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第4章-1「秘密基地」

WC:小さな穴から飛び出すと、体感的には、予想通りの滑落感を感じる。

玄:滑り台?

WC:そうそう。しかし、予想と異なったのはその長さ。グーニーズの、海賊船直前のウォータースライダー並みの長さを落下する。

玄:こわ!

千晴:なげーな!おい!

WC:周囲は見渡せない。まぶしくホワイトアウトし、滑落感だけが続くので、たぶん、マジ怖い。

千晴:「じぇろにもー!」

玄:吐きそう…

WC:しかし、唐突に視界が開け、衝撃など感じることなく、すとんと足がつく。開けた視界に見えるのは、とてもメカメカしい広い部屋。

千晴:「…なんじゃ、こら…」

玄:「思ってたのとずいぶん違うね…」

WC:壁も天井も床も銀色。意味不明の光がひゅいんひゅいんと点滅し、露出させる意味の感じられない配線類が、なぜかその中を流れるエネルギー的な何かを可視化するように光点を移動させる。まったくもって不合理で、科学的と言ったら科学に唾を吐かれそうなエセ近未来的空間だ。

千晴:怪異なのかな?ミギワに近い感じ?

WC:満ちる空気は確実にミギワ。

千晴:「…うーん…すげーな…」

玄:「全員気をつけて…」

夕日:「これはあれだ…」

シン:「ふふ。これが俺たちの『秘密基地』だぜ!」

WC:胸を張ったシンが、部屋の中央で高らかに宣言する。大変自慢げだ。

玄:「こんなとこで遊んでたんかい…体調も悪くなるわ…」

WC:そういう理由(笑)?

玄:「リーダー、危ないからこっちへ。」

シン:「あぶねーはずねーだろ。ここはオレの基地だぞ?」

千晴:「シンが作ったのか?それだったらお前のものだろうけど…」

シン:「…作ったのはオレ1人じゃねーけどな。でも、デザインはほとんどオレだぜ?かっちょいーだろ?」

千晴:「…嫌いじゃ無いけど…両手を上げて喜べないな…大人になったのか?おれ?」

玄:「他にってマコちゃん?」

千晴:前の話だと、人間がミギワを創るのって難しんだっけ?

WC:というか、基本的には無理。神話級のアレに近いものが必要。

千晴:「2人でできるレベルじゃねーな…なんかもうひとつ隠してるだろ。」

シン:「…は?隠してるって…いまさらなに隠すんだよ。」

千晴:「…」

玄:「マコちゃんと2人で作ったの?」

シン:「いや、今はだらだら話してる場合じゃねーな。」

WC:と、問いを無視して歩き出す。

玄:「ちょっ、待ってリーダー!」

千晴:「そだな、ドアだよ。心当たりあるんだろ?」

玄:後を追う。

 夕日:「はぁ…ミギワって、前にあたしが襲われたアレでしょ?」

WC:と、歩きながら2人に。

玄:「その通り!」

夕日:「これもミギワ?」

千晴:「聞いた話によると、現世とあの世の中間に位置するものらしいよ。でも、だいたい強いバケモノが創るんだけさ…ここまでデコられたのは初めて見たな。」

WC:ミギワであることが確実なのは、部屋の間取りや、シンの進む方向にある通路の広さなどが、「ココ」に入る前に歩いていた公園や、その手前の小道と近似した広さをもっているからだ。

千晴:ミギワって、現世と似たような作りになるのか。

WC:ミギワはクガ(現世)とヲト(異界)の狭間。同じ空間を共有する2つの異世界が重なった場所。互いに認識されえない隙間の空間。ゆえに、認識によって変化しうる見掛けは異なっても、空間的な概形は近似する。道に植えられた街路樹は近未来的なオブジェに、プレハブ倉庫は機械的な格納装置に、公園を囲むフェンスはメタリックな壁に。見掛けは変化していても、空間的な本質は変わっていないのが、イサリである2人にははっきりとわかる。

千晴:なるほど。現世との空間保存の法則。

WC:シンは、どうやら「公園の外」に出て、団地に沿って歩いている、というのが現世からの認識。

千晴:そこまで広いか!

