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顧客満足度90%以上、障がい者支援アバターロボット導入成果【えひめロボティクス障がい者サポートコンソーシアム| 実装報告】

愛媛県内の障がい者のうち、約4割強が肢体不自由者と言われている。さらに特別支援学校卒業生のうち、肢体不自由者の就職率は低く、社会な支援が求められている。そこでアバターロボットを使用して、就労を希望する人が働くことができる地域社会の実現を目指してスタートしたのが「ロボティクスによる障がい者就労サポート事業」。今治市で行われた実装では、特別支援学校の生徒らが、オリィ研究所開発の分身ロボット「OriHime」を遠隔操作し、FC今治が運営するカフェ「里山サロン」で接客就労を行なった。今回のレポートでは、実装の成果とともに今後に向けた考察を行う。

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アバターロボットを通じて就労したい人が働ける社会を実現するプロジェクト

パイロットが遠隔で操作し、来店者がコミュニケーションを図れる

「OriHime」とは、5年で約20倍の国内市場規模になると予測されている自立・協働ロボットの一種で、アバターロボットのジャンルに属する。操作する人間がその場所に行かなくとも、ロボットを遠隔操作することで、様々な体験ができるのが特徴で、障がい者支援をはじめ、リモートワークや高齢者家族とのコミュニケーション、家事代行など様々な領域での活用が期待されている。

一方で、障がい者を取り巻く現状としては、肢体不自由者の就職率は6.2%(※1)に留まり、社会的支援が求められているという課題があった。

そこで今回のプロジェクトでは、県内特別支援学校の「しげのぶ特別支援学校」、「宇和特別支援学校」、及び事業者「株式会社マルク」などと連携し、計6名の肢体不自由者を「OriHime」のパイロット(操作者)として育成、手元のパソコンやタブレットを通して「里山サロン」で遠隔就労する実装を行なった。

(※1)出典:「学校基本統計」(文部科学省)

パイロットの育成と、研修を通した就労意欲の向上を実現

タブレット越しに「OriHime」を操作する、「宇和特別支援学校」のれおさん

カフェ「里山サロン」での遠隔就労に先立ち、まずは2023年10月下旬~翌年1月までパイロットの研修を実施。研修回数はパイロットによって異なるが5~7回に及んだ。お客様への挨拶や接客の流れなど初歩的な研修から始まり、メニュー内容の読み合わせ、12種類ある「OriHime」のモーション(首や手の動き)の操作の仕方などより高度な研修へと移行。研修後半では、オリィ研究所が運営し、全国の外出困難者が働く「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」(東京都日本橋)とつなぎ、同カフェで働く先輩パイロットとともに実践的なトレーニングも行った。

なお、研修前に6名のパイロットたちに実施した事前アンケートでは、接客業務に対して消極的な意見もあったが、研修後のアンケートでは「接客業への意欲が向上した」と全てのパイロットが回答。「現地に行っての接客は難しくても、OriHimeを使えばできるとわかった」「将来への可能性が広がった」など前向きな声が多く寄せられた。

「今治・里山サロンOriHimeカフェ」では顧客満足度92%を達成

3日間の接客就労では9割以上の座席が埋まった

そして迎えた、遠隔就労の実装当日。2024年1月25日(木)、2月1日(木)、2月8日(木)に行われた「今治・里山サロンOriHimeカフェ」では、事前予約&相席制というハードルの高さにも関わらず、3日間で定員72名に対して66名が来場。通常時のカフェ営業に比べて売上も拡大した。

今回の実装成果について、「里山サロン」の飛田文子マネージャーに話を伺った。
「これまで『里山サロン』に来たことのない新たなお客様にも来場いただけました。さらに、当店はセルフサービス形式ですので、通常では店員の接客時間が限られていますが、今回『OriHime』を通してパイロットの方に接客していただいたことで、お客様の店舗への理解促進に繋がったと感じています。また、『OriHime』がフックとなり、相席(初対面)のお客様同士の会話が盛り上がっている様子も見られました。
『里山サロン』は来るだけで誰か、何かのためになる優しい場所を目指して運営していますが、今回の『OriHime』の導入で、そういったコンセプトの醸成にも繋がったと感じています」。

提供メニューの詳しい説明をする「OriHime」

来店されたお客様に来店理由を伺ったところ「以前、テレビ番組で『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』を見たことがあって『OriHime』のファンになったのですが、今回インスタグラムで今治にも『OriHime』がやってくることを知って、今日は県外から駆けつけました」との意見が聞かれた。

