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幻の「別冊サザエさん」第三集と第四集を読みました

「別冊サザエさん」とは

 毎週日曜日の夜に放送されていますアニメ「サザエさん」、その原作は新聞連載の4コママンガです。
 そのサザエさんに4コママンガではない1話あたり8ページ前後の短編マンガが存在するのです。
「別冊サザエさん」というタイトルで、サザエさんを出版していた姉妹社から1975年に全3巻が発売されました。1993年に姉妹社が廃業された後は、朝日新聞社から1998年に愛蔵版全1巻、2001年に文庫版全2巻が発売されました。

幻の「別冊サザエさん」全5集が存在した

 ここまではサザエさん好きの人たちの間ではよく知られていることなのですが、「別冊サザエさん」は当初全5巻で発売されていたのです。
 私は2021年にその存在を知りました。あれ、全3巻という話じゃなかったっけ?

 調べてみますとAmazonに第4集と第5集が登録されていました。

 第4集は1958年、昭和33年の発売です。第5集は1959年、昭和34年。全3巻が発売される16年前です。

市場にはまず出ないし……?

 読んでみたい! と思うのですが、ネット通販では取り扱っているサイトを見付けられませんでした。
 ネットのオークションやフリーマーケットでも全5集のうちの1冊が年に数回出品される程度で、全5集セットの出品は過去に1回だけしか見付けられませんでした。

 サザエさんについて言及されているサイトは多々ありますが、別冊サザエさん全5集について言及されているサイトがそもそも見付かりません。
 2010年に古本屋の「まんだらけ」名古屋店に存在したという情報がようやく見付かったくらいでした。

長谷川町子記念館「別冊サザエさん展」開催

 そんな頃、東京都世田谷区桜新町にあります長谷川町子記念館で企画展「別冊サザエさん展」が開催されることになりました。
 開催期間は2021年10月9日~2022年1月10日とのことで、残念ながら見学することは出来なかったのですが、長谷川町子記念館の公式サイトによりますと

1954(昭和29)年から1959(昭和34)年までの約5年間に月1話のペースで雑誌に「サザエさん」の短編漫画も連載していました。その雑誌は『少女クラブ』『週刊朝日』『婦人倶楽部』『若い女性』などで、順に発表の場が移り変わっていきました。

https://www.hasegawamachiko.jp/memorial-museum/

雑誌掲載作品63話のうち54話を『別冊サザエさん』(全五集)にまとめました。

https://www.hasegawamachiko.jp/memorial-museum/

そして約20年後の1975(昭和50)年からは36作品の再録と新たに4作品を加えた40作品を収録した『別冊サザエさん』(全3巻)(単色印刷)を発行しました。

https://www.hasegawamachiko.jp/memorial-museum/

 とのことでした。
 新たに4作品とのことで文庫版を読み返しますと2巻の「年のくれ」「健康づくり」は明らかに新聞連載末期の絵柄です。残りの2作品は……? 分かりません。新作ではなく、全5集に入らなかった話かも知れません。

京都国際マンガミュージアムへ

 引き続き調べていましたところ、京都府京都市にあります「京都国際マンガミュージアム」に第1集から第4集までが所蔵されていることが分かりました。
 東京都の国会図書館に行けば良いのですが、関西在住の身としては気軽に行ける場所ではありません。京都であれば日帰りで行けます!
「別冊サザエさん」を読むには事前予約が必要で、「研究閲覧室」にて閲覧することになります。詳しい手続きは公式サイトをご確認下さい。

 ということで予約して読みに行きました。

 用意して下さった4冊のうち、1と2は1975年に発売された新しいもの(以下「新」)でした。3と4が古いもの(以下「旧」)でした。

別冊サザエさん第三集

 昭和31年11月25日印刷、12月1日発行、120円。
 カラー印刷であることに驚きました。文庫版を持参して読み比べたのですが、服や小物の模様が異なる部分がありました。
 また、セリフが全体的に見直されていて、漢字から平仮名へ、平仮名から片仮名へ、といった変更点がありました。また「元氣」が「元気」になるなど、漢字の旧字体と新字体の違いもありました。
 そのあたりはキリがありませんので書かないでおきます。最初は持参したノートにメモしていたのですが諦めました。
 どのようなお話が収録されていたかを書き出していきます。

