英語弁論審査のTips: 評価基準の内部化と外部化
長年、ライフワークの一つとして英語弁論大会の審査員を務めてきて強く感じることがあります。それは、優れたスピーチ技術を持つことと、スピーチの本質を理解し、どのように評価すべきかを知ることは、必ずしも一致しないということです。美味しいカレーを作れる人が材料やレシピを熟知しているのは自然なことですが、巧みなスピーチをする人が、そのスピーチを何が成功させているのか、その要素を明確に言語化できない場合が少なくありません。
このような状況が審査において問題となるのは、スピーチの「良し悪し」を評価すべき客観的な要素が、審査員の主観的な好みや感情に左右されがちであることです。これはネイティブスピーカーであろうと大学教授であろうと、立場や肩書きを問わず現実的に生じている現象です。
この主観的な評価は、スピーチの内容やパフォーマンスそのものを正しく評価できないばかりか、スピーカーに不公平な結果をもたらすことになります。特に私が違和感を覚えるのは、このような主観的な判断が、審査の過程でしばしば「当然のこと」として受け入れられている現状です。
審査基準の内部化と外部化
大会には審査用紙に明示された審査基準が用意されています。しかし、問題となるのは、審査員がその基準をどのように解釈し、具体的にどの点で得点をつけているかが明確でない場合です。審査員が基準を自分の主観に基づいて解釈し、採点してしまうことは「審査基準の内部化」と呼ぶべき状態です。この「内部化」が進むと、公平な評価ができず、スピーカーに不利益を与えることがあります。
例えば、スピーチの「Originality(独創性)」に対する評価が、「自分が以前に見たことがあるかどうか」によって左右されたとします。このような評価は、審査員の経験に過度に依存しており、基準が曖昧なまま主観的な判断が行われた典型的な「内部化」のケースです。
審査基準は、明確化・客観化され、「外部化」されるべきです。外部化とは、審査基準を言語化し、誰もが理解できる形で示すこと、そしてその基準に忠実であることを意味します。審査員は、基準に対する自分の解釈を超え、各要素を多角的な視点から評価する必要があります。
公平な審査のために
審査基準を「外部化」するためには、審査員が基準を単に理解するだけでなく、実際の審査にどのように適用するかについても研鑽を積む必要があります。スピーチの「Content」、「Delivery」などに内包する各項目について具体的な基準を持ち、その基準に沿った形で採点することが求められます。
評価が主観に頼ることなく、基準に基づいた公平な審査を行うことこそ、スピーカーが正当な評価を受けるために必要不可欠です。審査員は、自らの判断がどのように形成されているのかを常に振り返り、より公正で透明性のある審査を目指していくべきでしょう。
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