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「多元追憶ストライクエンゼル」各話紹介#5

ぼくが制作に参加している自主制作アニメ「多元追憶ストライクエンゼル」。その各話を、メインプロットを追いながら見どころや制作の裏話などをお届けします。

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今回は第五話「彼と彼と、木星重力」の紹介と解説です。

第五話は、本格的な戦闘と新兵器の登場といったメカアクションや、ヒリュウの人間関係の描写、そしていよいよ動き出す敵の模様が描かれている見どころの多いエピソードとなっています。ストーリーやアクションは視聴していただければ充分理解できる内容だと思っていますので、この記事では各シーンに込めた意味や背景などを紹介したいと思います。

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夜明け—それは物語を始める黎明の光だ

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さて、第五話は、前回のラストで登場したハインツ・グライスト総統による語りから始まります。ヒリュウの前進が進むと共に、このグライストの物語も夜明けを見せるのですが、本格的な動きはまだ先の話。
続く第三帝国閣僚たちによる会議のシーンでは、"軍事交通網"の建設や、ゲルフ(冥王星)の前線基地の模様、さらにエルデンから発進した艦(ヒリュウのことですが)に関する報告がなされています。こういう会議のシーンというのは便利なものでして、後の展開の布石や会議参加者の力関係等を説明することができるんですね。逆に言えば、どのようなトピックを入れることで伏線として抑えることができるかというのが脚本段階でのツボとなるんですけれども。

ということでセリフに注意していただきたいというのはあるのですが、その他に注目していただきたい点といえば、この閣僚会議場のセットデザインですね。

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監督やぼくの間で共有されているイメージが、「悪の組織の代名詞 = SPECTRE(スペクター)」なんですけれども(スペクターというのは007シリーズに登場する巨大犯罪組織のことです)。グライストのモデルとなったのが、映画「SPECTRE」にてスペクターの首領ブロフェルドを演じたクリストフ・ヴァルツさんというのもあって、第三帝国にはその組織の要素が影響しています。さて、スペクターが登場する会議シーンやそのセットデザインというのが、伝統的な部分と宇宙開発時代の近未来的かつソリッドなイメージ等を上手く織りなして表現されていて、実にいかしているんです。それをヒリュウの世界の悪役たちでも表現したかった。もう一つ、このシーンではサメが泳いでいます。007シリーズではサメによる処刑という恒例(?)イベントがありまして、元ネタはそこからなのですが...この先ヒリュウの物語でも同様の処刑イベントが発生するのかは、どうぞお楽しみに。

このシーンの最後では、グライストによる「方針」が語られます。前進するヒリュウについて、「約束された希望の舟」と称するなど重要なセリフが続きますが、ここは物語で明かされるグライストの狙いと共に注目してください。

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リョウジとトモヤの衝突

第三話での戦闘や第四話で登場したグラハム・アルカードとの対話により戦術長としてヒリュウに乗艦することを決意したリョウジ。彼は艦長の天田に対し、コスモラプター(百禽)のパイロットに桜木セラを正式配属することを申し出ます。リョウジとセラ、この物語の二人の主人公の居場所が固まりつつあります
しかしながら、特に実戦経験のないリョウジは、同世代のクルーに認められているとは言えません。ヒリュウの休憩室内でそんなリョウジへの不満を漏らす古河トモヤ情報長。偶然その場に現れたリョウジに対し、突っかかって挑発します。リョウジもそれに反応し衝突するところまでいきかかりますが、ここで敵の作戦が始まります。
第三帝国の中佐ベネト・ダストーによる戦術。それはプラズマ発生装置とダミー艦によるヒリュウの誘導。「木星」の高重力の渦にヒリュウを追い込むことで、再起不能にするという作戦です。ただの奇襲でなく、残り少ない艦隊を上手く活用したダストーによる巧い作戦ですが、ヒリュウは間一髪で重力渦の外縁の小惑星に逃げ込めました。しかし、ヒリュウ第一艦橋では、リョウジとトモヤの間で責任のなすりつけ合いが起こります。お互いの不満をここで爆発させてしまうのは若さ故の行動とも言えますが、状況が状況です。副長のミサキ、そして天田は二人を叱責し、営巣に入れます。

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「脱出方法、見つけたんでしょう?」

営巣入りしたリョウジとトモヤ。喧嘩した二人を同じ部屋に入れるなんてちょっとまともじゃないですが、それはさておき。ミサキから様子見のおつかいを頼まれたのは、リョウジと相部屋のセラ。セラは二人を責めることなく、艦の状況と二人の功績を冷静に伝えます。その甲斐あって、落ち着きを取り戻したリョウジとトモヤ。

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リョウジは何気ない会話を通じて、この危機を乗り切る糸口に気付きます。第四話でヒリュウの兵装の説明を受けたリョウジでしたが、彼はそれを思い出し、次元振動砲を利用することによる木星の重力渦からの脱出をひらめきます

