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ウイルスと情報戦争(2) ~台湾の防疫成功と中国共産党の壮絶な欺瞞~

新型コロナウイルスの脅威が世界を覆い、各国が感染防止に苦慮するなか、台湾は抜きん出た成功を収めている。5月6日時点の数字で言うと、台湾当局の公表により確認された感染者数は累計でわずか439人に過ぎず、他国と比べて圧倒的な少なさだ。

台湾のこの数字がいかに驚異であるか、これはたとえば韓国と較べても明らかだろう。韓国もここに来て感染封じ込めにほぼ成功したとして国際社会から賞賛されているが、その韓国でさえ累計の感染者数は1万を超えている。これに対し、台湾は累計の感染者数がわずか439人なのだ。

何故台湾はこれほど見事に感染の封じ込めに成功したのか? 本稿では、まず台湾の稀有な成功の要因を探り、その後は台湾とまったく対照を成す中国共産党の感染対策の壮絶な欺瞞を暴く。読者のなかには、中国当局が公表する感染者や死者の数は実態を反映しておらず、中国の感染状況は公表された数字よりはるかに酷かったのではないかと訝る人は多いだろうし、また最近の経済活動正常化に伴い発生した中国国内の二次感染についても、その真相を知りたいと望む人は少なくないはず。

私は中国民主化を目指す海外の反体制派グループのメンバーと交流があるので、中国本土における感染の実態や中国共産党の宣伝工作について、かなり色々と情報を仕入れている。民主化を目指す主要な活動家たちは、北京にいる党内民主派とも繋がっていて、極秘の内部資料なども入手しているのだ。たとえば3月10日、習近平の武漢入りに際して党中央の宣伝部がどのようなやらせを実行したかについても、後ほど複数のヴィジュアル資料を駆使して党中央によるやらせを解明する詳しい解説をお伝えするつもりだ。

では、まずは台湾の感染封じ込めの要因から見ていこう。

台湾の成功は何よりも政府当局による素晴らしい初動対応の圧倒的速さにあるのだが、これを可能にしたのが中国本土の状況を素早く察知する台湾の情報収集能力だ。以下は、台湾外交部がツイッターから行った投稿である。


昨年の12月31日、台湾の疾病管制局は「武漢で発生したSARSに類似する非典型肺炎は患者が隔離されている状況なので、これは人から人へ感染することを意味する」と世界保健機関への書簡で警告を発したという内容である。台湾当局が事態を察知したのは極めて早い。

当時、中国の武漢では医師の李文亮らが事の深刻さを訴えたものの、彼らは中国共産党の公安によって拘束され、デマゴーグをまき散らしたとして処罰されており、このような中国共産党の隠蔽によって世界の人々は武漢で発生したウイルスが後々自国をも脅威に晒す危険な感染力を持つことを知る由もなく、あまつさえ世界保健機関さえ事態に向き合っていなかったのだ。

ところが、台湾の疾病管制局は武漢で発生した公衆衛生の重大な危機を機敏に察知し、世界保健機関に書簡で警告を送ったのだ。しかし、中国共産党の影響力が濃い世界保健機関は、台湾の警告を無視した。

中国共産党の圧力により、台湾は長らく国際社会から締め出されてきた。2016年に独立志向の強い民進党の蔡英文政権が誕生してからは、世界保健機関へのオブザーバー参加さえ拒否されるようになった。だからこそ台湾は中国共産党のことも世界保健機関のこともまったく信用せず、自らが得た情報から独自の判断で感染防止の策に着手した。

ところで、その台湾はいかにして昨年末に武漢で発生した事態の詳細を察知したのか? 今度はその部分を具体的に見ていこう。天安門事件以降、米国など海外に逃れた反体制派の中国人たちにとっても台湾は希望であり、海外に逃れた反体制派中国人たちは、常に台湾独立派と寄り添ってきた。だから反体制派のメディアは、新型コロナウイルスの感染防止における台湾のすばらしさを盛んに記事にしてきた。4月15日、台湾の感染対策の司令塔である台湾中央感染症指揮センターは記者会見のなかで、昨年末にこのウイルスが人から人へ感染すると警告したことをあらためて説明したのだが、以下はその記者会見の模様を伝える反体制派「禁聞網」の記事だ。


