見出し画像

【人口減少】下りエスカレーターの時代を生き抜く 中小企業の経営


1.下りエスカレーターの時代

消滅可能性自治体発表の衝撃

 4月24日に民間の有識者らで作る「人口戦略会議」が、2050年の
人口予想を発表しました。
 日本全体では、2020年比で▲17.2%減少の1億546万人の見込み。
2020年比で増加するのは、都道府県単位では東京都のみ。最も人口減少が見込まれる秋田県では、▲41.6%の減少という衝撃的な結果です(いずれも移動想定ベース)。
全国1729の自治体のうち、744の自治体が、将来的に消滅の可能性が高い「消滅可能性自治体」として発表されています。

2020年比の2050年の人口比率
【出典】人口戦略会議 「全国1729自治体の持続可能性分析結果リスト」を基に作成 

未曽有の人口減少

 「消滅可能性自治体」という名称も含め議論はあるところでしょうかが、日本の人口は今後急激に減少していく事は間違いありません。
 同じ「人口戦略会議」は2024年に、2100年に8000万人という人口ビジョンを発表しましたが、これは出生率が今より改善する事を前提としています。出生率が今から変わらなかった場合の人口は6300万人。最悪のケースでは、5100万人まで人口が減少する事が同会議のレポートでは記されています。
「人口ビジョン2100」全文はこちら↓
https://www.hit-north.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/02/01_teigen.pdf

【出典】人口戦略会議 「人口ビジョン2100」より抜粋。

下りエスカレーターの要因

 以前別のnoteで、賃上げ+利上げと中小企業経営の変化について、記事を書かせていただきました。

 人口減少も同様に、経営スタイルの変化を迫っています。
賃上げ・利上げ以上にマイナスの影響が懸念されるが、人口減少です。
日本は2008年までは人口が増加傾向にありました。人口が増加している時は、当然ながら経済は成長しやすくなります。かつての中国、今のインドやインドネシア、ナイジェリア等の例はいうまでもないでしょう。
 日本はそれが、逆方向に作用する初めての国になります。これまでが昇りエスカレーターだとしたら、2008年以降は下り方向のエスカレーターに乗って、必死に走っていたようなもの。
 2021年時点の総人口は1億2550万人で、2008年のピーク時の▲2.0%にすぎません。下りエスカレータの速度は更に増していくのです。
 

2.人口減少がもたらす事

市場縮小

 人口が減少するとどのような影響があるか。1つは市場の縮小です。
 ものを買う人自体が少なくなくなる以上、当然市場は縮小します。1人の消費量が伸びる商材は伸びる余地はあるでしょうが、食品や住宅のように
消費できる量に増減がある商材の方が多いのではないでしょうか。
 加えて、日本人の可処分所得はバブル期と比べても落ち込んだ状態にあります。2024年は賃上げに湧きましたが、消費者物価指数も上がっており、足元では円安が急激に進んでいます。このままでは、人口減少以上に日本人の購買力は弱くなる事が予想されます。

採用難

 人口、特に働き手となる生産年齢人口の減少は採用難につながります。
2024年の新卒採用は学生側が有利になってきているとか、人手不足倒産の
ニュースも増えてきています。
 AIやDXが進むと、仕事をするために必要なスキルが上昇する事も考えられます。しばらくは、求職者側の売り手市場は続くのではないでしょうか。
 市場縮小・採用難の影響で、倒産を余儀なくされる企業も更に増える事が
予測されます。

生活エリアの再編

 人口減少によって、地域の生活エリアも変わらざるを得ません。
 ベストセラーにもなった河合雅司さんの、「未来の年表業界大変化」ではサービスが成り立つ自治体(商圏)の規模が業種別の一覧になっています。

 例えば総合スーパーマーケットは、自治体(商圏)の人口が6万2500人だと、存続確率が80%ですが、4万7500人を下回ると50%まで低下します。
 同様に、病院は2万2500人だと80%、1万7500人だと50%。銀行は9500人で80%だったものが、6500人を下回ると50%まで下がります。

