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バーチャル〈任意のキーワード〉概論

見に来てくれてありがとうございます。これは2018年のVirtual Advent Calendarの12/1の記事です。私はコヨーテ系バーチャルYouTuberの「とりえ」と申します。始めましての方は始めまして。そうでない方、お世話になっております。

さて、このVirtual Advent Calendarにどんな記事を書くか迷ったのですが「VRC Vtuber VRに関することならなんでも」ということなので、この3つを横断的に論じてみることとしましょう。アドベントカレンダー初日のテーマにはちょうどいいでしょう。

このテーマで執筆を始めた経緯

バーチャルリアリティやバーチャルYouTuberという概念はここ数年でかなり浸透してきたと思いますが、まだまだ誤解や混同が多くみられます。例えば、VRデバイスであるHTC Viveを購入したところ「バーチャルYouTuberでもやるのか」と言われるとか、けものフレンズのアライさんが登場するいわゆるバーチャルYouTuber配信のコンテンツのタイトルが「VRアライさん」である、というのがその一例です。

このテーマで記事を書こう、と以前から思っていたのですが、その動機は「バーチャルYouTuberをVRだって言うのやめーや」とか「VR機器は別にバーチャルYouTuberをやるためのものじゃねーよ」というツッコミを入れたい、というものでした。

とはいえ、VRやバーチャルYouTuberが混同されるのもそれなりの理由や背景があってのことです。本稿ではそこが混同される原因や必然性についても明らかにしていければなと思います。

ツッコミを入れたいと言いつつもツッコミどころ満載な怪文書かつポエムになっていることかと思いますが、ご笑覧いただければ幸甚という他ありません。

バーチャルとは何か、の前に

さて、これからバーチャルリアリティについてお話するわけですが、バーチャルという語が修飾する対象である「リアリティ」とは何かということについて明確にしておきましょう。一般的には「リアリティ」とは「現実」と訳され、その対義語は例えば「空想」などであると思われているでしょうが、本稿ではこの「リアリティ」とは「現実世界」であると定義します。「夢から覚めて現実に戻る」といった用法での「現実」という語には「夢の世界から現実の世界に戻る」というニュアンスがあると思いますが、そういう「現実」です。

少々遠回りになりますが、「現実世界」、よりシンプルに言えば「世界」とは何か確認しておきましょう。「世界」とは「全て」のことです。より具体的に説明すれば「あなたが知覚しているすべてのもの」です。一方で、本稿では「あなた自身」は「世界」とは分けて考えます。この先の説明では「あなた自身」と「世界」の2元を軸にして論を進めていきたいと思います。

図1 リアリティ:あなたと世界

バーチャルとは何か

ここ数年のブームのおかげでもはや聞き飽きていると思いますが、バーチャルとは「仮想の」「事実上の」を意味する語です。少し前に、バーチャルの解釈として「あたかも○○のようにふるまう」を提唱したスライドが一部で話題になったこともありました。

バーチャルリアリティとは何か

「あたかも現実のようにふるまう映像」とは的を射ているように思います。実際の現実ではないにも関わらず、観測者から見ると「現実世界のように感じられる」何かが「バーチャルリアリティ」というわけです。先の章で、本稿では「リアリティ」とは「現実世界」であると話したとおり、とりえ流に解釈すればバーチャルリアリティとは「あたかも現実世界のように振る舞う映像」と言えるでしょう。本稿では「あなた自身」と「世界」の二元で論じると言いましたが、その理屈で言うとバーチャルリアリティとは「現実のあなたがバーチャルの世界を認識している」と言うことになるでしょう。

図2 バーチャルリアリティ:現実のあなたとバーチャルな世界

バーチャルYouTuberとは何か

あたかも美少女のようにふるまうおっさん……のことではありませんよね。しかし、字義通りに「あたかもYouTuberのように振る舞う何か」というのもやはり違います。SHOWROOMなど、YouTube以外の配信プラットフォームで活動するエンターテイナーもバーチャルYouTuberに含まれることがありますし、逆に、そのバーチャルYouTuberが活動に利用しているプラットフォームがYouTuberであれば、「事実上のYouTuber」というよりもYouTuberそのものと言っていいでしょう。

私は、バーチャルYouTuberと言われている者たちの実態は「バーチャルなパーソナリティ」であると思っています。これは「ラジオパーソナリティ」というような文脈で使われるようなニュアンスの「パーソナリティ」です。要するに、人です。

では「仮想的なパーソナリティ」とはどのようなものでしょうか?これは単純なことで、そこに「実際にはその人ではないけど、その人がいるように感じられる」ということです。アニメや映画、小説などの物語の登場人物は生き生きと描かれているとあたかもそこに居るように感じられますが、それを推し進めたものであると言えるでしょう。

