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【映画】ポルトガル、夏の終わり【感想】

監督、アイラ・サックス。
脚本、アイラ・サックス&マウリシオ・ザカリーアス

ポルトガルの避暑地シントラーの町のある夏の日。
この夏、女優フランキー(イザベル・ユペール)は親友と家族を呼び寄せる。
そこで過ごすひとときの話。

そこに集った人達にはそれぞれ抱えてる問題があり。

主人公のフランキーは末期癌、余命は6ヶ月くらい(作中内で年内は持たないと告げている)
後に残す夫や、息子を特に気にかけている。

主人公の背景がそれであっても、終活の話とは少し趣きが違います。

夫ジミーは悲嘆にくれているがフランキーの前ではそれを出さない。
ひとり外出した時のみ、ひっそりと哀しみに暮れる。

夫の連れ子の義理の娘シルヴィアは結婚していて娘マヤがひとり。
しかし夫イアンと離婚を考えており模索中。

マヤはそんな両親に不満を隠せない。

フランキーの元夫ミシェル。
彼はフランキー亡き後のジミーが心配らしく、彼を気づかい、そっと様子を観察している。

ミシェルとフランキーの息子のポール。
15歳の初対面時の夏、この避暑地で義姉シルヴィアとセックスしてしまった過去があり、それを引き摺っているのか未だに未婚。
フランキーが親友アイリーンを呼び寄せたのは彼と彼女をくっつける為。
(しかし様々な理由から思惑通りにいかず)

アイリーンは恋人ゲイリーを伴って訪れたが、プロポーズされ狼狽えてしまう。

群像劇といっても非常に淡々としており、各人の問題が浮き彫りにされてゆく展開ではあるけれど、個々へ深く描写することはなくドラマティックな何かがあるわけではないです。

フランキーが自分の死後に残された家族や親友のため采配を振る思惑が描かれるものの、自分の心残りを片付けて安心したいという気持ちからのようでその心の動きは理解が出来る。
(女優という職業柄、自己中心的になりがちではあるけれど)

冒頭にプールのシーンがあり、姪から
「盗撮されるよ」
と言われるも
「いいのよ、見栄えがするから」
と意に介さない。

そしてラストの岬のシーン。
フランキーの希望で皆が一堂に介しても特に何を言う訳でもなく、海に日が沈み始めると早々に踵を返してゆく。

その少し前にマジックアワーの空を背景にフランキーが、こちら側(岬に登ってくる皆の方向)をじっと見つめている長いシーン。

「思惑通りにいかなかったけどまあいいわ」
みたいな何処か清々しい表情。

多分、最後に女優としてみんなの記憶に残る場面を残しておきたかったのではないかなあーと。
あとは愛する人達と、美しい場所の美しい景色を最後に見せて/見ておきたかったという無言のさよならでもあるのかも。
(この後はロンドンに戻ることが示唆されており、余命を考えると「女優としての自分」を演出する機会はこれが最後だと思う)

なので、冒頭から最後までフランキーが女優として存在しておりそれは自分で幕引きをしようとする女優という職業故からか。

彼女は自分の身に試練が降りかかり、心中は様々にあったと思うけれど、みんなの前では尊大だったり、多分ちょっとだけ(何で私が)という仕返しの意地の悪い気持ちもあったりするのかも(息子と義姉との再会の機会をこの場に指定したり、ゲイリーな私的なことを打ち明けると冷ややかになったり)

何も起きない物語ではあるのですが、その何も無さの向こうには自分が逝くという前提があります。

なので個人的には。
死期は自分で決めたいとぼんやりと心の片隅で考えている自分には、形ははっきりしないけれど何かしら心に残る話ではありました。

世界遺産の避暑地なだけあって、どこのシーンもポルトガルのシントラーっていいところだなあ……タイルのモザイク模様も素敵……何気に観光ポイントも盛り込まれてるので、少し観光した気分も味わえたかも。

イザベル・ユペールのファッションが素敵なんですよね、原色使いの鮮やかな紫やオレンジのリゾートドレス。
ジミーの羽織る濃紺のジャケット。

シューベルトの曲が一抹の寂しさを醸していました。

ぼんやりと「体がまだ大丈夫なうちに見納めておきたい」場所を考えながら帰りました。

おしまい。

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