記者会見で発言した疾病管制局の庄人祥の説明によると、昨年末に同局の防疫担当医師の一人がBBSで武漢の状況を知らせる投稿を見つけ、それを即座に報告したそうで、当時記者会見の担当だった羅一鈞は武漢の状況を理解するため奮闘してなかなか眠ることができなかったという。

これが日本のように形式主義を重んじる硬直的な官僚たちだったら、BBSで見つけた投稿に目をつけてそこを手掛かりに中国で発生している事態の真相をネット上で探索するようなことはしない。しかし、台湾は非常に柔軟である。なんといっても台湾のIT担当大臣はかつて凄腕のハッカーとしてひまわり運動に参加した唐鳳だし、そしてまた台湾は常に中国共産党とヴァーチャルな戦時状態にあるので、BBSの投稿も見逃さず、そこを貴重な手がかりにして、事態の真相を必死に探索するのだ。

これで武漢の事態を把握した台湾の疾病管制局は、この急性肺炎が人から人へ感染すると断定し、12月31日、武漢で発生した肺炎の感染が台湾に入るのを阻止するため、海外から台湾にやってくる旅客の検査などの措置が必要だと公布し、それで感染防止の司令塔である中央感染症指揮センターが動くことになる。感染防止のため、いかに台湾の初動が機敏で、早かったか、そのことを端的に物語る。

この中央感染症指揮センターは、2003年にSARSが台湾を襲った時の教訓からできたもので、感染対策のため全権を与えられ、この指揮のもとですべてが動く。

中国本土の状況を迅速に把握する卓越した情報網、そしてSARSという過去の教訓を生かす政治力、いずれも今回台湾が感染封じ込めに成功した重要な要素だが、忘れてはならないのがこの感染症を指す「用語」だ。たとえば、以下は1月27日に台湾総統府の公式サイトが公表したものである。


1月27日、つまり中国共産党が武漢をはじめ各都市の封鎖に踏み切った春節の時期で、世界各国は大規模な封鎖が実行された中国の様子に騒然となった。しかし、台湾政府は泰然自若としていたのだ。見れば解る通り、見出しに「總統:武漢肺炎政府已經做好準備 大家不需要恐慌」という言葉がある。これは総統の蔡英文のコメントで、「武漢肺炎について政府は既に良い準備ができているから、皆さんはパニックになる必要はありません」という意味だ。

台湾政府は年末の時点で武漢肺炎の状況を把握して感染防止のため良い準備ができている、だから皆さんはパニックにならず安心してくださいと説く蔡英文。その自信たるや瞠目すべきことだが、注目すべきは「武漢肺炎」という用語である。

特異な感染症に関して、通常はそれが発生した国名ないしは地名をウイルスや病気の名前にするのが一般的で、古くは「日本脳炎」などがあり、近年では「エボラ出血熱」「ジカ熱」「ノロウイルス」などが挙がられ、おととしから中国を襲った「アフリカ豚コレラ」もそうだ。

ところが、今回武漢で発生した感染症に関して言うと、日本では「新型コロナウイルス」という名前が専ら使われている。米国では単に「コロナウイルス」だ。しかし、これは特定のウイルスや病気を指す固有名ではない。そのせいか、今回の感染症について、これだけ危険なウイルスであるにも関わらず、1月や2月の時点では「風邪と変わらない」という意見も多く見られた。

しかし台湾では、総統の蔡英文がはっきり「武漢肺炎」と呼んでいる。

もちろん、武漢で発生した新型肺炎なのだから「武漢肺炎」と呼ぶのは本来当たり前のことで、武漢発の非常に特異な肺炎という意味が込められている。台湾総統府ははっきり「武漢肺炎」と呼び、この感染症の危険性を明確に示してきたのだ。ところが、それ以外の世界各国では中国共産党に配慮して「武漢」という固有名を避け、「新型コロナウイルス」とか「コロナウイルス」というただの風邪でも通じてしまう呼び名を使う過ちを犯してきた。感染防止の初動において、これは明らかに間違いだった。台湾のようにちゃんと危険性を伝える固有名を使えば、風邪と同じだという認識が流布することはなかったのだ(もっとも、いまとなってはもう遅いが)。

