見出し画像

平和を感じておけるか

佐賀県武雄市で開催される「第60回道徳教育研究会」の発表準備もほとんど終わりました。
タイトルは「平和に真剣に向き合う」としました。
戦争が終わり80年近くたった今,中学生に戦争や平和にどう向き合わせるかについてずっと考えています。
教師生活36年間,8月9日の平和集会では,戦争体験談や戦争の写真,実物,絵本,物語,動画などいろいろな資料を子どもに提示してきました。
これからも,このような平和集会は継続されていくことでしょう。

私の父(すでに他界しています)は昭和7年東彼杵郡彼杵町生まれです。
太平洋戦争が始まった時は13歳でした。
時折,戦時中のことを話してくれました。戦時中の暮らしや原爆のキノコ雲を見た話,被爆者が長崎から彼杵まで列車で逃げてきた話,アメリカの戦闘機の機銃掃射や焼夷弾の話などを割とリアルに話してくれました。
こんな父の直接体験の話を聞いたことで,小さい頃から,戦争は恐ろしいものだと思ってきました。これが常識でした。

しかし,今の子供たちはこんな常識がないのです。戦争に関する話を聞いても,その中で出てくる言葉がわからないのです。想像できないのです。
つまり,自分の中に取り込むことが難しいのだと思います。
ここに,現在の平和学習の壁があると思っています。

8月10日の読売新聞の特集「軍と街の記憶」でアニメ監督の片渕須直さんの話が掲載されていました。片淵さんは,「この世界の片隅に」をつくった人です。私が関心を持ったのはこの部分です。


「戦時中の暮らしが,現在に生きる我々の意識と地続きではなくなっているとの思いが強くありました。確かに,突然爆弾を落とされて日常が簡単に暗転する危うい時代でした。しかし毎日,ご飯を炊いて食事を作り,冗談を言って笑い合う当たり前の暮らしもありました。その日々をきちんと描写すれば,あの時代と現在に橋をかけることができると考えました。」

読売新聞(令和5年8月10日)

ここにこれからの平和学習のヒントがあると思います。
現在の子どもにとって全く想像もできない大過去の戦争の様子をそのまま伝えていくことに加えて,
戦時中の子どもと現在の子どもをどう結び付けるかを教師は考える必要があると思うのです。

片渕監督は,こうも語っています。

「戦争が普通の人々のいつもの生活を奪うことを,いかに具体的に,リアルに感じておけるかが大事だと思います。映画がそのきっかけになればと願っています。」

読売新聞(令和5年8月10日)

ここで強調したいことは,リアルに感じておくことなのです。
知識として持っておくことではないのです。
今の子どもにリアルな資料や情報を提示するだけでなく,戦争や平和をいかにリアルに感じさせるかが,道徳授業を含め,これからの平和学習のポイントだと考えます。