死んだ。遺った。
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死んだ。遺った。

「えー、忙しい中こうやってみんなが揃って、橘も喜んでると思います。それじゃああいつを偲んで、乾杯」

 親友の橘が自殺して一年が経った。彼がアパートの部屋で首を吊っているのをご両親が発見したそうだ。遺書は無かったそうだが、警察は事件性無しとして処理した。

 今回、橘を偲ぶ会という名目で、彼と特に親しかった僕、森田、荻野の三人が学生時代皆で入り浸っていた居酒屋に集った。彼の死以降一堂に会することが無かったため、三人が揃うのはかれこれ一年ぶりである。

「後でさ、昔みたいにショットバトルしようぜ」

 ジョッキのビールを既に飲み干していた森田が提案した。確かに、昔はよく四人でショットバトルをしたものだ。僕も荻野もすべてが単純だった当時を懐かしみつつ、快諾した。それからは三人で酔いを深めながら、くだらない笑い話からしんみりとした話まで、橘との思い出を語らいあった。

 しばらくすると、すっかり顔を真っ赤にした荻野が何か言いたげにモジモジと体を動かし始めた。

「おいおい、トイレか?」

 僕が笑いながら聞くと、黙って首を左右に振った。

「俺、実はさ、橘のことで黙ってたことがあるんだよ。一人で抱えてるのがもう限界でさ……悪いけど、酔ったついでに話してもいいかな?」

 荻野は僕らを直視せず、半ば独り言のように言った。そして、返事を聞く前に再び口を開いた。

「橘な、首吊り自殺で遺書が無かったってことになってるだろ?あれさ、本当は首吊りでもなかったし遺書もあったんだよ。そもそも第一発見者は親御さんじゃなくて、俺なんだよ……」

 荻野はそこまで話すと、鞄の中から一冊のぼろぼろのノートを取り出した。

「これがあいつの遺したノート。みんなにも確認してほしい。俺がこの存在を隠してた意味がわかると思う」

 荻野が机の上に置いたノートを、怪訝な顔をした森田が恐る恐る開いた。中身が目に飛び込んできた時、僕は思わず声を上げて飛びのいた。

【続く】

#逆噴射小説大賞2021 #小説 #ホラー

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昼は会社員、夜は小説書いたり書かなかったり。