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黒いケモノと冒険の旅に出た話 #01 - ナイフの使い手になる -

コンクリートジャングル
現代に生きるぼくらは「見えない自然淘汰」の中で日々冒険を繰り広げている。そんな冒険者である私が今まで生き延びてきた知恵を授けよう。

現代は使い捨ての時代と言われながらも、長く使える良い道具は、人生を共に歩く良き相棒であると言ってもいいだろうと考えている。

人間は火と道具を手にしてから、狩猟道具は飛躍的に発展を遂げてきた。その狩猟道具の中でも小型ナイフは見た目には変化は少ないものの、求められる素養から多くの素材と形状などが試されてきた。機能が充実してくると、強さが求められ、強さが充実してくるとデザイン性が求められ。それらを繰り返しながら融合して「機能美」として昇華する。

飽和状態を迎えると新しい素材に可能性を求めたり、利便性であったり安価に舵を切り始める。手入れが簡単で、スキルを持ち合わせていない人にも、最低限の素材でその場限りの便利を手にできる「使い捨ての時代」の到来だ。

使い捨ての時代では安いものが一番

そういう私も、安い新製品を追い求める気持ちが無い訳ではないが、自分自身が使用する道具を選ぶときは少しぐらい高くても「将来、自分を成長させてくれるもの」を選ぶようにしている。

さらに、スーパーやコンビニでは、すでに切れている食材が、便利な小分けとしてパッケージングされていたりと、自分で狩りをすることも無ければ、自分で何かを切るという機会も極端に減ってきている。


そこで、私はかれこれ10年ぐらい前から、食後のデザートには、お気に入りのまな板とフルーツナイフを使い、季節のフルーツの皮をむき続けてきました。

たとえば、最近、流行りのキャンプを例にするとわかりやすいかもしれない。

キャンブの醍醐味は炎と料理。のんびりした時間の中でも、直火を囲みながら、持ち寄った食材を調理し温かなスープを前にすれば、多少寒い冬でもお腹の中からあたたまる。少し大きめにで、不格好に切られた肉や野菜がワイルドで最高だ。

ところが、
せっかくキャンプに来たのに、お湯を沸かしてカップ麺で済ませたり、時短の便利グッズにばかりに囲まれてしまうと、ちょっと損した気分になってしまうのは私だけだろうか。

自然の中で自分の腕で生き抜く、それがキャンプなのだ。

何も、はじめから釣った魚をさばいて3枚におろせと言っているわけじゃない。せめて、じゃがいもやニンジンぐらいなら皮を剥き、トントントンと切って鍋にぶち込むぐらいはしてみたいのだ。

しかし、若い冒険者が、いざキャンプに行って、買ったばかりの折りたたみフォールディングナイフを開いたりしたら、気分が舞い上がってしまい、食材を切る前に手をざっくり切っちゃったりしてしまうわけですよ。

火をつけなければならない、テントをたてなければならない。のんびりするつもりだったのに、妙に忙しい。日頃、料理になれているような人でも、限られたスペースや使い慣れない道具を使うというのはぎこちなくなってしまいがち。

そこで、私は、果物を相手にナイフの練習しているというわけなのです。

その時、普通に切っても良いのだが、自宅に居ても大自然の雰囲気は味わいたい。雰囲気は大事だと考える私はオリーブの木のまな板を取り出します。

これが不思議なもので、あの木目を見ていると、部屋の中であっても自然を感じるところがGOOD!。切り終えたらさっと水洗いをするわけだが、時々オリーブオイルで磨き上げるとさらにGOOD!
後片付けをしているはずなのに、乾かす為に吊るされたまな板を見ると達成感すら感じられるところがいい。

かくして、
今回の獲物は「リンゴ」
手順としては
1,半分に切断、
2,四分の1に切断
3,種・芯の部位の除去
4,皮むき と手順を踏むことにする


はじめはぎこちなくても怪我をしないように正しい持ち方、正しい刃の向きを確認する。自分に対してもそうではあるが、周囲の仲間にも危険の及ばない動作が必要だ。

獲物を切断する際にナイフの大きさと形状が重要で、
両刃、片刃、厚刃、薄引きなど、ナイフにも多くの種類があるが
今回は果物をカットする際に適したフルーツナイフを使用する。
もちろん、もう一回り大きなペティーナイフや菜切包丁や三徳包丁のような幅広包丁を使用するケースもあるが、駆け出しの冒険者にはフルーツナイフが適当だろう。

