1960年代前半『ソウル・ミュージック』が社会問題に直接的言及を避けた理由
ソウル・ミュージック【soul music】
1960年代を頂点とする,アメリカ黒人の現代的な大衆音楽。第2次世界大戦直後に興ったリズム・アンド・ブルースが,ゴスペル・ソング,ジャズ,白人のポピュラー音楽などの影響をうけ,ワシントン大行進(1963)に象徴される公民権運動の高まりにも刺激されて,黒人の感性を洗練されたサウンドで表現する音楽形態として発展した。これをそれ以前のリズム・アンド・ブルースと区別して,ソウル・ミュージックと呼ぶ(引用:世界大百科事典 第2版)
『ソウル』という言葉には「アフリカ系アメリカ人の誇りや文化」という意味が込められています
『ソウル・ミュージック』の音楽的特徴は
✅ キャッチーなリズムとハンドクラップ
✅ 即興的な体の動きとリズムの強調
✅ コールアンドレスポンス
『ソウル(ブラック・カルチャー)』がアメリカン・カルチャーになるには白人社会に受入れられる必要がありました
『ソウル・ミュージック』はR&Bの商業化や都市化によって創造された音楽
と言ってもいいかもしれません
モータウン・レコード
1959年1月12日 ミシガン州デトロイトにて誕生したモータウン(最初はタムラ・レコード) 創設者はベリー・ゴーディJr. ジャズ専門のレコード店経営を経て ソングライターなどとして活動していたゴーディが 制作・販売・宣伝・楽曲管理など全てを自社で行うインディペンデントな企業としてスタートした『ソウル・ミュージック』専門のレコード会社
ゴーディの素晴らしさは【抜け目ない環境作り】と言えます
いくら曲が良くても売れるとは限らないので
ゴーディは契約したアーティストに一種の活動方針を守ることを義務づけました
✅衣装はスターらしいものを着る
✅クールなカッコ良さ立ち振る舞い・所作・マナーも教え込む
✅ダンスの振り付けやステージ演出の指導もされる
<品質管理の徹底>
自働車を製造するための様々な工程と同じように「コンセプト」「デザイン」「設計」「試作」「製造」「試験」「生産管理」「品質管理」「販売」「公告」などの部門が流れ作業のようにレコード制作していき それぞれの分野の専門性追求において人種や性別に関わりなく雇い入れたこと
<ソングライター・チーム制>
ヒット曲を競い合うソングライター&プロデユーサーのチーム体制確立
ボブ・ディランに「アメリカが生んだ最高の詩人」と言わしめたスモーキー・ロビンソン
エディ・ホランド=ラモン・ドジャー=ブライアン・ホランド(H=D=H)などのソングラーター・チーム
<ハウス・バンド>
ソングライター・チームが生み出した曲を「ファンキー」なノリを付け加えるスタジオ・ミュージシャン【ファンク・ブラザース】
人種を超えて幅広い層に親しまれ 白人への迎合との批判もありましたが 「The Sound Of Young America」をモットーとして「Hitsville USA」という愛称でも親しまれ 軽やかで弾むようなビートと口ずさみたくなるメロディで若者に向けたポップな楽曲を送り出し音楽界に強い影響を及ぼしました
<所属アーティスト>
ジャッキー・ウイルソン スモーキー・ロビンソン&ミラクルズ ジミー・ラフィン テンプテーションズ フォー・トップス ジャクソン・ファイブ マービン・ゲイ メアリー・ウェルズ スプリームス マーサ&ヴァンデラス マーヴェレッツ グラディス・ナイト&ピップス
スタックス・レコード
1959年に当時銀行員であったジム・スチュワート(Jim Stewart)がメンフィスにサテライト・レーベルを設立。その後エステル・アクストン(Estelle Axton)との共同経営へと移り 2人の最初の(STewartとAXton)2文字を取りSTAXとし1961年から本格的スタートしたレコード・レーベル
当時としては珍しく(特にメンフィスのような南部では)経営陣・アーティスト・スタジオミュージシャンが 白人と黒人の混成チームで構成されていました
<ハウス・バンド>
Booker T and The M.G.'s (黒人・白人混成バンド)
スタックスのみならず 配給会社であるアトランティック(ATLANTIC)の所属アーティストのレコーディングにも参加
1967年にアトランティクがワーナー・ブラザースに買収されたことで スタックスは独立レーベルとして新たなゼロからの再スタート(60年代に発売した曲の権利はすべて買収先へ)~1975年破産申請
<所属アーティスト(サテライト&アトランティック含む)>
ルーファス・トーマス アイザック・ヘイズ エディ・フロイド オーティス・レディング ウィルソン・ピケット サム&デイヴ ジョニー・テイラー カーラ・トーマス メイヴィス・スティプルズ
社会問題への直接的言及を避けた理由
『モータウン』のベリー・ゴーディが考えたのは?
黒人社会の窮状を明らかにすることではなく 白人にも受け入れられる黒人音楽を創り出すことで人種を融合するクロスオーバーを実現でき 黒人の社会での発言力を向上させる現実的な方法
「社会問題には直接的に言及しない」という弱腰とも思える方針は 黒人のアイデンティティを強調する立場の人からは当然批判されました
しかし ここはスモーキー・ロビンソンが上手に説明しています
「自分は黒人であることを誇りに思っている、それは確かだが、ステージはそのことについて説教する場所ではないと思う。」
商業的に成功したいと頑張っているソウル・シンガーたちの目標は?
黒人をターゲットにした【R&Bチャート(レイス)】でヒットするだけでなく 白人をターゲットにした【ポップ・チャート】でもヒットして『アメリカン・ミュージック』としてのスターになること
目に見える政治的な行動をとることで キャリアを脅かすようなリスクを冒すことは避けたのでしょう
1964年の公民権法制定以前は 白人(大学生・文化人・知識人)が一緒になって運動を支えて 音楽は 商業主義ではない政治的なメッセージを込めることができるフォーク・ミュージックでした
『モータウン』が 公民権運動の黒人団体に資金援助を行った形跡は一つもありません
あえて言えば マーティン・ルーサー・キング牧師の有名な「I have a dream」演説を収めたアルバムを発売したくらいでしょう
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