なお、「武漢肺炎」という用語を使うのは台湾の政府やメディアだけでなく、中国民主化を目指す反体制派中国人のグループも同様だ。その最たる例として、楊建利がツイッターで行った投稿を取り上げよう。楊建利はかつて劉暁波のノーベル平和賞受賞に際し、獄中の劉暁波の代理としてオスロでの式典に赴いた名士で、公民力量という政治団体を組織し、中国民主化運動のリーダー的な存在である。以下は、楊建利が世界保健機関局長のテドロスに辞任を求めるため行ったツイートだ。


このツイートの下段に「武汉肺炎」とあるのが読めるであろう(「武汉」は「武漢」の簡体字である)。ここで楊建利は「世界保健機関は無能で不徳で恥知らずな中国共産党を幇助し、のみならず世界保健機関は中国共産党にあらん限りのおべっかと媚びを売り、そのことで世界保健機関は国際社会が武漢肺炎の感染を防止するための最適な時期を遅らせた」として世界保健機関を強烈に批判し、テドロスの辞任要求のオンライン署名を呼び掛けたのだ。

世界保健機関の初動対応がいかに酷かったか? たとえば世界保健機関は1月14日においてもなお、中国当局の調査によるとこのコロナウイルスが人から人へ感染するという明確な証拠はないと表明している。台湾の警告を無視するのも甚だしい。


楊建利の公民力量で副主席を務める韓連潮は、世界保健機関のこのような姿勢は歴史的恥辱だと強烈批判している。


世界保健機関は中国共産党の傀儡と堕してしまい、感染発生における初動対応は実に酷く、国際社会が公衆衛生の危機を防ぐという役目をまったく果たせなかった。楊建利や韓連潮が強烈批判するのも当然だろう。

そんななか、唯一見事な対応をして感染防止をほぼ完璧に実現したのが世界保健機関から排除されてきた台湾だった。これほど巨大な皮肉もないだろう。

国際機関においていかに中国共産党の影響力が大きいか、台湾はそのことを熟知しているからこそ、今回の新型コロナウイルスの発生に際しても台湾は世界保健機関から完全に独立して思考し、台湾独自の情報網で武漢の状況を察知して、圧倒的な初動対応の速さにより、中央感染症指揮センターの指揮のもとで見事な対策を実行できたのである。

さて、その台湾では4月8日、大手紙の「自由時報」が以下のような記事を掲載している。見れば解る通り、「武漢肺炎≫復刻天安門事件?」という見出しが読めるはず。


武漢肺炎が天安門事件の復刻? どういうことか? 天安門事件といえば、大虐殺により多くの人が無残にも亡くなったのに、しかし中国共産党はその死者の数を過度に過小評価し、真実の死者数を徹底して隠蔽し、のみならず世界各国に対して欺瞞に満ちた大外宣を行ってきた。あれと同じことが今回の武漢肺炎でも行われているとこの記事は説いている。

中共正運用1949年毛澤東時期贏得國共內戰的做法,以《孫子兵法》的欺瞞、狡詐、作弊對外打宣傳戰,就像1989年天安門事件一樣,這次病毒的爆發將成為未來幾年中國假訊息的主題。

見ての通り、「孫子の兵法」という用語が読み取れる。これが中国共産党の欺瞞で狡猾な常套手段で、今回のウイルス禍でも中国共産党は孫子の兵法を応用して壮大な隠蔽と虚偽の戦略的宣伝を行っている。そして台湾の「自由時報」によるこの指摘は、香港からも出ている。民主派メディアとして評価の高い香港の「蘋果日報」は4月12日、以下の記事を掲載した。


ここで「古有孫子兵法,今有習總戰疫大法。2月底,武漢肺炎全國蔓延之際,中宣部高調宣佈將出版《大國戰「疫」》」と記されているが、これは中国共産党が習近平による疫病との戦争をテーマに2月末に出版を計画していた『大国戦「疫」』という宣伝用の本のことで、習近平政権の戦法はいにしえの孫子の兵法によると指摘している。

当然のことながら、中国当局が公表する中国国内の感染者と死者の数は事実を反映しておらず、中国当局は被害の真相を隠蔽している。このこと自体は多くの人がうすうす気づいているはずだが、では果たして中国の感染の実情はどれぐらい深刻なのか? 