まずは切断だ。
リンゴをまな板の上におき、対象物を動かぬように固定して切断をする。スイカ割りの要領で力任せに振り下ろすこともできるが、その際は、周囲の者に危険が及ぶ可能性もあるので、刃が動く先に自分の指が無いよう確認し、垂直に刃を降ろし、まな板の表面で止める。
慎重になることも大切だが、途中で力を抜いて止めたりせず一気に切り分けるのが良いだろう。
ざっくりと説明したが、ざっくりする。
それが切断だ。

つぎに求められられるのは観察眼だ。
相手が動かないリンゴだからといって、舐めてかかってはいけない。
りんごをよく観察すると皮と実の部分、種周辺の芯の部分などそれぞれの部位によって硬さが違うことに気づくだろう。
ときには傷んでいる部位を発見するかもしれない。
当たり前のことかもしれないが、それらの部位の変化を3次元で認識する。
この気付きが大切なのである。

その観察で得られた情報を使ってナイフとりんごの相対する角度を決定する。同じ肉質であってもナイフの角度によって力の入れ具合は変えなくてはならない。逆を返せば、力の入れ具合によってもナイフを変化させなければならない。硬い部位には強い力で垂直に、柔らかい部位に対しては優しい力で浅い角度で入刀するのがポイントだ。


そのコントロールができるようになると削ぎができるので、皮を剥くことができるようになる。よく、リンゴの皮を切断せずに長く剥く競技があるが、皮を薄く削げるということは、身の部分を厚く残す事ができるようになるので、結果として自分の取り分が多くなることにつながるので重要だ。

薄く剥くポイントはいくつかあるが、刃を寝かせることと、刃を動かすのではなく、リンゴを指で送り込んであげることだろう。
その頃合いは、回数を重ね身につけるしかないのだが、そのことを理解するだけでも流血惨事になる確率が下がる。

ここまでの下積みのような作業を何回も繰り返していると、流れ作業の単なるリズムではなく、息合いとか、間合いと言われる境地を気づくことができるだろう。

息合いや間合いができるようになる頃には所作によどみが無くなり、早く剥けるようになる。はじめのうちは3分かかっていた作業が2分、1分と短縮され、効率も上がってくる。細かく考えると10秒かかっていた作業は3秒でできるようになるわけだから、そこに7秒の余裕が生まれ、その余裕が気品となり。

なんという美しいリンゴの皮むきなのだろうと、

見ている人を魅了する品格がそこに生まれるのだ。

もちろん、慣れてきたら小さなスペースの中で、皮を剥くだけじゃなく、ざく切りにしてしたり、イチゴを微塵切りにしてヨーグルトに混ぜたりしていると、ささやかな上達が心を刺激してくれるのです。

そこで、ふと気づくのです。
リンゴの皮むきという、些細なことなんですが、べんりなカット野菜やに慣れてしまうと、本来であれば自分が得られるはずであった経験値や属性値をを毎日誰かに削がれてしまっていたのだ。

同じように使い捨てを止め、同じ道具を使い続けると
道具の良し悪しを見る目や、適切な道具とその使い方が飛躍的に向上し、「心眼」や「見切り」といったスキルが発動するのだ。

妄想もそこまでの域に達すると、
色艶の出てきた道具も劣らず、自分の攻撃力も成長したなと感じるわけです。

しかし、その程度で安心できる世の中ではありません。

次は「桃」や「柿」といった、表面はしっかりとしていても、中がぷるぷるな強敵が私の前に立ちはだかっています。

でも心強い味方。
今まで苦楽をともにしてきた、この「フルーツナイフ」と「オリーブのまな板」さえあれば攻略するのも時間の問題でしょう。

あなたはもう気づいたはずです。
最強の相棒は、自らが生み出すものでもあるのです。

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