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クルーと精霊(作品)

オーストラリアの北の方に、カンガルーがたくさん住んでいた。

ただ、カンガルーはアボリジニーの人達と共にうまく共存していた。それは、アボリジニーの人が動物や自然を敬っていたから。そのたくさんあるカンガルーのグループの中にとりわけ好奇心が旺盛なカンガルーが混じっているグループがあった。

好奇心が旺盛なカンガルーの名前はクルー。まだ、人間でいえば成人前だが、好奇心はとりわけつよくグループの仲間に

「そっちへは行ってはだめだよ。」

と言われている場所にも自分だけで行ってしまうこともしばしば。

ある日、クルーは前から気になっていたある場所へ朝から行きたくなり、うす暗いうちから内緒で1頭でその場所へ向かっていった。

その気になっている場所は水が滾々と湧き上がっており、その湧き上がる水の周りには気が生い茂り、たまにそこで精霊をみることがあるという。その精霊は、その水が湧き上がるオアシスを守るもので湧水が枯れないように人間や動物たちに荒らされないように見守っているのだという。

「僕も精霊に逢えたらいいなぁ。でも、会ったら何を話せばいいんだろう。」

と思いながらそのオアシスへ向かって、ぴょんぴょんと飛び跳ねていった。どのくらい時間がたっただろう。そのオアシスにたどり着くとのどは乾いてカラカラ。クルーはオアシスの水を飲むことにした。水を飲むと力が湧いてきた。水を飲んでいると、ふと近くに気配を感じた。

「あ!精霊だ!」

そう、精霊が近くに立っていたのだ。そして、声をかけられた。

「あなたは、このオアシスを荒らすために来たのですか?」

「違うよ。僕はここのオアシスの話を聞いていて気になっていたから来ただけだよ。お水を飲んで休んだら帰るよ。」

「ならば、良かったです。最近、人間が来ては大量にオアシスの水をタンクに入れて、持ち帰ったりこのオアシスの周りの木を切ったりして、このオアシスは弱ってきてしまっているのです。だから、当分ここのオアシスには、人間を入れるのは禁じようとしていたところでした。」

「そうだったんだ。でもアボリジニーの人達はそういうことはしないはずだよ。僕たちのことも、敬ってくれているし、周りのすべて物に感謝の念を抱いているんだ。だから、アボリジニーの人がもし水に困ってオアシスに来たら、飲ませてあげて欲しいんだ。余分には奪っていく人たちじゃないから大丈夫だよ。」

「わかりました。あなたがそういうならそうしましょう。でも、当分このオアシスは境界を張り私が認めたものでない限り、入らないようにするつもりです。」

と言って、精霊はどこかへ消えていった。

カンガルーのクルーは、少し悲しかったけれどでも仕方がないなと思った。大切なオアシスを荒らしている人間や動物が悪いんだもんね。自分たちのために必要以上に奪おうとする姿勢が今のオアシスの現状を創ってしまったのだから。

クルーは、オアシスの水で満たされたからだで自分の住まいに戻って行った。

そして、カンガルーの仲間にオアシスでの出来事を話し、精霊のいうことを守るように伝えた。この話はカンガルーの仲間には瞬く間に自然と伝わり、そのカンガルーから他の動物たちにも伝わっていた。

その動物たちと話ができる、アボリジニーの人は仲間に精霊の言葉を伝え、信頼できる一部の白人にも伝えたのだった。

その後の話では、あの水が湧き上がるオアシスは徐々に時間をかけ、元の荒らされていない状態に戻るようになったという。

クルーは、またもう少し時間がたったらあのオアシスに行こうと思い心に決めるのだった。

おしまい。



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