「漂流の巻」

 姉妹社版サザエさん68巻に収録されていた「ひょうりゅう記」です。元は別冊だったとは。
 68巻を持っていませんので比較は出来ませんが、サザエたちが島に流れ着いて人食い族に捕まるというあれです。

「おせっくの巻」

 15コマ目の電柱に「呉服店」と書かれています。

「私立探偵入門の巻」

 新のタイトルは「私立探偵入門」です。新で「の巻」がカットされたタイトルは他にもいくつかあります。
 この話はセリフもところどころ変更されています。また、途中の展開が新旧で大きく違っています。

 1コマ目
 旧「探偵なんて」
 新「探偵って」

 4コマ目
 旧「ホホ……」
 新「ホホホホ」
 旧「キザな」
 新「キザっぽい」

 6コマ目
 旧「そんなことでは探偵はつとまりません!」
 新「いいかね 探偵はゆだん大敵」

 7コマ目
 新はコマが左右に分かれていますが、旧はお客さんが泣くシーンのみです。所長が「まあまあおちついて」となだめています。

 12コマ目
 旧「やれ たすかった」
 新「探偵はきょく力 経費をケチる」

 ターゲットに道路の横断を助けて貰った後からの展開が全く違っています。

「御料理」と書かれた提灯が吊るされた店に入るターゲット。店の中から「あら ヒーさんいらっしゃい」との声。

 L字型のカウンターに座るヒーさん。後ろの壁際のテーブル席に座るサザエ。「美人のおかみと非常にしんみつ タコの三バイ酢でおかんびん三本のむ……と」

 店を出るヒーさん。「アッ しまった でていった」

 タクシーに乗るサザエ。「大至急よ!!」。ちなみに初乗りは80円。

 後部座席でサザエ「チョビひげの男がのった車どれ? あとつけて」。

 運転手「このだんなですか」。隣に乗っていたヒーさん。

「いた!!!」タクシーを降りるサザエ。

 最後の1ページは新旧同じ展開です。ただ、サザエが立ち止まって「アッ マスオさんだわ!!」「ええ! ひとのことどこじゃないわ!」と叫んでいます。新では走っている姿でした。

「キャンプの巻」

 新旧を比べますと新はコマの端がカットされています。例えば、旧は「キャンプ村」の看板が全て描かれています。新は上と右が切れてしまっています。

「アルバイトの巻」

 旧の3コマ目はおばさんの「ちょいと このイージーオーダーの服 注文するわ」というセリフがあります。新ではセリフがカットされおばさんが黙ってポーズをとっている状態で、少し不自然に思います。

 おばさんのスリーサイズを測るとき新は「センチ」ですが旧は「インチ」になっています。
 バストは「三十一インチ半」、ウエストは「二十三インチ」、ヒップは「六十四インチ」です。
 1インチが2.54cmですので、バストが約80cm、ウエスト約58.4cm、ヒップは約162.5cmあることに! もっともこのスリーサイズは……ですね。
 なお、新ではバスト98.5cm、ウエスト58cm、ヒップ170cmです。

 ジッパーを開けようとするシーンのサザエのセリフが旧は「しょうちしました」で新は「まかしといてください」。新の方がサザエらしい言い方に思いますね。

「わんわん物語」

 新では左右に分割されているコマがありますが、旧ではそれぞれ1つのコマになっていて、ページ数が膨らんでいます。
 冗長的だから左右に分けたのか、ページ数の都合でまとめざるを得なかったのか……?