 従来その地域の中核となる都市でも、必要とされるサービスが提供できなくなり、結果として商圏の大きさや人の流れが変わる事になるでしょう。

人口減少が迫る経営の転換

 このような逆風に地域の中小企業はどのような対応をしたら良いか。
 今回は4つ紹介をさせていただきます。

 ① 商圏・産業の垣根を超える
 ② 得意な事を突き詰める
 ③ AIとお友達になる
 ④ 1人の人を大切にする。

 順にみていきましょう。

① 商圏・産業の垣根を超える

 前の章で見たように、従来と商圏が変わってきます。小売り、サービス等一定の商圏をターゲットにしたto Cビジネスは、それに応じてエリアを
見直さざるを得ません。

 加えて、●●業といった従来の業種の垣根を超える必要があります。●●業といった産業の区分けは、いわば生産者やそれを管理する行政の都合による
ものだと考えています。
 これに対して、消費者は特定の「モノ」ではなく自分のお困りごとを解決する「解決策」が欲しいわけです。穴とドリルの話は有名ですね。
 今までは穴をあけるのにドリルを使っていましたが、別のもっと良いやり方があればそちらを選ぶでしょう。
 自分達の得意領域で解決できるのであれば、何もこれまでの市場で戦う
必要はなくなるでしょう。

② 得意な事を突き詰める

 消費者が減ってくると、より他社の製品との「違い」を強調し、更に
そこに付加価値を認めていただき、利益率も上げる必要が出てきます。

 他社とは違う付加価値が出る活動=自社の得意とする業務により注力する事が必要になるでしょう。
 アップルの例が有名です。自分たちは得意とするデザインや設計に
注力し、製造はそれを得意とするメーカーに任せる水平分業が勝因で
ある事は知られています。
 こうした動きは既に、地域の中小企業の中でも見られるようになってきました。今後更に加速するのではないでしょうか。

③ AIとお友達になる

 AIを含むデジタル技術は1人あたりの生産性を大きく変えます。人手不足に苦しむ日本企業は本来なら、どの国よりも積極的に取り組むべきでしょう。

 ChatGPTの登場で、AIは中小企業の手が届くようになっています。十分な精度を出すのに必要なサンプル数は10~30くらいで済むようになっています。

 AIとまでいかなくても、無料でできるでデジタルツールを活用する事で、
十分に生産性を改善する事も可能です。
 ZoomやLINE等の音声通話、Slack、Teamsといったチャットツールを活用することで、従来より遠隔地の業務に対応できるようになった会社も増えてきています。

④ 1人を大事にする

 最後は毛色が少し変わりますが、人口減少によって1人1人の人間との
ご縁の重みが増すと考えています。
 人口が減少することで、1人のお客様に会うためのコストは上昇していきます。そうなると、出会えた1人のお客様に満足を頂く事。1度の関係ではなく、複数回取引を頂く事。紹介・クチコミでご縁を広げていただく事の重要性が大きくなるでしょう。
 いい加減な取引・対応は命取りになってくるはずです。

 同じ事が社員に対しても言えるでしょう。
 採用が難しくなる以上、社員満足度を上げないと、退職・引き抜きの
リスクが高まります。一緒に仕事をするご縁のあった方が、活躍して、給与もあがって、仕事からも満足感を得られるような環境を作る事が、次の社員の紹介にもつながります。 

4.終わりに

 人口は予測の中で最も確度が高いと言われます。
 残念ながら、日本は今後人口大幅減少の下りエスカレーターの時代を、
世界で初めて迎える事になってしまいました。

 難しい要素が多いですが、悲観ばかりではありません。
 市場・商圏を再定義できるという事は、早めに動く事ができる企業に
とってはチャンスでもあります。
 このチャンスを生かして、次の世代に良い日本を残したいという経営者が
まだ存在しています。
 
 意欲のある企業・経営者の方達と一緒に、新たなスタンダードを作る
お手伝いができればと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?