「宇宙戦艦ヤマト」(1974年)においても主人公の古代進と島大介が喧嘩するエピソードがありましたが(第14話)、ヒリュウ第五話の基本的な人間関係描写はそのエピソードに倣っています。オリジナルヤマトのそのエピソードは、衝突を通しての解放と和解を描いた話になるのですが、そんな「雨降って地固まる」といった要素をヒリュウにも取り入れたいということで、喧嘩とそれに対する罰を通しての融和を描いています。そういえば、ヤマト第14話での罰は艦内の清掃でした。そう考えると営巣入りってやり過ぎ感がありますが(リョウジたちはまだ若いのに)、一応戦闘中だし、仕方ないのでしょうか。

「これが次元振動砲」

リョウジとトモヤは次元振動砲による重力圏からの脱出作戦をミサキに上申し、艦橋に戻ることを許されます。
エンジンの推進エネルギーでは重力圏からの脱出は難しい。ならばそのユバフ粒子エネルギーを艦首の次元振動砲に使用することで、その反動と外部環境からの反応を利用し脱出しようという...つまり爆発を使うっていう大胆すぎるアイデアです。しかし、自力での脱出方法としては最も現実的です。そのため、天田艦長は、次元振動砲の試射も兼ねてこの作戦を採用します。

次元振動砲の発射シーケンスは、「宇宙戦艦ヤマト」(1974年)の波動砲の発射フローをそのままに取り入れています。あれ以上の端的で熱い流れを知らない。最大限の賛辞を込めてオマージュしています。音楽は、「新世紀エヴァンゲリオン」の"ヤシマ作戦"でおなじみの"EM20"をオマージュ。作戦進行を華麗にまとめ、流れるようなシーンにしてくれる魔法の音楽です。この二つの要素、セリフ回しと音楽に浸っていただき、難しいことは考えずにこのシーンはお楽しみください。

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さて、次元振動砲を発射したヒリュウですが、狙い通りの推進力を得て木星の重力渦から脱出します。敵のダストー中佐は次元振動砲とその破壊エネルギーに驚愕しますが、そのとき、爆散した小惑星破片が彼の艦を襲います。咄嗟に回避行動をとりますが、木星重力に捕まります。回避した方向が悪かったというより、次元振動砲による環境改変が原因なのではないかと思いますが、いずれにせよこれによりダストー艦は沈んでしまうのです。

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木星を背にして航路を進むヒリュウですが、次元振動砲によって変化した木星の姿についてちょっと解説させてください。
次元振動砲はヒリュウの最終兵器です。強力な兵器による惨禍を描いた作品は多々ありますが、イメージソースの多くは原爆や水爆の"きのこ雲"でしょう。確かに恐ろしい兵器の結果として人々に共有されたものとして最もわかりやすい表現だとは思いますが、その意味はあまりに深く、メッセージとして強すぎる。何より安易に模倣して描くべきではないということで悩みました。
そこで考えたのが、環境を"描き変える"力としての次元振動砲を表現することでした。爆発した木星の姿は、私たちの住む太陽系の木星のような形に姿を変えました。ヒリュウ世界の宇宙における惑星は島として存在していますが、次元振動砲によって私たちのよく知る星の姿のように変化した。リョウジがつぶやいた「これが次元振動砲...」というセリフは、リョウジにとっては爆発の壮絶さを目の前にした単なるリアクションですが、視聴者・観客にとってはよく知る現実世界が作中で展開されているというメタ的な理解をせざるを得ない、という構造になっています。 "描き変えられた"木星の姿によって、次元振動砲という兵器のおぞましさを表現すると共に、今後も使われるであろうこの兵器がもたらす未来への期待値を上げるという狙いがこのシーンにはあります。

ヒリュウの音声収録の裏話

シーンの解説から一旦離れて、ここで少し本シリーズの収録現場の裏話です。
収録の基本的な流れとしては、脚本と一通りのコンテが上がった段階でコンテの画を参考にして演者の音声を収録します。一般的なアニメでの現場では絵と尺に合わせて役者が声を吹き込むアフレコがなされていますが、本作では画は芝居の参考にはしてもらいつつ「間」は演者の方の感覚にお任せするケースがほとんどです。演者の方に演劇的なプロセスで芝居をしてもらうことで、作り手である我々の想定する演技プランにはないキャラの内面や発声を得ることができています。演者にキャラの解釈を委ねるという負担をかけてしまってはいますが、その分キャラと芝居が立体的になっており制作陣としては大変助けられております。特にこの第五話に関しては、演者の演劇的芝居がぴったりと嵌ったことで良いテンポ感に仕上がっているエピソードとなっています。また、先述の通り「雨降って地固まる」的シナリオで登場キャラも多いため、収録現場のまとまりができていったような感覚があったのを憶えています。

「例の特務艦」

さて、順番は前後しましたが、最後に次回以降の展開の布石を紹介します。

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中盤で登場した第三帝国航宙艦隊司令長官のラウムゼーですが、ヒリュウの現状を独自に把握すべく「特務艦」を差し向ける旨を副官たちに説明しています。副官たちに「あの特務艦」と言わしめる艦の実力が発揮されるのは、そう遠くない先の話になります。ぜひご期待ください。

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第六話へつづく

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Section2第1スタジオ@航海中( https://twitter.com/section2_1st )


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