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投資家兼ファイナンシャルプランナーからみる年金の繰り下げ受給

 

年金制度には年金の受給開始年齢を遅らせることで、年金額を84%増やせる「繰り下げ受給」がある。

 年金受給の繰り下げは1カ月単位で遅らせることができるため、年金の受給を65歳から70歳まで繰り下げることで、1カ月ごとに0.7%増額でき、5年間で年金額を42%増やすことができる。繰り下げ受給の上限は、2022年4月1日以降75歳までに引き上げられたため、最大75歳まで、84%増額することが可能となる。
 しかし、だれにとってもメリットがあるかと考えると、難しいと感じるところだ。
 

繰り下げ受給のメリット

 まずは年金の繰り下げ受給のメリットだが、当然年金額が増えることにある。増額された年金額を一生続けてもらえるため、長い老後を過ごすうえでは頼もしいメリットだ。長生きなのに老後資金は少ないとあれば、大抵の人は死ぬまでお金に悩まされる人生になる。少ない年金でも増やせるものなら増やしたい。
 もう一点は増額率が大きい点だろう。ファイナンシャルプランナーで実際に投資家でもある方なら人に説明することもあるだろうから理解できるかもしれない。100%間違いなく、1カ月ごとに0.7%、1年間で8.4%増額する投資商品なんてものは現在は存在しない。詐欺商品と思えるような利回りは魅力のひとつだろう。例えば100万円を所持していたら、1年後に108.4万円を確実に受け取れるようになる。
 老後資金のために退職金を株式で運用しようとして失敗した、という話を聞くが、退職金を少しずつ切り崩しながら年金を繰り下げる方が確実なのだ。 

繰り下げ受給のデメリット

 一方、繰り下げ受給でのデメリット、というより注意点がいくつかある。
 
1.手取り額は額面と同じ割合では増えない
2.遺族厚生年金は増額にならない
3.加給年金が受け取れない
 
 年金額が増えると、税金や社会保険料(国民健康保険料、介護保険料)も増えるため、手取り額でみると額面と同じ割合では増えない。年金は収入として通常、雑所得という扱いになる。年金を受け取ると公的年金等控除額を差し引いて、残額分に課税される。残額が増えると税金が増えるため、額面と同じ割合では増えなくなる。

 また、夫が繰り下げ受給をして年金額が増えても、夫の死亡後に妻が受け取る遺族厚生年金は増額にならない(妻が受け取る遺族厚生年金は夫65歳時の年金額を基に計算される)。ちなみに夫と妻が逆の立場でも同じである。

 そして、妻が年下の場合、夫が加給年金を受け取れるが、夫が繰り下げ受給すると、加給年金が受け取れない。(注:老齢厚生年金のみで老齢基礎年金は繰り下げ可能)

 さらに、繰り下げ受給時の損益分岐点の考え方がある。通常の65歳で受給開始と比較する。5年間繰り下げした70歳受給開始、10年間繰り下げした75歳受給開始で総受け取り額が65歳受取額を超える年齢を試算すると以下になる。
 
65歳受給開始の人と比較
・70歳受給開始の損益分岐点は81歳
・75歳受給開始の損益分岐点は86歳
 
同様に70歳、75歳で受給開始と比較する。
70歳受給開始の人と比較
・75歳受給開始の損益分岐点は91歳
 

男の平均寿命は81.47年、女の平均寿命は87.57年


(2021年分の平均寿命と平均余命が記載された令和3年簡易生命表:2022年厚生労働省)

のため、男性の場合は特に70歳受給開始にするメリットが本当にあるのか、と考えることになる。
 

繰り下げる期間は収入を得る


 年金額が少なく不安という人は、繰り下げ受給は検討に値する。下手な投資商品を購入するより良い。ただし、繰り下げ期間中は、年金以外の収入を得ることが不可欠だし、健康で長生きすることも重要だ。また、生きている間に増額した分のメリットを受け取れるのかといった損得の話もある。
 現役中に資産を作っておき、取り崩しながら繰下げ後の年金受給する日を待つなど、制度をうまく活用しつつ、いろんなシミュレーションをしてみることが大切だ。

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