中国本土の状況について独自の情報網を持つ台湾では、中国国内の感染の実情に関する具体的な数字が出ており、それを在米の反体制派中国人のグループが記事にしている。以下は、有力な反体制派「看中国」が3月13日に掲載した記事で、“听台商传出来的消息,武汉的死亡人数超过10万人”とある。台湾のビジネスパーソンが得た情報によると、武漢の死者は10万人を超えているというのだ。


この記事では、まずかつて台湾の疫病官制局で副局長を務めた施文儀のインタビューが紹介されていて、彼によると中国当局の公表値で2月下旬以降に感染者数が減少の一途となったのは労働者たちを職場に復帰させるための政策的な誘導であり、そしてもちろん3月10日に習近平が武漢を訪れて対ウイルス人民戦争に勝利したという宣伝のための戦略的下地であるという。

そのうえで、台湾の国家父兄教育ボランティア連盟理事長の呉福濱のコメントとして、「听台商传出来的消息,武汉的死亡人数超过10万人,比中国官方公布的数据严重许多,可见整个医疗体系崩溃了,死亡率才那么高」という内容が紹介されている。武漢の死者数は10万人を超えている、中国当局が公表する数値よりずっと多い、医療崩壊も起きているから致死率もかなり高い、彼はこのように指摘している。

確かに台湾のビジネスパーソンのなかには中国の当局者と親しい人物もいるし、そして当局者のなかには胡耀邦や趙紫陽を信望する民主派の人々も一定数いるから、彼ら党内民主派からの密かなリークが台湾にもたらされているというのはあり得ることだ。仮に3月半ばの時点で武漢の死者数が本当に10万人を超えているなら、中国当局が公表する数値との乖離はあまりにも激しい。もちろん、だからこそ「自由時報」は「武漢肺炎≫復刻天安門事件?」という見出しで記事を掲載したのだ。

本当に武漢の死者数はそこまで膨大なのだろうか? 台湾、そして香港、いずれも中国共産党の強大な圧力に苦しめられてきた双方から、習近平と王滬寧は孫子の兵法に則って欺瞞に満ちた宣伝の戦法を実践してきたと指摘する以上、そんな中国共産党による隠蔽の実態を解説するのは容易ではない。

そこで、まずは多くの日本の読者にとっても比較的解かりやすいと思われる簡単なところから見ていこう。

楊建利とはじめとする海外の反体制派たちのもとには、党内民主派はもとより中国本土から極秘の内部文書をはじめ様々な情報がもたらされている。まず、以下は楊建利の公民力量で副主席を務める韓連潮のツイートだ。


ここで韓連潮がツイートしている内容を日本語にすると、「(中国では)1月10日にオーバーシュートが始まり、20日にかけて既に5、6千人が感染し、武漢が封鎖された1月23日では既に2万人強が感染していた。しかし、当時当局が公表した数値では1月23日の武漢封鎖時、湖北省ではただ400人強の感染者だった!」ということで韓連潮は当局による欺瞞を強烈に批判している。

ちなみに、彼のツイートは2月18日に医学誌に発表された論文で明らかにされた数値をもとにしていて、リンクをクリックすると出てくるのがこれである。


これは10日間ごとの感染者数などの数値が記されているもので、韓連潮がツイートで触れていた1月11日から20日までの期間における新規の感染者数は5417人、次いで1月21日から1月30日までの期間における新規の感染者数は2万4648人となっている。ところが、当時中国当局が公表した数値によると、武漢の封鎖が始まる直前の1月22日の時点で、湖北省の累計の感染者数は444人だけ(中国全体でも520人超)に過ぎない。韓連潮が強烈に批判するように、当局が公表する数値は実際に感染が確認された人数をはるかに下回る酷いものだ。

ただ、これで解るのは中国当局がいかに少ない数字しか公表していないかであって、上の論文で記された数値が必ずしも確認された正確な感染の実態とは限らないということだ。ここが共産党の支配する中国の厄介なところだ。

