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【2023アイスホッケー女子世界選手権】第4戦「スイスvs日本」レポート


試合前、円陣を組むスマイルジャパン

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

IIHF女子世界選手権トップディビジョン 
会場:CAAセンター(カナダ・ブロンプトン)
グループA予選リーグ 第4戦(現地4/10 15:00FaceOff. )

日本 3(2-0、1-2、0-2)4 スイス
ショットオンゴール:日本22 スイス28

限りなく勝利に迫るも見えた課題。「どう勝ち切る」か?

「勝つこと」と「勝ち切ること」、の境目。そこにはまだまだ深い溝がある。そう感じざるを得ないゲームだった。

日本は第1ピリオドに2点をリードし、ここ数年のスイスとの対戦を見ても最高の立ち上がりを見せた。
しかし第2ピリオドに連続失点で崩れて同点に追いつかれ、その後に1点をリードしたものの、第3ピリオドにまたスイスのエース級2人に大活躍を許し2失点。まさかの逆転負けを喫した。
内容的にはかなり上々の出来だったために、この敗戦は本当に悔しい。しかしながらポジティブな面もネガティブな面も多々見えた試合。準々決勝に向けての課題が洗い出せた内容だったとみて良いだろう。

フォアチェックが効き、対スイス戦過去最高の滑り出し

試合はいきなりスイスの猛攻から始まった。フェイスオフからパックを日本ゴール前に運ぶとシュートをたて続けに放つ。2回目のチャンスではパックがゴールポストを叩く音すら聞こえてヒヤッとさせられたが、今大会初先発となった川口莉子(かわぐちりこ/Daishin)が落ち着いてスイスの攻撃に対応。スイスの攻勢をしっかり跳ね返したことで、日本に流れを取り戻す。

試合開始直後の猛攻を防ぐ日本DF

すると今度は日本が相手のアタッキングゾーンで長い時間攻め続けるシーンが多くなり、スイスゴールを脅かす。

そして6分過ぎに待望の瞬間が。
人里(旧姓:床)亜矢可(ひとさとあやか/Linköping(SWE))が右サイドボード際で縦に妹の床秦留可(とこはるか/Linköping(SWE))にパスを送ると床(秦)身体をくるりと反転させてDFのマークを引き剥がし、ゴール前へ切り込んで横パス。それを逆サイドで待ち構えていた小山玲弥(こやまれみ/SEIBUプリンセスラビッツ)が押し込んで先制点。
積極的に前へと動く小山の動きとパスを供給する床(秦)のセンスがパズルの組み合わせのようにガッチリ噛み合い、ディフェンスのフォローも機能して、氷上の5人が連動して相手を崩しきった素晴らしい先制点だった。

日本が幸先良く小山のゴールで先制

さらに勢いそのままに、日本は11分21秒に追加点。その前に得たパワープレーの2分間が終わろうかというタイミングで、こちらも積極的にフォアチェックをかけて前へ前へとぐいぐい進んで行くタイプの永野元佳乃(えのもとよしの/SEIBUプリンセスラビッツ)が決めた。

積極的にフォアチェックを仕掛ける永野元

まずは浮田留衣(うきたるい/Daishin)がシュート、そのリバウンドをGKの目の前で対峙して張っていた伊藤麻琴(いとうまこと/Daishin)が後ろに目がついているかのような見事なバックパスを出したところで勝負あり。そのパスを永野元が綺麗に相手マークを背負いながらも決めて日本は2-0とスイスを突き放す。

日本の2点目を決めて笑顔を見せる永野元(中央16番)

第1ピリオドは連動性にあふれる攻撃を見せた日本の選手たちが躍動。この上もない形で20分を戦いきった。

 強烈なスイスの反撃

ところが、スイスも黙ってやられるばかりではなかった。6分32秒、ゴール正面でLara CHRISTENが思い切って強いシュート。それに対して川口がブロッカーで弾いたもののが、その弾かれたパックがふわりとループシュートのように浮いてゴールマウスへと吸い込まれてしまう。このゴールでスイスが第2ピリオドの前半にして息を吹き返す。


1点目の失点シーン

そこまで守りの形はしっかりとしていたので、慌てずに連続失点を防ぐことができれば試合を落ち着かせることができたはずの日本だが、がぜん攻める気を取り戻したスイスは個人技で同点弾を強奪する。
6分53秒、左サイドでディフェンスのマークを外したNicole VALLARIOがGKと1対1となるやいなや強烈なシュート。これがレーザービームのような正確さでクロスバーの下ギリギリを射ぬいてキーパーも反応できず。短い時間帯での連続失点という、やってはいけないことを日本は許してしまい、試合は2-2の同点となった。

志賀葵のゴールで1点を再びリード。日本踏ん張る


まさかの連続失点でここからバタバタと崩れてしまうこともありえた日本。しかし、同点とされた後にしっかり突き放す、という非常にポジティブな要素を日本が見せたのは14分25秒の攻勢だった。

