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鬱の力

五木寛之 香山リカ 著  幻冬舎新書

最近うつ病を公表する著名人が増えてきた
ように思う。

そして、公表することに少し疑問も感じる。

もちろん、著名人ならではの苦悩もあるだろう。
だが、幼い頃からなんらかの才能に恵まれ、
脚光を浴びてきた選ばれし者な訳で。

酷いうつ病で外出もままならず、もちろん学校にも行けずそれが原因で学習にもついて行けず…日の目を見ることなく苦しんでいる人々がそんなカミングアウトを見たらどう感じるのだろうか、といつも思う。

少し悪い言い方をすれば、うつ病が批判を交わすための言い訳のようにも取れるのだが…

こちらの著書によれば、アメリカの診断基準を適用するようになって以来、うつ病患者が増加したのだとか。

原因となるバックグラウンドがどうであれ、症状が2週間続けばうつ病と診断されるのだそうだ。

《本当にうつ病の人が増えてるというよりは、従来だったらうつ病とはされなかった人までうつ病として診断しているからだと思うんですけどね。》p.33-p.34

それともうひとつ。最近の傾向として、治療すべきうつ病と、人間本来の感情である『鬱』が混同されがちなのだと。

その事に疑問を、五木寛之さん、香山リカさんが同様に感じた事から生まれた対談だ。

《現在の精神医学では、失恋して落ち込んでる人も「うつ病」と診断されてしまいます。しかし「うつ病」と「鬱な気分」は分けて考えるほうがいい。
 心の健康には、抗うつ剤に頼るよりも、自分の内面に向き合うほうが有効な場合もあります。》p32

しかしながら悲しみと向き合い、自分の内面を見つめ直すという地味な作業は、便利になった今の時代にはなかなか難しい。

《ただの「鬱気分です」って言われてしまったら、あとは自分の考え方とか生き方とかに直面して、自分で取り組まなければいけない課題になってしまう。でも「うつ病」ということになれば、病人なんだから「お任せします」と言えば済む。(中略)
 それはいまの人たちが、即効的なハウツーを求めるのとすごく似ているな。》p.43-p.44

社会全体としての流れも関係しているという。

(個人の人格的な危機や、あるいは短絡的な社会現象ではなく)20世紀後半から21世紀はじめにかけて、社会全体の流れが「躁」から「鬱」へと転じてきたという、長いスパンで捉えたいんですよ。》p.23

そもそも鬱な気分や悲しみって悪い事なの?

《毎日これだけ胸を痛めるようなニュースがあって、気分が優れないのは当たり前でしょう。(中略)そういう時代に「あーあ」と思わずため息をつくのは、その人がまだ人間らしさを残してる証拠です。いまの時代は「ちょっと鬱」というくらいが、いちばん正しい生き方じゃないでしょうか。それまでもひっくるめて病気にしてしまってはまずいと思うんですよ。》p.20

《過去のいろいろな哲学者や思想家を見ていると、だいたい鬱の中で考えています。鬱というのは、これまで外に向いていた目が、自分の精神、魂、内面に向けられる。文明の成熟という意味では、鬱は決して悪いことじゃない。》p.236 

《鬱は力。無気力な人は鬱にならない。》p.5


大きなテーマはもちろん鬱だが、知識人お二人の対談だけあって、鬱から派生した様々な情報が満載である。

しかも私は、この本をBookOffで100円で購入した。

100円でこの情報量…コスパが良すぎる笑

以下、印象に残った箇所を抜粋、または独自まとめで記しておく。( )は私自身が思ったこと、感想など。

●《もともと鬱というのは、古代ギリシャ時代にガレノスとかヒポクラテスとかが、黒い胆汁が体の中に多くなるとメランコリアという気質になるということで言い出したものです。(中略)17世紀には、外国に遠征した兵士がかかるホームシックに、「ノスタルジー」という病名がつけられました。》p.49
(医学の発達していない時代にありながら、得体の知れない心の不調に何とか折り合いを付けたい当時の人々の気持ちが読み取れる。)

●アルコール依存症などの原因について…「敗戦によって」「引き揚げのときに」「あの震災で」など言い訳やモチベーションをはっきり持っている人は、むしろありがたい。それがない場合は家族のせいにしがち。家族に愛されなかったから、こうなっちゃったんだ、とかって。(p.94)

●自殺は周りの人に傷跡をいっぱい残す。
電話を切った後に友人が自殺したケース…「あの時話相手になっていたら」と罪悪感がトラウマに。
自殺者の家族は、縁談や内定が取り消しになるなど差別を受けるだけでなく、自分が節目の年齢になるたびに、自分も親と同じように自殺してしまうんじゃないか、と不安になる。p.159
(最近芸能人でも自殺者が多いのが気になっている。死ぬくらいなら引退したっていいじゃないかと思うのだが。)

●戦時中の日本人は全員躁状態。軍部の暴走は、自分たちには国民的支持があるという実感からきている。軍部の暴走は、半分は熱狂した国民のせいであり、それを煽ったメディアの責任(p187)
(これはナチス・ドイツにも当てはまる、とあるが
現在のロシア・ウクライナ戦争にも言えるんではないかな?民間人虐殺は信じ難く、ロシア政権の支持率上昇などあり得ないと思っていたが…こういう事なのか?)


まだまだあるが、疲れたのでこの辺で終わろ笑

読んで下さった方、ありがとうございました💓


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