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盗撮加害者家族の記 06 長い夜

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どんな日を過ごしていようと一日は平等だ。誰にでも平等に訪れるし、誰にでも平等に終わっていく。その長短は単なる主観にすぎない。
その日の夜は、私にとって今までにないほど長かった。

何度も寝返りを打ちながら繰り返し頭を巡るのは『何故』『どうして』だ。
仕事終わりの身体は心身ともに疲弊しきっているはずなのに、眠気が来る気配すらしない。


間違いなく、私が結婚を決めた夫はこの上ない優しさを持った男性だった。
私の職場への送り迎えをデートと呼び、自分が休みの日は笑顔で車を運転してくれた。
私の料理の味が薄い時は「健康にいい」と言い、濃い時は「ご飯がすすむ」と喜んだ。
私が自己嫌悪で落ち込んだ時、「俺はそんなあなたも好きなんだ」と抱きしめてくれた。
私といられる事を「宝くじで10億円当てるよりも幸運」と口にし、隣でいつも私を楽しませてくれた。
半ば押し付けられたかのような自治会の組長を「やらなきゃ他の人が困るから」と笑顔で言う、優しい人だ。
彼といる時間、私は幸せという水が自分に満ちるようだと常々感じていた。


そんな彼が、一体なぜこんなことをしてしまったのだろう。


私に不満があったのだろうか。私では彼を満足させてあげられなかったのだろうか。一緒にいて幸せを感じていたのは私だけで、彼はストレスを貯め続けていたのだろうか。
色々な考えが浮かんでは消える。

何より、なぜ私は気づかなかったのだろうか。

たまたま魔が差して初めてやってしまったところを見つかるだなんて、まずない。何度も何度も犯行を繰り返し、今回捕まったのだろう。

生理的な嫌悪感が胃液を喉元まで上げる。それは夫を愛しているかどうかとは別に、女性として許容できる行為ではなかった。

私の知っている彼と、盗撮をした彼がどうしてもイコールで繋がらない。だが、夫が犯罪を犯したという事実は消えない。


夫は、この夜をどんな風に過ごしているのだろう。
繊細なところのある人だ。きっと私と同じく眠れぬ夜を過ごしているに違いない。彼がどんな気持ちでいるのだろうと思うと、心が潰れそうだった。

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