「たすけあいの巻」

 この話も途中の展開が新旧で大きく違っています。
 新では9コマ目で「エヘン ごめんください」と誰かが訪ねて来ますが、旧ではそれがありません。

 サザエ「では そろそろ夕はんのしたくにかかりましょう」
 奥さん「では おやさいがありますからオデンでもつくっていただきましょうか」

 歩き出すサザエ。机の上の手紙を見て「おくさま この手紙 キッテはっておだしするんですか」
「どーぞついでにおねがいします」

 娘「こめびつはこっち」
 息子「ダシザコはあのカン」。ダシザコ……出し雑魚ですね。
 壺を見てサザエ「オーケイ するとこれはぬかづけかな」

「マア おいしいラッキョウ!」食べるサザエ。

 娘「おいしゃさんがきた」
 サザエ「しまった!! たべるんじゃなかった!」

「しんさつすんだんだよ はやく! はやく!」息子に背中を押されるサザエ「こまるわ こまるわ」

「いらっしゃいまし」

「先生どーぞ」お盆を差し出すサザエ。

「あいすみません これをのせるのをわすれまして」洗面器をのせていなかった。このお盆の2コマは新にも引き継がれています。

 場面は台所。「さぁ! オデン一ちょうあがりー」

 息子に食べさせようとサザエ「アーンして! おあじみしてみて」

「アッ」

「キッテをはって出すんだった!」口を開けていた息子に切手を舐めさせるサザエ。

「おくさま ちょっと ひとっぱしり だしてまいりまーす」
「ごくろうさま」

 最後は新と同じオチ。

「いあん旅行の巻」

「クラス会の巻」

 新の「クレンジング」が旧は「クリンジング」になっています。

「ロマンスのおこり……」のシーンで、旧は「げんめつだわ」のセリフがサザエの隣に座っている人のものになっています。新は向かいに座っている人ですが、旧はそもそも向かいの人が描かれていません。

「としよりの日」

 新のタイトルは「敬老の日」です。背景の貼り紙も旧は「としよりの日」です。

別冊サザエさん第四集

 昭和33年6月25日印刷、7月1日発行、120円。

「入学試験の巻」

 新の5~7コマ目は旧には描かれていません。
 旧の5コマ目が「テレビもやめて」、6コマ目が「まぁうれしい!!!」、7コマ目が「茶ばしらがたった」です。

 新の「松本清張」が旧は「吉川英治」(吉は土に口)になっています。

 旧は最後のコマがページの中段になっていて、下段にはサザエとワカメのイラストが挿入されています。

「にちようの巻」

「特売セール」

「画家とモデルの巻」

「犬猫病院の巻」

 病院の名前が新では「イヌネコ病院」ですが、旧は「家畜病院」になっています。

「お花見の巻」

 新旧で展開が大きく異なっています。

 新の切符を購入するシーンが旧では描かれていません。

 電車のシーン
 旧「今日のお花見電車 たいへんな人出ね」「カツオ! むこうについてからおあがり!」
 新「みんなお花見にいくんだなァ」「すごいひとでね」

 切符を拝見のシーンは、新では切符が見付からないとなっていますが、旧ではマスオが「あ ここです」と切符を差し出しています。新の「ワカメがもってる」とその次のコマは旧にはありません。

 旧では電車の中で仮装した一行に波平が酒を勧められています。顔を赤らめて家族のもとへ戻って来た波平はカツオに「むこうについてから」とたしなめられます。
 新では酒を勧められるどころかハゲ頭を笑われていますので随分と違った雰囲気ですね。

 新でケンカをしているのはイヌとサルでしたが、旧はなんと「神武天皇と仁徳天皇だ!」。千年以上昔の天皇とはいえさすがにマズかったのでしょうね……。

「こじまたかのり」が旧はスーツ姿の男性です。
 Wikipediaによりますと「児島高徳」という鎌倉時代末期から南北朝時代にかけて活躍したとされる武将で、桜の木へ漢詩を彫り書き入れたというエピソードが残っているそうです。