志賀葵がシュートを放つ
クロスバーで跳ねたパックがスイスGKの背中に当たって
ゴールインの判定

ゴール前にラッシュをかけてシュートを放ち相手を自陣に押し込むと、ブルーライン左サイドの志賀紅音(しがあかね/TOYOTAシグナス)から逆サイドの右ボード際で構えていたDF志賀葵(しがあおい/TOYOTAシグナス)へ。志賀葵が思い切ってシュートを放つと、GKがグラブに当てて防ごうとしたパックがふわりと浮いてクロスバーにあたり、さらに跳ね返ったパックがキーパーの背中に当たってころころと転がりゴールへ。日本の1失点目をそのまんまお返しするかのような志賀葵のゴールで再び日本がリードした。

警戒していたが……スイスのツインエースが襲いかかる

スイスに対して久々の勝利をつかむためにあと少しのところまで迫った日本。同点にされた直後にしっかり勝ち越せたのは力を付けている証拠。ところが、ここからまた試合の流れが逆流する。

スイスのツインエース。MULLER(左)とSTALDER

その原動力はスイスの攻撃の中核を担うAlina MULLERとキャプテンLara STALDERという過去にも日本を苦しめてきた2人が持つ「個の力」。
「日本の足が止まった、というよりは相手が動きの量と質を上げてきて押し切られた」と飯塚監督が試合後振り返ったように、第3ピリオドはその2人がチームを鼓舞するかのように活動量を上げて日本から主導権を奪う。
7分54秒には縦に突進したMULLERがDFのマークを振り払ってシュートを放ちこれが同点弾。

10分53秒にはさらに同じような形で自陣から突進したMULLERがミドルシュートを打つとゴール前でSTALDERがスティックで方向を変えてゴール。突進からの強烈なシュートを武器にこの時間帯はMULLERのまさに独壇場。3-4となり、ついに日本はスイスに逆転を許す。

スイスの逆転ゴール

対する日本も気持ちは切らさずに残された10分間で攻撃を仕掛け、何度か良いチャンスを作るも相手の堅い守りに跳ね返されてしまう。

最後は6人攻撃でエンプティネットゴールを許すリスクを背負いながらもスイスゴールに迫り、あわや同点ゴールか、というシーンも演出したが最終的には3-4と1点ビハインドのまま試合終了。日本のファンが待ち望んでいた、スイスを相手にしての勝利はひとまずお預けとなってしまった。

残り5秒、日本はギリギリまでゴールに迫ったが届かず

「若さなのか、経験不足なのか……」

 試合の前に「7番(STALDER)と25番(MULLER)にいかに仕事をさせないかがカギ」と飯塚祐司監督は語っていたが、残念ながら第3ピリオドという要所でその2人の活躍を許してしまった。
「第1ピリオドは2人とも良い形で抑えることができていたが、連続失点で彼女たちの息を吹きかえさせてしまった。個の力があり攻撃の起点となるので警戒してはいたが……」(飯塚監督)
もし次に対戦することがあれば、やはりこの2人をいかにして日本のディフェンスが止められるかが最大のポイントだろう。スピード、身体の強さ、シュート力を兼ね備え1枚抜けている印象のある2人をどんな戦術を駆使してでも抑えないと厄介なのは確かだ。逆に言えば2人を抑えきることができればそれが勝利へと直結する。

この2人に仕事をさせてしまった反省を次こそはいかしたい

日本は2015年に行われた世界選手権トップディビジョンのスウェーデン・マルメ大会で対戦し0-3で敗れた。その試合から数えるとオリンピックも含めてスイスとは今回4度目の対戦となったが、なぜか勝てない。

メンバーも若返り、新たな攻撃の厚みを生み出しつつあるスマイルジャパン。ここまで格上だったスイスに堂々と渡り合い、終始試合をリードしてあと一歩で勝てるという内容を見せてくれたのは進歩だ。
ただ、そこから「勝ちきる」ということについて飯塚監督は「まだまだ若さなのか、経験不足なのか……。実際にこういうゲームはものにしなければならない、先に2点を取れて試合を優位に進めているのだから。そういうところに選手たちもまだどこかに甘さというか、突き詰め切れていない部分があるのかもしれません」と話す。

試合後の両者の表情は対照的だった

最後まであきらめず走りきるという良い意味での伝統は受け継いでほしいが、スイスへの苦手意識は受け継いではもらいたくない。
その呪縛を断ち切るために必要なものは何か、選手もスタッフももう気づいているはず。
つぎこそはその成果を披露して、「きっちり勝ちきる試合」にするしかメダルへの道は開けない。

ポタやんです。基本的にはライター&編集者ですが、最近は映像制作も精力的に行っています。現在アイスホッケー&アイスクロス情報サイト「IcePressJapan」を運営中。冬スポーツ色々を盛り上げるべく頑張ります!