婚姻契約書の利用促進について

 現行の憲法では、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」すると規定されており(憲法第24条第1項)、婚姻の法律関係は男女間を前提に設計されている。これは、憲法が制定された昭和22年当時では当然のことだったと考えられ、この規定は、家族の身分関係に対する同意権等の戸主権を否定し、自己の意に反する相手との婚姻を強制されず、婚姻の成立を当事者間の合意だけで成立させることによって、婚姻の自由を保障したものと解されている。すなわち、婚姻を両性(男女間)でのみ成立するものと限定したものではなく、憲法が制定された当時においては、そもそも同性間での婚姻を検討すらしていなかったということである。

 しかし、多様性が進んだ現代社会において、同性間でのパートナーシップは広く認知されていると同時に、地方自治体においては「同性パートナーシップ証明制度」等の独自の制度を導入し、同性間パートナーに対しても、法律婚と同様の対外的効力を持たせようしている。もっとも、対内的な効力すなわち当事者間の法律関係については、未だ法律婚と同等の効力は認められておらず、判例の蓄積が待たれるところである。また、異性間における事実婚(内縁関係)については、判例の蓄積により、法律婚とある程度同等の法的効力が認められるに至ったものの、やはり、法律婚と完全に同等の取扱い(特に相続関係)を受けているとは言えない。

 そこで、このような多様性に対応する形で登場したのが、「婚姻契約書」および「公正証書遺言」(以下、「契約書等」という)の併用である。

 この契約書等は、戸籍上の性別が同性のパートナーや、事実婚を選択したパートナーを法的にサポートすることを前提に、当事者間の関係が破綻したときにおけるパートナー関係の精算や、死別した場合における相続関係に準じた法律関係の形成をサポートすることができる。

 さらに、法律婚を選択した夫婦関係においても、婚姻届とともに婚姻契約書を作成することにより、婚姻中の夫婦関係(家事の分担から納骨埋葬のことまで)を明確にし、円滑な婚姻生活を送るとともに、婚姻関係破綻後における離婚問題(財産分与や夫婦共有財産の帰属等)の早期円滑な解決に役立てることもできる。

 これらの具体的な契約内容については、各夫婦・パートナーに応じて個別に検討する事項であるから、この記事において記載することは割愛するとして、憲法第24条第1項が改正され、婚姻関係の多様性が立法により解決されるまでの間、契約書等を併用することにより、一時的に現代社会における家族関係の多様性について対応すべきであると考える。

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