地方議会に潜むHPVワクチンに疑問を投げかける議員の存在

 茨城県では、5月25日に県保健福祉部疾病対策課長から各市町村保健衛生主管課長宛に「子宮頸がんワクチン接種に関する情報提供について」と題する文書を発出し、接種対象者とその保護者に対し、接種について検討・判断ができるよう個別送付による情報提供を行うよう求めました。10月9日に厚労省健康局長は各都道府県知事宛に対象者や保護者に対して個別に情報提供することを徹底するよう求める通知を出しましたが、茨城県の動きはそれを待つことなく行ったもので、全国でも先駆的な動きで称賛に値します。

 茨城県では、つくば市の昨年6月の定例議会でHPVワクチン反対の立場から質問があったことをきっかけに、これに対抗する形で医師、議員、市民からHPVワクチン接種拡大を目指す動きが起こり、県からの文書発出につながりました。県の文書に応じて各自治体の多くが個別通知に踏み切りましたが、私の印象では、県当局も、各市町村当局も、多くはHPVワクチンの接種拡大に必ずしも積極的とまでは言えないように思います。個別通知を求める声に押されて個別通知に踏み切ったものの、反対を唱える声も一方であることから気兼ねしている様子があります。つくば市では反対質問を行った議員とその会派がありますし、ほかの市町村にも同様の声があるようです。そして、県の対応には、県議会にもHPVワクチンを公然と批判する議員がいることによる影響(あるいは忖度)があるかもしれないことがわかりました。
 笠間選挙区選出の県議です。「自己免疫を高める」という次のブログ記事を書いています。

「自己免疫を高める」 | 村上典男オフィシャルブログ「今日も元気で頑張ろう」Powered by Ameba (ameblo.jp)

新型コロナの話から、このウイルスが自然起源なのか、米中を敵対させるのが目的ではないかと疑問を述べ、子宮頸がんワクチンを打った300万人の中で現在も3,000人以上が副反応に苦しんでいると述べた後、「大きな事件や事故、事象に乗じて毒を売ったり、打ちやすくする環境を、作っている勢力がいるような気がしてならない」とまで述べていらっしゃいます。続けて、体温を1度上げれば免疫が30%向上する、基礎体温を上げれば癌予防にもなると、ニセ医学としてよく耳にするお話を紹介してこのブログを締めていらっしゃいます。この方、自民党の県議です。

 県会議員という公職にある方の発言としていかがなものでしょう。このブログはコメントを受け付けていましたので、この県議の選挙区の有権者ではないけれど、茨城県の住民ならば耳を傾けてくれるかもしれないと思い、次の意見を送りました。内容はHPVワクチンについての県議の誤解を解くことに絞りました。

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 こんにちは。県政でのお働き、お疲れ様でございます。つくば市在住の佐々木徹と申します。私は医師でも何でもない一住民に過ぎませんが、子宮頸がん(HPV)ワクチンに触れたこの記事が目に留まり、お願いしたいことがありますので一言申し述べさせていただきます。
 HPVワクチンの接種後に諸症状が現れた皆さんがいらっしゃることはその通りで、十分な治療によって回復があることを私も願っております。しかし300万人以上の接種者のうち現在3,000人以上が副反応で苦しんでいるとする数字の根拠はなんでしょうか。平成27年厚労省資料によれば副反応疑い2,584人の大半が回復しており、未回復者は186名です。名古屋スタディという研究によれば、若い女性には接種の有無に関係なく様々な症状が見られることが報告されており、この186名の方もワクチンによる副反応被害者と断定する根拠はありません。ショッキングな映像がマスコミで繰り返し報道され、社会に恐怖を与え、厚労省は積極的な接種勧奨を控えたことで、現在の接種率は1%未満という状況となっています。諸外国では数10%の接種率が続いて近い将来の子宮頸がん根絶が予想される中、日本だけ取り残されるようなことがあれば、これは国辱ではないでしょうか。
 女性は生涯で1万人当たり132人のかたが子宮頸がんを発症し、30人が亡くなります。一方、ワクチン接種後に諸症状が報告されたのは1万人に9人、その中で重篤とされたものは5人で、その多くも回復しています。比べてみてください。ワクチンが原因とは言い切れない症状を問題視するあまりにはるかに多くの命が失われいく現状を放置していいのでしょうか。子宮頸がんは他の癌に比べて若い世代の発症が多く、幼い子供を残して母親が亡くなるケースは後を絶ちません。多くの産婦人科医が若い女性が苦しみながら命を落とす一方でワクチン接種が進まない現状に憤っていると聞きます。大阪大学の研究では、2000~2003年度生まれの女子のほとんどは接種しないまま対象年齢を越え、将来の罹患者の増加は合計約17,000人、死亡者の増加は合計約4,000人と推定しています。接種が進まなければこの数はさらに増加します。
 状況打開を目指して自民党では細田会長のもと積極的勧奨再開を目指す議員連盟が活動しています。茨城県は2013年の積極的勧奨の差し控え以降、県域全体としては全国に先駆けて本年5月、個別通知を行うよう自治体に求めました。画期的なことです。県議におかれましても、ぜひHPVワクチンの意義をご理解いただき、県民への積極的な接種の呼びかけにその手腕を発揮いただくことを期待申し上げます。
 県内でも県医師会、産婦人科医会などが接種拡大のための啓発に努めていますが、全国レベルでは最近、若手医師たちが現状を憂え、接種拡大のための”みんパピ!”という一大運動をおこしました。2,600万円近い寄付が寄せられ、活動を始めています。こちらのサイトにHPVワクチンに関する科学的でわかりやすい情報が掲載されてますので、県民の皆様への啓発にもお使いいただけると嬉しいです。 「みんパピ!」のサイト 
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 コメントを投稿したのが12月5日でしたが、このブログは開設者の同意がなければコメントは掲示されない仕様となっています。批判的な内容であっても県民との対話を大事にする県議ならお返事とともに掲載してくれる度量をお持ちかと期待したのですが、残念ながら今のところ(12月13日現在)掲載いただけてないようです。

 ワクチンについて疑問を持つ人が一定程度いるのはある意味仕方ないようにも思います。その置かれた環境によって十分な医学的、科学的知識と理解を得ることが難しい方もいるでしょうし、周辺にワクチン接種後に重篤な症状を示した人がいたら副反応と思い込んでしまうことも一概には責められないでしょう。しかし、それを他人に向かって話そうとするならば、それが科学的、医学的に妥当なものなのか、根拠のある話なのか吟味する義務が社会人として生じてくると思います。まして、公人たる議員であるならば、主張が科学的に正しいものか慎重に吟味すべきだし、場合によっては専門家に照会してから発言すべきです。副反応で苦しむ人が今なお3,000人いるといった根拠のないことをブログに書き込んではいけません。ニセ医学と再三指摘されるような言説を何の検討もせず流してはいけません。公人たる議員の根拠のない誤った発言は、一般の人の何万倍もの影響力で社会を誤った方向に導き、場合によっては人の命を脅かすことになります。
 このかたは自民党所属の議員です。公党としてこのような発言を許していいのかという疑問もあります。機会があれば、自民党茨城県連に問い合わせてみることも考えますが、一番いいのは、この議員の選挙区の住民が、県議に対してそれは違うのではないですかと疑問の声を上げて、この議員に自分の考えを検証していただき、改めていただくことかもしれません。私にはこの選挙区に個人的な人脈はなにもないので、これを読んだ方の中から、そうした声をこの議員に届けてくださる方が出てくることを期待します。


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