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3章-3「シン捕獲」

路肩に寄せて停車したトラックから飛び降り、団地の間の歩道に入ってゆく。

WC:団地と団地の間、日の当たらない小さな公園。色あせた遊具ばかりがぽつぽつとあるだけのその公園に、一際大きなオブジェのような遊具があり、その前で、シンと思われる少年が何かしている。

千晴:形容しがたいオブジェ?

WC:オブジェは、伏せたタマゴのような形で、当時はカラフルに彩色されていたのだろうと推測される。上部、根元、中腹に直径50cmほどの穴があり、中腹の穴からは滑り台のような斜面が突き出している。よくみかける、中に階段やはしごがついており、入ったり出たりして楽しむ遊具のようだ。高さは2m半程度だろうか。

玄:駆け寄る。
「リーダー!」

シン:「うおっ?!」

玄:「間に合ったー…」

シン:「な、なんだよあんた…あ、ハジメか?」

玄:「そうそう、ハジメです。置いてきぼりはないよリーダー。」

千晴:「おまえ、先走り過ぎ。」

シン:「いや、つか、むしろ何でお前ここにいんのって感じなんだけど…」

WC:と、千晴は一旦無視で玄に答える。

千晴:「…」

玄:「いや、心当たりに一人で突撃するかと思ってビックリしてさ…変態教団とか1人で突撃したらどうしようと…」

シン:「いや当然1人で行くだろ。」

WC:なに言ってんのお前的な顔で返される。

千晴:ばっきゃーろー!で殴っていいんじゃない(笑)?

玄:いや、だめだろ(笑)。

シン:「お前連れてってなんか頼りになるのかよ。頼りなさそーな顔だぜお前ぇ。メガネだし。」

玄:「そうでもないよー?毎日3km走ってるし!」

WC:そんな設定が(笑)。

玄:趣味筋トレ。全然筋肉つかないんだけどね(笑)。

千晴:俺の知らない玄か…

シン:「マジか。結構走ってんなお前。」

玄:「で、この辺りに心当たりがあるのリーダー?」

シン:「…んー…仕方ねーな。お前になら教えてやってもいいんだけど…」

玄:「ふむふむ…」

千晴:「…なんだよ。」

WC:と、千晴と夕日をチラ見する。

千晴:「めんどくせーなー。」

夕日:「…こら大人。」

千晴:「…」

玄:「えっと、じゃあこっちで?」

シン:「いやハジメ、そういうことじゃねーんだよ。」

玄:「え、そうなの!?」

シン:「こいつら、どっかやれよ。」

玄:「えっと、すまん二人共ちょっとだけ…(笑)」

千晴:「おーまーえーねー…」

WC:シンはここから動きたくなさそうだ。明らかに、ここに何らかの秘密があるのだろう。

千晴:「誰が暗号解いたとおもってるの?俺が全部いうとおもってるの?」

WC:イヤらしいこと言い始めた(笑)。

玄:「あー、リーダー、2人共俺の仲間で、夕日さんはマコちゃんの叔母さんなんだけど、だめかな?」

シン:「女はなー…」

夕日:「かっちーん。」

玄:やばい。

千晴:「だって、残念夕日。ぷぷ。」

夕日:「せいっ!てつざんこう!!」

WC:ただの肘打ちがホストのわき腹に突き刺さる。

千晴:「ぎゃーす! 怒りの矛先がおれに?!」

夕日:「女の何がご不満なのかしら未成年?」

シン:「いっ、いや…」

千晴:「ほら、おとなおとな。」

玄:「お前…(笑)」

夕日:「えらそうなこと言う前に!…えー…おほん…おねえちゃんもなかまにいれてほしいな?」

シン:「女はさぁ、すぐああやって男をコドモアツカイすんだ。わかるだろハジメ?」

玄PL:やべえわかる(笑)

千晴PL:わかるわかる。

夕日:「…(ギリッ…!」

シン:「あと俺茶髪キライ。ダセェし。」

千晴:「あっははは…はーあ。」

シン:「ロンゲとかマジキモい。」

千晴:「…どうやってシメるのが今風?」

夕日:「剥いて吊るしてネットでしょ。」

千晴:「了解!」

玄:「いやリーダー。彼は実は夜の世界に通じていて、いろんな情報を集められるんだよ!」

千晴:「……」

玄:「ホストをしながら、夜の世界に接してるんだ!普段集められない情報を、色々集めてくれるんだよ!」

シン:「…なんだ、スパイキャラかよ。だったらそういえよ。」

玄:よし!