WC:エントランスルームから出て、左右にいくつかのドアのあるメタリックな広い通路を進んでゆく、というのがミギワからの認識。

玄:マンションの一室くらいかと思ったら…

千晴:それどころじゃなかったね。

WC:途中で見かけた未来戦車のような大型機械は、たぶん現世認識では誰かさんの軽トラ。

千晴:デコトラ(笑)。

玄:勝手に派手になってるぜ…農家のおじさんもびっくりだ。

WC:通路の左右には、格納庫風の場所や研究室風の場所があるが…それに混じってアクアリウムや田舎風の植物園があるのが違和感。

玄:「リーダー、どこに向かってるの?」

シン:「もうすぐつくぜ。ここ曲がるんだ。」

WC:と、シンは明らかに細い通路に入ってゆく。

玄:「ちょっと、気をつけて!」

シン:「だから何にだっつの(笑)。」

千晴:まあ、警戒はしておかないとまずいよな…

WC:たぶん団地の建物間にあるせまーい通路か何かだったんだろうと思われる、幅1m弱の通路を進むと、半径7~8mほどの、半円の空間に出る。

玄:「俺達が先に入るから!先鋒俺達!」

千晴:怪異の不意打ちを警戒しておきます。

玄:警戒!怪異の気配は感じる?

シン:「いやバカ狭いっ…!」

WC:怪異の気配はありませんな。

玄:えー?

千晴:怪異が作ったミギワじゃ無いってことかな…

玄:逆に怖いわあ…

WC:大抵、ミギワには、夜の森で感じる生き物の気配と同じレベルで、「異界の生き物」の気配が満ちているものだが、確かにここは逆に怖い。
さて、4人は円の中心にあたる場所から部屋に出て、弧にあたる湾曲した壁を見渡す位置に出る。壁には、左手から7つのドアがあり、それぞれのドアには1から7の番号がでかでかと書かれている。

シン:「…俺こんな部屋作った記憶ねーんだよな。もちろんマコも。」

玄:「これがメモのドアか…」

千晴:『7と4のドアをあけたまま、1のドアにはいれ』。

玄:「最初からあったとかじゃないの?」

シン:「そうかもしんねーけど…マコが倒れたとき、…その…もしかしたら…このドアの先に何か秘密があるのかもしれないって…一応、思わねーでもなくて…先に行ってみたんだけど…行けなかったんだよな。」

千晴:「行き止まりだったってことか?」

シン:「やってみろよ。わかるから。どっか適当に開けて進んでみな。」

千晴:「じゃあ、一応7のドアを進んでみようぜ。」

玄:「了解。」

WC:ドアの中心には直径10cmほどのボタンがついており、押し込むことでドアが開くようだ。7のドアを開けると、幅1mほどの細い通路が曲がりくねりながら先へ続いている。通路の先は湾曲しており、見通すことは出来ない。

千晴:どんどん行ってみよう。

WC:隊列(笑)とか決めとく? シンは、今は先頭にこだわるつもりはないようだ。

玄:なんかノスタルジー(笑)。

千晴:そだね。戦士、勇者、僧侶、魔法使いで。

玄:やっぱ魔法使い俺か? 千晴は勇者だったはずだ…あれ? 戦士誰だ?(笑)

WC:それはつまり…夕日、千晴、シン、玄…でいいのかな?

千晴:それは、「女な守れないのか!」って言われた手前、だめ(笑)。

玄:殿(しんがり)も大事だと思うけど…

千晴:「俺、せんとう行くよ。」

夕日:「ひとっぷろ浴びるか。」

千晴:「銭湯ね。帰ってからに。」

玄:「ここじゃ風邪引くぞ。んじゃ、その次いくわー。」

夕日:「じゃ、あたし最後ね。」

千晴:「ケツ持ちは任せた!」

WC:通路をしばらく進むと、広い部屋にでる。

玄:警戒ポイントですなー。いや、もうずっと警戒態勢か。

WC:半径7~8m程度の、半円形の部屋で、円の中心に当たる壁から部屋に出た。
正面の、半円の弧に当たる壁には1~7の番号が振られたドアがあり、7のドアだけが開いている。

玄:おっと…

シン:「な?」

玄:「なるほど、それであのメッセージか。」

千晴:「…じゃあ、本命いってみるか?」

玄:「オーケー。」

シン:「じゃいくぜ。ついてきな。」

WC:と、シンが先頭に立つ。

玄:ちょっと(笑)! 
「リーダー、さっきの隊列でいこうよ!」

シン:「はー?だってお前らデカいから前みえねーんだもん。」

千晴:「たしかに…」

シン:「大体、リーダーは先頭だろー?」

玄:「そりゃそうだけど…」

シン:「さっきはお前らにこの無限ループをやってみてもらおうと思ったから先行かせたけどな。初めての場所は、リーダーたる俺が先頭だぜ。なに任せとけ。守ってやるからよ。」

