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エッセイ「絶対にフラれない男、西くん」の感想


この文章は、文学サークルお茶の2024年6月の課題として書かれたものです。(詳細はこちら

以下、脱輪さんのエッセイ「絶対にフラれない男、西くん」の感想です。

西くんは非常に印象深く魅力的な人物に僕には映ります。この文章を読んだ人の多くも同様の感想を持ったと思います。言わずもがな、脱輪さんや西くんの周辺の友人・知人はそれをよく分かっていると思います。というか、そうであるがゆえに、脱輪さんはこのエッセイを書いたのでしょう。
そんな西くんの魅力とは何なのでしょうか?

まずは、ギャップ。西くんは色白で身体の線が細いにもかかわらず、大学のサークル内で随一の腕前のドラマーです。ドラマーという肉体的で激しいイメージと、色白な彼をからかう友人にも嫌味なく言葉を返す柔和さ。このふたつが共存していることは、何気ない彼の仕草の中に深みのある人間性を感じさせます。

そんな西くんにはお付き合いをしている彼女がいます。見た目はメガネっ子でおとなしそうなのに反して、性に対して奔放、いわゆる浮気性です。西くんは彼女に対して嫉妬心を募らせます。束縛する西くんに対して、彼女は何度も別れを切り出し怒りの感情を彼にぶつけます。

そこでエッセイの核心「絶対にフラれない男、西くん」の登場です。
感情を爆発させる彼女に対して、西くんが言い放ったのが「別の視点で考えてみよう」です。
彼女が西くんの束縛に激昂しても、西くんは別の視点で考えてみよう!と、彼の別のペルソナ、もしくは隠れた本質に眼を向けさせます。彼女が西くんにどれだけウンザリしたとしても、別の西くんが顔を出すのです。

脱輪さんはエッセイの冒頭で「愛する者との別れの宿命」を説きます。別れとは出会った瞬間から始まっており、互いの愛が強ければ強いほど別れが辛くなるものだと…。
しかし、彼女がある側面の西くんと別れたとしても、別の西くんと彼女との出会いが再び開始されます。延々とこれを続ければ、別れと出会いは西くんという一人の人物のうちに完結されます。ゆえに、西くんは「絶対にフラれない男」なのです。

「別の視点で考えてみよう」は詭弁のようであり、冷静な思考を促す正論のようでもあります。一体どちらなんだ?西くんのキラーワードは僕たちを幻惑します。人は惑わされれば惑わされるほど、その魅力にハマっていくものです。
西くんはペテンを弄する幻術師なのか、はたまた真理を悟った仏なのか?僕の意見は後者「西くんは悟りを得た仏」です。仏教説話では、蓮の花は濁った泥池の中でこそ美しく咲くと言います。深い苦悩と煩悩の果てにこそ、悟りは開かれるのです。彼女に嫉妬し固執した果てに出た「別の視点から考えてみよう」という西くんのセリフは真理をついた悟りの言葉ではないのでしょうか?

しかしながら、真理をついた言葉は、同時に脱社会的な言説でもあります。真理は社会システムをハックする思想でもあるわけです。西くんの「別の視点から考えてみよう」は打算的な言葉ではなく、かなり本気度の高い信念であるがゆえに、社会の常識に則って生きる僕たちを揺さぶります。信念は時に狂気、そして狂気は我々を魅了する。
西くんの彼女を思う気持ちは「狂気と紙一重の慈悲」です。衆生は赤子であり、仏は母のごとき慈悲でもって衆生を救済します。西くんは彼女を繋ぎ止めようとする赤子でありながら、同時に彼女を救済する仏でもあります。悩める一人の人間でありながら仏道に至ることは狂気の賜物かもしれません。

以上が「僕の視点から見てみた西くん」です。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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