突然ですが、本稿ではバーチャルYouTuber、バーチャルパーソナリティというものは「なる」ものとして扱います。あなた自身がです。私もバーチャルYouTuberですので。どういうことかと言うと、バーチャルパーソナリティを演じたりプロデュースする側の視点で話を進めるということです。別の言い方をすれば、バーチャルYouTuber(の中の人)を主体として扱います。もしこれを読んでいるあなたがバーチャルYouTuberやVの者やVRChatプレイヤーのようなバーチャルパーソナリティではない場合、そういったバーチャルパーソナリティになったつもりで読んでください。

前提の説明のために話が逸れましたが、本題に戻りましょう。バーチャルYouTuberとは、誰かに「その人がそこにいる」と思われていることを言います。誰かとは貴方ではない誰かのことですので、すべてを「世界」と「あなた」に分けている本稿では、誰かとは「世界」に該当する存在です。

先の章では、バーチャルリアリティとは「現実のあなたがバーチャルの世界を認識している」ことだと説明しましたが、バーチャルYouTuberとは「現実の世界がバーチャルのあなたを認識する」ことだと言えます。

図3 バーチャルパーソナリティ:バーチャルなあなたと現実の世界

VRChatあるいはソーシャルVRとは何か

ここまでで、リアリティ、バーチャルリアリティ、バーチャルパーソナリティについて説明してきました。現実世界、あなた自身のそれぞれについてバーチャル・現実のどちらかということをマトリクスに表すと下図のようになります。ここまでで4つのクワドラントのうち3つを説明しましたので、ここからは最後にひとつだけのこったクワドラントの説明をしましょう。

図4 ここまでで解説した3つのクワドラント

VRChatというサービスがあります。これはいわゆるソーシャルVRというものの一つで、一つの世界に同時に複数人が参加できるVRです。このソーシャルVRというものの中では、プレイヤー自身の姿は他のプレイヤーの視点からはアバターとして表示されます。VRChatのプレイヤーは身振り手振りが行えるため、他のプレイヤーからはバーチャルYouTuberと同様にそのパーソナリティがそこに居るように感じられます。一方で、そのプレイヤー本人からはVRChatのワールドが現実世界のように感じられています。この時に起こっていることは以下の図で表されます。これは「バーチャルな世界とバーチャルなあなたがお互いを認識する」という状況です。

図5 ソーシャルVR:バーチャルなあなたとバーチャルな世界

バーチャルリアリティという概念は昔からありました。もっとも最近のVRブームも2016年がVR元年と呼ばれ、今となってはもう2年前の出来事です。対して、バーチャルYouTuberやVRChatのブームは2017年12月ごろからのトレンドです。私は、バーチャルYouTuberブームとVRChatブームが同時にやってきたのは偶然ではないと思っています。

先程のマトリクスを再度見てみましょう。リアリティというものは、私やあなたが生まれた時から存在する現実世界です。なんならこの世界ができたときから存在します。これを第一段階とします。

図6 第一段階ーリアリティ

次にバーチャルリアリティです。1930年代にコンセプトがSF作品に登場し、1980年代頃に実用化され、CGやセンサー、シミュレーションなどの技術の継続的な向上により現在に至っています。これにより第二の段階が実現しました。

図7 第二段階ー世界をバーチャル化する技術の実現

そして2017年、VRChatというソーシャルVRとバーチャルYouTuberのブームが到来し、第三段階に到達しました。ソーシャルVRとバーチャルYouTuberはどちらも、第二の段階で実現されていたものに加えて「バーチャルなあなた自身」を実現することで可能になったものです。

図8 第三段階ーあなた自身をバーチャル化する技術の実現

VRC・VTuber・VR

以上が、このアドヴェントカレンダーのテーマであるVRC・VTuber・VRの概観です。この3つは「リアリティとパーソナリティのいずれか、あるいは両方をバーチャル化する」ものだと言えます。

ことにVTuberとVRは、「あなた自身」と「世界」の間に立ち、境界から一方をバーチャル化するものと言う意味で、背中合わせ、コインの表と裏のような関係にあると言えます。ここがVRとバーチャルリアリティが混同されやすい理由なのではないかと思います。

さて、ここまで読んでくれたあなた、ありがとうございます。ずいぶんと当たり前のことをかなりの紙面を割いて解説してしまったように思いますが、解説は丁寧に越したことはないでしょう。本稿が、これから公開されるVACの各記事や、バーチャル<任意のキーワード>の世界を理解するための助けになることを願ってやみません。それでは良いクリスマスをお迎えください。

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