というわけで、今度は別の角度からアプローチしてみよう。以下も韓連潮の投稿で、日付は2月11日。これをクリックすると、「緊急通知」とか「工作目標」という文字が見える。つまり、これは韓連潮が入手した党内民主派のリークによる武漢当局の内部文書である。


韓連潮の投稿文には「病床」という文字が幾つもあるように、この内部文書は緊急に設置が必要なベッドの数の目標数が記されているものだ。最も注目すべきは「重症轻症病床数10.9万」で、要するに武漢では重症患者用のベッドが新たに10万9000床は必要だとされている。

韓連潮がこの投稿をした2月11日の時点で、既に武漢では医療崩壊が危機的な状況になっていて、そのため「緊急告知」としてベッドの増築を急ぐよう指示する内部文書である。当然ながら、武漢ではこれ以前の段階でも重症患者用にベッドの増築はしてきていたわけで、しかしそれでもまだ足りないからこそ増築を要請する「緊急通知」だ。

ちなみに、当時中国当局が公表した数字によると、2月12日の時点で中国全体の累計感染者数は4万4653人である。ところが武漢の地元当局の内部文書では、武漢では重症患者用のベッドだけでもあと10万9000床は必要だと通知しているのだから、いかに当局の公表値が事態の真相と乖離しているかが如実に解るだろう。

当局の内部資料を入手しているのは公民力量だけではない。在米の反体制派メディアのなかで最大勢力ともいえる「大紀元」には、党内民主派から様々な極秘資料の写しが届けられる。以下はその「大紀元」が入手したもので、3月14日付けの武漢の内部文書だ。


見出しにある「中共公布的22倍」という意味は、漢字が読める日本人なら翻訳せずとも解るであろう。「大紀元」が入手した内部資料によると、この3月14日に武漢で確認された感染者の数は当局の公布した数字の22倍だったということだ。

以上、三つの資料をもとに1月から3月の武漢の状況を見てきたが、これらの資料だけでも武漢の感染の実態は当局が公表する数値と較べてとんでもなく大きいことが解ろう。そうであれば、台湾が入手した情報にあるように、武漢の死者は3月半ばの時点で10万人を超えていたというのは十分あり得ることなのだ。ここからは、いよいよこの部分を具体的に検証していく。

以下は、民主派のラジオ放送のフリーアジアが行ったツイートで、3月26日に武漢の漢口葬儀場に並ぶ大勢の人々の様子である。


実は武漢では、3月23日から新型コロナウイルスで亡くなった方々の遺骨を遺族に渡す作業が始まったのである。それまでは感染拡大を避けるという理由で遺骨の受け渡しは行われず、ようやく3月23日になって武漢の各葬儀場で遺族への受け渡しが始まったのだ。

こちらは「武漢普通人」という実に解りやすいアカウント名でツイッターをやっている武漢の方によるツイートだ。


左の写真に見えるように、大量の遺骨が幾層にも積まれている。そして右上の写真に見えるやたら巨大な赤いトラックは、この葬儀場に遺骨を運んできた車両だ。このツイートは武漢にある漢口葬儀場の様子で、3月26日にこのトラックで2500人分の遺骨を運んできたそうで、その前日も同じ量の遺骨を運んできたとある。つまり漢口葬儀場では、2日間だけでも感染により死去した5000人分の遺骨が運び込まれたのだ。

これだけでも、中国当局が公表した死者数を大幅に上回る。しかし、武漢にはこの漢口葬儀場以外にもたくさんの葬儀場があり、感染により亡くなった方々の遺骨は各葬儀場に分散して送られているのだ。

こちらは、反体制学者の王軍涛によるツイートだ。色々と数字があるが、これについて解説しよう。


実は事前発表により、3月23日から清明節前の4月3日までの12日間に渡り、武漢にある7つの葬儀場で毎日500人分の遺骨の受け渡しをすると通知されたそうなのだ。だから「500×12×7=42000」というのは、その数字に則って計算すると、武漢では感染により亡くなった方の数は4万2000人になるということを言っている。