千晴:(おまえの日常を親にリークしてやろうか…)

シン:「お前、そんなダセー格好して大変だなー。」

千晴:「たいへんだなよな…おれ…」

シン:「がんばれよ?」

千晴:「う、うん?」

WC:肩…には手が届かないので腰をたたかれる。

玄PL:どうしよう、夕日は『実は女じゃなくて…』はやばいよな(笑)。

千晴PL:やばいね、でも楽しい(笑)。

シン:「ハジメの仲間ならしょーがねーな。お前名前は?」

千晴:「千晴だよ。」

シン:「千晴か。名前も女みてーだな。」

夕日:「おお、ちー君そっちいった?あそー。へー。」

千晴:(だってさー…玄の頑張りが痛々しくてさ…)

シン:「チハル、俺はシンだ。リーダーって呼べよ。」

千晴:!…「…りーだぁー…」

夕日:「あーそーか。女性より子供や同性が好きか。」

千晴:(なに、お前のほうがめんどくさいことになってるんだよ!)

玄:「そして夕日さんは今回マコちゃんのことを調査する上での依頼主でもあるけど…」

千晴:「お…」

シン:「大人にマコのことがわかるかよ。しかも女。(嘲笑)」

夕日:「…(ギリリリ…ッ!)」

千晴:(おーい、そろそろやめとけよーりーだぁー…)

玄:「こういった事件を調査する時の、僕達の指令官なんだ!」

シン:「…え、お前ら女の下なの…?」

WC:ひくわー…て顔。

夕日:「…(ギギギギ…ギリ…ッッ!)」

玄:「彼女は優秀なんです。ただ、実際に事件を解決できるのは僕達だけだけどね!」

シン:「つかえねーじゃん。」

玄:「危険を犯して戦うのは僕達の仕事。」

千晴:それもイメージよくないんじゃ…(笑)

玄:だって夕日のそういうの浮かばないんだ…

シン:「…で、後ろで楽してんだろ?おまえらさぁ、男としてそういうの情けなくないわけ?」

千晴PL:男でいいじゃん男で。眉毛濃いし(笑)。

玄PL:眉毛関係ないだろ(笑)。やっぱそれやらないとだめか?

千晴PL:通じる通じる!

WC:性格は男っぽい。顔もメイク落とせば美形の男で何とか。胸は…パッド入れてることにして…

玄PL:WCまで…(笑)。よしわかった!

千晴PL:その楽しみ方が吉と出るか、凶と出るか…

シン:「お前らちょっと鍛えなおしてやるから、その女あっちやれよ。」

玄:「ん~…、ごめんリーダー。これは本当に極秘なんだけど。夕日さんは実は男なんだ。」

千晴:(なにー!!)

夕日:「…ほう。」

千晴:(ほうほう…)

シン:「マジか!」

夕日:「…で?」

玄:「今別に事件を担当してて、どうしても夕日さんじゃないといけないけど、女性である必要があって…変装してるんだ!」

千晴:「…」

夕日:「…あー。」

シン:「なんだよまたスパイキャラかよ。カブってんじゃん。」

玄:「今の化粧品は優秀だし、もともと細身だから色々『ごまかせる』んだ。それが本業じゃないんだけどね。今は仕方なく…」

千晴:「じゃあ、俺に化粧させるのかよ。」

シン:「…化粧するとかしねーとかどうでもよくね? どっちかでよくね?」

夕日:「だってよちー君。あたしたちどっちかいらないって。」

千晴:「そっかー、もったいないお化けが出るな。」

夕日:「でるわねー。…まあ、そうまでしてクソガk…おぼっちゃんの子分にしてほしくはないんだけどね。」

千晴:「じゃあ、車でまってる?」

夕日:「…それも腹に据えかねるのよね。」

玄:女心だな。

千晴:秋の空。

WC:夏川さんだが。

シン:「もういいから、ハジメ、早くこの女…だか男だか分んないけど、あっちやれよ。時間がないんだからさ。」

玄:「いや、実際危険だからそうした方がいいよ。(夏川に)」

夕日:「…言ってる事はわかるんだが、あえて2人に問おう。」

玄:「…」

夕日:「女1人守れんのか!(仁王立ち)」

千晴:「がーん!…俺は守れるよ、俺はね。」

玄:「生涯をかけて共に生きていくことで守ることはできるが、怪異からの命の危機を守るには接点を持たせないことが一番だ!(仁王立ち。)」

千晴:(なにそれ、かっこいい…)