玄:「いや、そんなことはない。ここからは危険だから話し聞いてって。」

シン:「危険なわけねーだろー?」

玄:「危険なの!」

シン:「ここは正義のバーニンジャー基地だぞ?」

玄:「敵の侵攻メッチャ受けやすそうじゃん!俺か千晴が先頭!頼むよリーダー!」

シン:「ば、馬鹿にすんな。正義戦隊バーニンジャーの基地が敵に攻められたことなんて…2…3回くらいしかないぞ!」

玄:誰が攻め込んできたかすげえ気になる(笑)。

WC:特撮好きな設定ならここで長い薀蓄が(笑)…

玄:「今回ばかりは頼むよ~!お願いリーダー!」

シン:「…なんだよ~また泣くのかよ~。ハジメお前もうちょっとさあ…」

千晴:「リーダー!玄泣かさないでよ!」

シン:「ばっ、ばかやろ、オレが泣かしたわけじゃ…!大体まだ泣いてねーだろ!まだ!」

玄:「リーダーお願いだ~!」

シン:「~!」

千晴:「じゃあさー、リーダーは玄に肩車してもらって、俺が先頭でどう?」

玄:危なくねえか?(笑)

WC:危ないね。(笑)

玄:「名案だ!」

シン:「はずいわっ!…あーもーわかったよ。ここは先頭ハジメに譲ってやる。オレはその次でいいや。」

玄:「やった!さすがリーダー!」

千晴:「お、リーダーっぽくなってきた。」

シン:「あ、女の後は勘べ…」

夕日:「あはぁん?」

千晴:「おとな!おーとーなー!」

シン:「どこでもいいでっす!」

玄:なんか複雑な人間関係だなあ…

WC:下から攻める玄が最強という噂も(笑)。

玄:泣き落としが効くことを前回覚えたから(笑)。

千晴:結構はずいけどな(笑)。

WC:ということで、隊列は?

千晴:玄、シン、俺、夕日か?

玄:魔法使い、ヒーロー、遊び人、女傑。

WC:隊列明らかにおかしい(笑)。

 玄:警戒しながら進みます。いざ!

WC:先頭の玄が1のドアを抜けた瞬間! 
びーお!びーお!びーお! と警報が鳴り響く。

玄:「トラップ!」

千晴:「なに!?警報?」

玄:「後ろも気をつけて!」

千晴:構えて、クロスをジャラジャラジャラ…

WC:そして、背後に当たる半円の部屋の天井から、がしゃんがしゃん!と、派手な金属音を立てて4体のロボットが振ってくる。

シン:「あっ!あれはッ!バーニンジャー基地の家政婦ロボ! その名もトラッシュボックスン! 略してゴミバコ!」

玄:「知り合いか!リーダー止めらんないの?」

シン:「おい!何で俺たちを攻撃するんだ!」

千晴:「ほら!合言葉!合言葉が無いからだよ!」

ゴミ箱:「クリーニング ヲ スタート シマス!」

シン:「駄目だッ!聞く耳もってねえッ!」

玄:「やるしかないか!?許せ略してゴミバコ!」

千晴:「やるしかねーな…【雨晴】!」

玄:「よし、【天元】!」

WC:ゴミバコは、一辺40cmほどの立方体に4本の足が生えたような形をしている。

千晴:一応、属性に目を凝らしてみましょう。

WC:立方体の、横を向いた4面には直径20cmほどのガラスの丸窓がついており、まあそれが目のような働きをするのだろうか。それぞれ微妙に丸窓の色が異なり、1体は白、1体は黒、残り2体は透明だ。

玄:透明?

WC:…属性的にも…その…アレだ。

千晴:無属性かな。

WC:そうとも言う。

玄:なるほど。白やだなあ。

WC:大丈夫さ。背後から現れた形になるから、先頭だった玄はいまや最後尾。

玄:わお、あんまりよくねえ(笑)。

千晴:「夕日!前出るから、交代!」

玄:「俺も俺も!」

WC:1ターン目のみ、前列は千晴夕日、後列シン玄の固定で。

千晴:殿(しんがり)が頼もしいな(笑)。 
(↑シン玄(信玄)は、戦国時代の武将。父親を国外追放したり上杉謙信に塩をプレゼントされたり徳川家康をボコったりした。)

WC:殿(との)だけに(笑)。

玄:夕日やべえ…

WC:では戦闘です。

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