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女子アイスホッケー『スマイルジャパン』の原点。上海の涙、ポプラトの笑顔。

アイスホッケー女子日本代表『スマイルジャパン』は2/6に北京オリンピックで中国と対戦します。

中国女子アイスホッケーは10年以上前は世界でも上位のチームでした。
中国は2010年のバンクーバーオリンピックに出場を果たすのですが、その時の最終予選で最大のライバルは日本でした。

14年前、急成長の女子日本代表に立ちはだかった「赤い壁」

日本は2008年2月に飯塚祐司監督が就任。チーム強化に着手します。
その時のチーム作りのコンセプトは、『ボディチェックであたり負けない身体と最後まで走り負けない走力を身につけること』でした。
各個人の判断に任せられていた、筋力トレーニングなどの目標数値をチームで共有。定期的に強化合宿でチームが集合して練習するようになったのもこの頃がはじまりでした。その効果は徐々に現れます。

春に中国・ハルビンで行われた女子世界選手権で中国に勝ち、9チーム中7位の成績で世界選手権トップディビジョン(1部)初の残留を果たします。

そして迎えたのが、2008年11月に中国・上海で開催された最終予選。
日本はチェコに3-2、ノルウェーに3-1と勝ち進み、最終戦で当時一番格上であった中国に挑みました。

その時のメンバーには、「天才高校生現る」というふれ込みで大澤ちほ選手が初の代表メンバー入り。気合いの入った坊主頭で中国と対戦しています。
鈴木世奈選手もめきめきとDFとして頭角を現していた時期でした。

当時の日本代表は、トレーニングの成果を見せて体力面では中国と互角以上に戦いました。しかし、そこから先の戦術面を熟成する時間はなかった。
そのためか、要所で中国にゴールを決められ0-2の僅差で敗れます。

氷の上にバタバタと崩れる白のユニフォーム

死闘でした。
喜ぶ中国選手の隣で、次々と氷上に崩れ落ちる選手たち。
ホテルに戻っても誰もが涙を流していて、彼女たちのすすり泣く声しか聞こえないなか、アイスホッケー連盟の当時の会長が「本当にお疲れ様。さあ、こっちに美味しいご飯、用意したから。食べて、元気出して」と励ますも、誰ひとり反応しないで泣き続けたまま。

オリンピックに懸ける選手の思いというのはこれほどまでに強く、熱く、重いものだと心に刻まれたシーンでした。

その最終予選では、日本チームに対する妨害もあったと聞きます。
例えば、
練習中に終了時間で無いのに突然電気を消され係員から出て行けと言われた、とか、たまたま近くで練習していた男子クラブチームが見かねてリンクの使用を譲ってくれたらそれは許されなかった……とか。
まあ10年以上前の話ですが。

最終予選を終え、日本に帰国し、チームが解散したのが羽田空港の業務用の小さな駐車場でした。
冷たい風が吹きすさんでいました。
その時、言って良いかどうか……非常に迷いながら、筆者が飯塚監督にかけさせて頂いた言葉はいまだに忘れていません。

「あの試合」があるからこそ。今がある。大澤ちほが受け継ぐもの

あの敗戦のあと、日本代表はその悔しさを糧にして本当に強くなりました。
代表を目指す選手は言われずとも普段から体力強化に務めるのは当たり前になりましたし、チーム内のポジション争いも激しくなりました。

そして2013年2月。スロバキア・ポプラトで行われたソチオリンピックの最終予選で女子日本代表は遂に大輪の花を咲かせます。最終戦でデンマークに5-0で快勝して予選を突破。最終予選で勝ってオリンピックに出るのは初めてのことでした。

寂しかった羽田空港のときとは一転。成田空港に凱旋したチームを迎えたのは大勢の報道陣とテレビカメラ。
そしてオリンピック出場権獲得を報告する記者会見でマイクを取った大澤ちほキャプテンは、「私たちアイスホッケー日本代表チームの愛称は『スマイルジャパン』を希望します」とはっきり宣言しました。
↓その理由はこちらの記事をご覧下さい。

上海での最終予選のとき、大粒の涙を流す先輩達の横で、歯を食いしばって泣くのを耐えていたように見えた大澤選手。
その彼女が笑顔でその愛称を発表したとき、「ああ、本当にこのチームのキャプテンにふさわしいな」と思ったのを覚えています。彼女はキャプテンとして、あの時敗れた先輩達の思いを託されながらこれからも戦って行くのだろう、と。

大澤ちほ選手(左) 2016年3月 女子世界選手権@カナダ・カムループス

飯塚監督へもう一度伝えたい「あの言葉」

上海で日本が敗れた最終予選から14年の時が経ちました。
2022年2月6日、『スマイルジャパン』は北京の地で中国と対戦します。

100%以上の力を出して、中国にぶつかってほしい。勝ってほしい。

そして『スマイルジャパン』が勝ったら、静かに北京の方角へ向かい、
寒風吹きすさむ羽田空港の駐車場で飯塚監督に伝えた「あの言葉」をもう一度、こんどこそ笑顔で言いたいと思います。

「このチームが取り組んで来た強化の方向性は間違っていません。彼女たちは強くなった、と心から思っています」。

あの時の負けが『スマイルジャパン』を作り、今があります。

写真・文/ポタやん(IcePressJapan編集長)

【北京オリンピック 女子アイスホッケー 放送予定】
スマイルジャパンの試合はすべて地上波で放送!
<予選リーグB組>
2月6日17:30- vs中国(TBS)
2月8日17:30- vsチェコ(NHK)

↓より詳しい『スマイルジャパン』&アイスホッケー情報は
 アイスプレスジャパンへ 


ポタやんです。基本的にはライター&編集者ですが、最近は映像制作も精力的に行っています。現在アイスホッケー&アイスクロス情報サイト「IcePressJapan」を運営中。冬スポーツ色々を盛り上げるべく頑張ります!