しかし、勘の良い読者はこの4万2000人という数字はおかしいということにすぐ気づくはずだ。というのも、先程アカウント名「武漢普通人」のツイートにあったように、漢口葬儀場では3月26日とその前日にそれぞれ2500人分を超える数の遺骨がトラックで届いているのだ。これでは、3月23日から各葬儀場で毎日500人分という事前発表と整合性がとれないのである。

ほんとに各葬儀場では毎日500人分なのか? それが12日間に渡って? 建前上500人分という数を公表しているだけで、実際の遺骨はもっと多いのではないか? このような疑念が生じるのは当然というものだろう。

以下は流亡富豪として知られる反体制派郭文貴に近い存在の小札のツイートで、「真實死亡人數估计超十萬」という繁体字の文は「真実の死亡人数は10万を超えると推計される」という意味だ。


先程トラックで1日に2500人分の遺骨が運び込まれたという漢口葬儀場の報告があったが、仮にすべての葬儀場で毎日この通りなら、武漢での感染による死者数は21万人になる。もちろん、実際の数字は完全に藪の中であるわけだが、次のことは確実に言える。つまり武漢での感染による死者は少なくても4万2000人以上で、10万人を超えている可能性も十分あり得るということだ(3月22日時点)。

当然ながら、このことは主要な反体制派メディアも報じていて、ここでは以下に「禁聞網」と「看中国」の記事を紹介しよう。



これらによると、党内からリークされた情報として、3月上旬の時点で武漢市政府は湖北省政府に向けて2万8000体の死骸を処理したと報告したそうで、そのうえで3月下旬以降は少なくとも4万2000人分を超える遺骨が出てきたので、本当の死者数はどれほどなのかという内容となっている。

ともかく中国では感染の実態についてかくも壮大な隠蔽がなされているわけで、先程韓連潮が入手した極秘文書にあったように、武漢の完全封鎖が実行されてから3週間経った2月11日になっても重症患者向けのベッドが新たに10万8000床必要だと緊急通知が下ったところを見れば、武漢における重症患者の数がいかに多かったかが推察される。

ところで、読者のなかには次のような疑問が湧く人もいるかもしれない。中国当局は重症患者のため突貫工事により10日間で巨大な病院を建設しただろう、大々的に報道してたじゃないか、なのに2月半ばになってなぜこんなにも重症患者向けのベッドが足りなくなったのか? 突貫工事で建設したあの病院でも足りないほど重症化する患者が増えたのだろうか? 

読者のなかにこのような疑問を持つ人がいるなら、今度は私の方から問いかけたい。突貫工事で建設された巨大な建物が何故病院であると言えるのか? 単に中国共産党が「病院」だと宣伝しているだけではないか?

多くの読者は、新彊ウイグル自治区にある超巨大な建造物について知っているだろう。中国共産党は「職業訓練センター」だと主張してきたが、もちろん中国共産党によるこの言い分は虚偽であり、人権団体などが指摘してきたように新彊ウイグルにあるのは「強制収容所」だ。中国語では、「強制収容所」のことを「集中营」と呼ぶ。

さて、中国共産党が10日間の突貫工事で建設した「火神山病院」の真相について、「看中国」は国立台湾大学で名誉教授を務める明居正の告発を伝える以下の記事を掲載している。


ここでは、次のような記述がある。「台大政治系名誉教授明居正在分析了医院内部结构后直言,火神山医院根本就是“死亡集中营”」。新彊ウイグルの強制収容所を中国語で「集中营」と呼ぶことを踏まえたうえで、火神山病院について明居正が「火神山医院根本就是“死亡集中营”」だと指摘していることに気を付けてもらいたい。「死亡集中营」、つまり火神山病院は「死亡強制収容所」だというのである。

生きて出る見込みのない「死亡強制収容所」、それが突貫工事により10日間で建設した「火神山病院」の正体だと明居正は言うのだ。この施設については内部の様子を撮影した映像と写真が在米反体制派のもとへ届けられている。以下はいずれも、民主救国陣戦で主席を務める唐柏橋のツイートだ。



見れば解るように、廊下は狭く、部屋の扉は分厚い二重扉になっていて、そして扉には小さな窓があって廊下から部屋の中を覗けるようになっており、監獄とそっくりの造りとなっている。そして部屋の中には、ビブスのようなものをつけた人々が集団で座っている。彼らは厳重に監視されている。

