほどよく汗をかいて、なんとなくだるい気分から、いっきに解放される。
辛いものを食べるのは、ストレス解消になる。気分の上がらない日やイライラした日は、だいたい汁なし担々麺か、ビビン冷麺か、辛ラーメンを食べている気がする。

しかし、担々麺と白米。どちらも炭水化物で、あきらかに食べ過ぎなのはお分かりいただけるだろう。毎日やっていたら、あっという間に太っていくので、たまの楽しみにしている。

食べ終えて、すっきりして電車に乗ったら、読書も進んだ。
先日読んでいたアンソロジー「わたしの名店」は読み終わってしまい、併読していた「だって買っちゃった」もあと数ページといったところである。
「限りなく透明に近いブルー」はいっき読みがもったいない気がして、ベッドの脇においてちまちま読んでいる。
次は中学の時の同級生・ジョンちゃん(注:日本人女性)に薦められた宮部みゆきの「火車」に手を出そうかなと思っている。「ミステリー小説で一冊を薦めるとしたら何?」と聞いたら答えてくれた。名作と名高いが、恥ずかしながら未読であった。
けっこうな厚さであったが、それに見合う通勤時間の長さなのでなんということはない。
ジョンちゃんとは柳美里の「命」の話で盛り上がったり、本屋さんに行くとああでもないこうでもないとおしゃべりしながら一緒に本を選べるので、彼女のお薦めは読んでおきたいのだ。

いつもかばんの中が本でいっぱいだ。
しかし、やはりまずは配信期間ぎりぎりまで刀ミュを観なくては。
ゴールデンウィークはさっさと過ぎ去ってしまったが、お楽しみは続くのである。