実際に「今治・里山サロンOriHimeカフェ」実施後に行われた来場者アンケートでは、回答者65名の中で「里山サロン」を訪れるのが「初めて」と答えた人が77%ともっとも多く、また今治市外から訪れた人も50%と、遠方からも『OriHime』目当てに初めて来店された方が多かったことが分かった。また、「OriHimeとの会話は楽しかったですか?」との質問に対して、84%が「楽しかった」と回答。「やや楽しかった(8%)」を含めると92%の来場者が接客に満足したことになる。

「車椅子でも接客業に就きたい!」夢の実現への第一歩

「OriHimeなら車椅子の僕でも憧れの接客業に挑戦できる」と語ってくれたれおさん

「今治・里山サロンOriHimeカフェ」取材時に、遠隔で接客担当をしてくれた「宇和特別支援学校」2年生のれおさん(17歳)に、就労体験をした感想や将来への思いについてお話を聞かせてもらった。

「パイロットに挑戦しよう思ったきっかけは、去年、特別支援学校の接客技能検定で1級を取ることができたので、このスキルを何かに活かせないかと考えていたからです。そんな時に、『OriHime』を知り、この方法なら車椅子の私もできると思い、挑戦させていただきました。
私自身初めて接客をしたのですが、ロボットのモーションで「いないいないばあ」の動きなどを使うとお子さんたちが笑顔になってくれ、接客業のやりがいを感じました。
僕は普段から車椅子生活ですが、車椅子といったら事務職に就くケースが多いんです。でも、この研修を通してやっぱり接客業が好きだと実感しましたし、今回の経験を今後に活かして、将来は夢である接客業に就きたいなと思っています」。

アバターロボットの課題と今後の展望

今回のプロジェクトのリーダーを務めた「株式会社ノトス」の代表・藤原さん

「今治・里山サロンOriHimeカフェ」での実装結果を通し、見えてきた「アバターロボット」導入先のメリットは以下の通りだ。
・アバターロボットの認知度(ファンの来店など)や目新しさによる売上拡大
・新規顧客(福祉関係者など)へのリーチ
・障がい者雇用による、企業PR(CSR向上)

今回、導入先の「里山サロン」で来店率、顧客満足度ともに高い数値を達成した同プロジェクトだが、一方で今後の課題もあるという。プロジェクトリーダーを務めた「株式会社ノトス」代表の藤原さんに話を伺った。

「課題としては、愛媛県内のパイロット数の確保、アバターロボット導入先の拡大、導入先のマネタイズ向上などが挙げられます。
パイロット数の確保については、今年度は特別支援学校や就労支援施設に通う肢体不自由者に限定していましたが、ほかにも普通学校に通う肢体不自由者や、キーボードやSwitchでの発話が可能な方、また育児や介護で仕事から離れていた在宅勤務の健常者などもパイロットの候補となるかもしれません。
またアバターロボットの導入先としては、飲食店での接客業務だけでなく、行政・金融機関での窓口・案内業務、小売店での案内業務・商品説明、高齢者施設での高齢者の話し相手、観光施設(美術館・博物館)での観光案内や、障がい者の仮装旅行デバイスとしての活用も考えられています」。

また、運用コストの軽減のために県内の福祉団体との連携も検討中だと言う。

最後に、プロジェクトチームの一員でもある愛媛大学教育学部 付属インクルーシブ教育センター長の苅田知則教授は、アバターロボットによる障がい者の社会性の育成について、次のような期待を寄せた。

「今、日本が実現を目指している社会が『Society5.0』です。AIやロボットなどの革新的な技術と人々が融合することで、便利で快適な生活を実現する持続可能な共生社会のことですが、障がいの有無に関わらず質の高い生活が送れるツールとして『アバターロボット』は非常に有効だと思います。
それは単に働く領域や職種が広がるだけではありません。アバターロボットを通じて社会と接点を持ち、コミュニケーションをとることで、集団生活でのライフスキルや生きる力の養成につながります。健常者にも必要とされるいわゆる『社会人基礎力』で、これを学生時代や青年初期に育むことが、人生において大きな意味を持ちます」。

今回のプロジェクトが掲げた「就労を希望する全ての人が働くことができる地域社会の実現へ」。その実現のためには、アバターロボットの流通やマネタイズの問題、何よりも雇用主を含めた社会の意識の変革など幾つかのハードルがあるかもしれない。ただ、アバターロボットによって障がい者の活躍の場が広がり、これまで以上に前向きな人生につながると、間違いなく言えるだろう。

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