WC:どっちの回答も姑息だ(笑)。

玄:色々苦しい(笑)。

夕日:「よぉしわかった。聞けクソガキィ!あんたの秘密がここにあることはわかっている!」

シン:「…な、なんだよ…」

夕日:「それを女のあたしに知られたくないこともバレバレだ!しかし!その秘密を守ろうとしてまこちゃんの命を危険にさらす愚かさがわからんのか!」

シン:「…な…」

千晴:(相変わらず男だな…)

玄:(中身イケメンだよな。)

夕日:「一言だけ言おう! 男なら、下らぬ拘りは捨てろ!!!」

シン:「…ぐ…グハァッ!!」

千晴:「やられてるぞ、おい…」

玄:「ボコボコっすなー…」

シン:「お、おいハジメ…この女おかしいぞ。何とかしろよ。」

千晴:「りーだぁーが負けたら、俺の立場が悪くなるんだから頑張ってよ。」

シン:「チハルてめー…お前なんか子分じゃねー!」

千晴:「やっぱり、司令官の方がりーだぁーよりかっこいいかもな。」

WC:ぶれるぶれる(笑)

千晴:だって、説得力あるし。

WC:言い切ってすっきりした夕日は仁王立ちでオーラだけ出している(笑)。もうなんか後のことは考えてないっぽい。

玄:「リーダー、あの人結構いいこというから聞いとくといいよ…」

WC:お前もか(笑)。

千晴:「でもさ、確かにそのとおりでさリーダー。変に意地張って、男女にこだわっても、マコちゃんが助からなかったらそれまでだぜ。これだけ、マコちゃんを助けたいって奴らがいるんだから、力合わせて戦っていこうぜ!すべてをまとめて包み込む、それがリーダーの器ってやつだよ。」

シン:「…チハル…そうか…俺の味方はお前だけだ…」

千晴:「あれ?」

シン:「わかった。俺が包み込めばいいんだな。やってやらー!」

千晴:「うし!」

玄:「おお、リーダーがひとつ大きくなった!」

シン:「お前らついて来い。いくぞ、チハル!ハジメ!夕日さん!

玄:「おう!」

千晴:(『さん』付!?)

玄:「って、あれ?夕日も?」

夕日:「うむうむ。」

千晴:「主従関係がややこしくなってきたな」

WC:シンの序列。夕日さん>シン(リーダー)=チハル>ハジメ。

玄:別に構わんけど(笑)。

千晴:さ、いそごう(笑)。

シンは、オブジェの外側をよじ登り、上部に開いた穴から中に入って行く。で、顔だけ出して。

シン:「お前ら早く来いよ。…あと、来てください。」

千晴:うーん、複雑(笑)。

玄:「穴ちっさいな。夕日通れるか?」

千晴:「えーどういう意味?!」

WC:上部の穴から、若干オーバーハング気味の足場を使って中へ。

夕日:「ちー君がどう思ってるかよーくわかった。」

千晴:「おれ?!なんでー?!」

玄:「まあまあ、喧嘩すんな行くぞー。」

WC:所詮は子供用の遊具。大きなオブジェの中は、一方に、中腹の穴に登るきついスロープがとってあるきりの空洞だが、大人3人と子供1人には中は狭い。そのスロープに座って3人を待っていたシンが、3人が地面についたのを確認して胸に吊るした携帯をパカッと開く。

玄:「?」

シン:「いいかお前ら。これは、ほんとのほんとに大事な秘密だからな。」

玄:「OK、リーダー。」

千晴:「あいよ。」

シン:「今まで、マコと俺だけの秘密だったんだ。それを教えるんだからな。絶対人に言うんじゃないぞ。今ここで、自分のヒーローにかけて誓え。絶対秘密を守るって。」

WC:子供としては最大限、すごく真剣な顔で宣言するシン。

玄:「猪木に誓うよ。」

夕日:「…ヒーローの名はいえないけど、誓う。」

WC:夕日もなぞめいた顔でうなずく。

千晴:「俺は…」

WC:千晴、主人公っぽい(笑)。

千晴:いねーんだよな…

玄:これ結構千晴には難しいよね。

千晴:自分なんだよね。

WC:いないならいないでかっちょいい事言えば特別っぽくていいんじゃない?

千晴:「…自分の名前にかけて誓うよ。」

WC:シンは、それぞれのヒーローが何であるかは気にしていないようだ。3人の答えを聞いて頷き、携帯電話に向かって高らかに叫ぶ。

シン:「バーニンジャー! 秘密基地!!」

WC:そしておもむろに中腹の穴に飛び込み…

玄:!?

WC:消える。

玄:「続くぞ!」

千晴:「うお?!ミギワ?!」

夕日:「う、うん!」

2人:飛び込む!

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