治療用のベッドなどない、医療機器もない、もちろん医師たちもいない。明らかに監獄の様相であり、つまり新彊ウイグルの強制収容所と同じである。明居正によると、この火神山収容所は軍が管理する軍事機密の扱いで、建物には鉄条網や鎖などもあり、収容された人が絶対に逃げられないよう厳重な体制となっているという。新型コロナウイルスに感染した人々は、こんな医療設備のない監獄のような密閉空間で多くの人と密集して部屋に収容されれば、重症化したらまず生きて帰ることは不可能だ。

もちろん他の反体制派メディアも、この火神山収容所について報じている。たとえば、以下は反体制派「新唐人」が掲載した記事で、著名な反体制の評論家・秦鵬の指摘などをもとに報じている。


武漢で感染のオーバーシュートが発生した1月、習近平率いる党中央はいかにして患者の命を救うかを考えるのではなく、感染した人々を強制収容所に放り込み、そこから逃げられないように集団隔離し、感染者たちが二度と生きて出ることなく収容所で死去することで外部への感染拡大を封じ込めようとしたのだった。

病院ではないのだ。ここに収容された感染者は、患者としての扱いさえ受けない。死を待つだけの死亡強制収容所なのだから。しかし中国共産党は、そのことを素直に公表することはできないので、だから表向きはこれを病院だということにし、習近平総書記の指導により突貫工事で病院を建設して、人々の治療にあたっていますと、虚偽の大宣伝を行ったのである。

中国共産党の宣伝工作について、台湾と香港のメディアはこれを孫子の兵法に基づく欺瞞だと指摘したが、「火神山病院」をめぐる宣伝はその典型だ。世界中の多くの人は、この「火神山病院」の報道を見て次のように思った。

「中国共産党は凄い!」
「総力を挙げてわずか10日間で病院を作って患者の治療にあたるなんて!」
「とても自分の国の政府にはできない」
「まさに中国共産党ならではだ」

世界中の多くの人々は、火神山病院が本当に病院であると思い込み、中国共産党の危機対応の凄さを語った。しかし、まさにそれこそ中国共産党の思う壺。中国共産党からすれば、昨年香港で発生したデモの対処で、香港政府の強権的なデモの取り締まりを影で指導したことに世界中から非難され、一党独裁体制の評判が失墜したことに危機感を持っていた。だから中国共産党は今回の新型コロナウイルスの感染爆発を逆手にとって利用し、一党独裁体制だからこそ突貫工事によりわずか10日間で巨大な病院を建設し、大勢の患者の治療にあたって危機に対処できる、まさに一党独裁だからこそ可能な危機対応であると世界中の人々の意識をコントロールすべく、壮大な虚偽の大外宣を行った。

しかし、実際はまったく違う。新彊ウイグルにある巨大な建物が「職業訓練センター」ではなく「強制収容所」であるように、武漢の火神山施設は「感染症対策の病院」ではなく「死亡強制収容所」なのだ。中国共産党は感染した人々を監獄さながらの収容所に放り込み、二度と生きて出ることなく収容所で死去することで外部への感染拡大を封じ込めようとしたのだった。

だが、それでも武漢での感染の拡大は続いた。中国共産党による感染封じ込めの策は失敗を重ねた。だからこそ、韓連潮が入手した内部文書にあったように、武漢では2月半ばになって新たに重症患者用のベッドが10万8000床必要だと緊急通知が発せられたのである。

ところで、中国共産党が「病院」と称して突貫工事で建設した施設は、他にもう一つある。雷神山病院だ。もちろん、実際には雷神山病院も「病院」ではない。これが病院だというのは宣伝に過ぎない。更に、この雷神山病院は強制収容所でさえない。

病院でもなければ、強制収容所でもない。ならば雷神山病院はいったい何の施設なのか? これについても内部の様子を撮影した極秘映像が反体制派のもとへリークされているので、まずは説明するより映像を見ていただく方が早いだろう。

以下は、著名な人権活動家の曾錚がツイッターから投稿したこの雷神山病院の映像である。

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