「野だての茶会」の次のシーンも新旧で違っています。
 旧はワカメが外国人女性に「おー かわいベビー とらせてください!」とカメラを向けられ、困ったワカメがサザエのスカートの裾をたぐり寄せてしまうというものです。

 山を歩きながらサザエ「花の山はあいかわらずねー」「ジュースのあきびんがころがってる!」「一升びんもころがってる!」そして酔っ払った波平が転がっていたという……。
 仮装した一行が「どうもすみません お父さんといきとうごうしちゃってね」と波平を抱え上げるシーンで終わりです。新はほのぼのエンドに変更されたのですね。

「けっこん式の巻」

 旧はタクシーの窓に「70円」の文字が書かれています。
 また、参列したのはサザエとマスオですが「イソノ家」と言われています。

「このごろの子供」

 新には収録されなかった話です。

 井戸端会議でおばさんたち
「うちの娘ときたら 皇太子さまのお写真をあつめちゃってさ 夢中なの!」
「まだいいわよ うちなんか ユル・ブリンナァに熱あげちゃって 部屋中プロマイドだらけ」
 黙って聞いているおじさん。
 Wikipediaによりますと「ユル・ブリンナー」は1920年ロシア生まれの俳優で、「王様と私」などの映画に出演されたそうです。

 おじさん「そこいくてえと うちの娘なんてかたいね ちかごろ宗教にこっちゃってね」
 コマの左に床屋。

「坊さんのシャシンなんぞあつめてまさァ」
「いやだ これがユル・ブリンナァってはいゆうよ」

「これがはいゆう!!」「へえ世の中もかわればかわるもんだね」

「あんなヤカン頭のどこがいいんだ」娘は「たまらないわー」
 窓から「えー こんちわ さかなやでござい」

 娘「それおいてって」魚屋が手にしていたのはタコだった。

「あきれかえった奴だ」
 床屋の弟子「親方 お客さんがおまちで」

「頭をすっかりそっちゃうんですって」
「すぐこれだ」

「あんた忠告するが こんなキザな頭はやめた方がいいよ」

「キザかしらんが商売でね」お客さんは坊さんだった。

「こんちわ!」床屋に来た波平。「おやいらっしゃいまし どうぞどうぞ」

ラジオ? から「シックスフット セブンフット エイトフット バンチ」という歌が流れる。
「だんな どうです あのバナナ電車てぇウタは!」

「親方 バナナボートですよ」
「ボートだかゆうらん船だかしらねえがきみょうなウタがはやるじゃありませんか」
 Wikipediaによりますと「バナナ・ボート・ソング」というジャマイカの歌で、1957年に日本で流行したそうです。

「きみ!! このヒゲはなんだ!!」
「しまった!! 片がわそりおとした」ヒゲを半分剃り落とされた波平。

「わがはいの威厳はメチャメチャですぞ」怒る波平。
「なんともあいすみません」

 床屋を出る波平「このかおで会社にいけますかッ! とうぶんやすみです!!」
「いちいちごもっともです」

「あー このままじゃ悪くてどうにも気がすまない」

「頭をまるめておわびにいってくる」
「お前さん」「お父さん」驚く妻と娘。

 道で冒頭のおばさんたち「アラ とこやのおやじさんよ」「あれであんがい新しがりやなのね」

「海水浴の巻」

 サザエ「カリプリから流れついた土人らしいですわ!!」。
 文庫版では「土人」が消されています。姉妹社版ではどうなのでしょう?

「美容法の巻」

 3コマ目
 旧「困苦欠乏にたえて越冬する探検隊のつもりになれば平気へいき」
 新「ぐっとがまん 南極えっとう隊のつもりになりゃァ」

 12コマ目
 旧「意志はくじゃくなことでは」
 新「意志のよわいこっちゃ」

 18コマ目
 旧「美容上節制してんのよ」
 新「太っちゃこまるンよ」

「お見合いの巻」

 女性の名前が違います。旧は「安田さち子」、新は「北川マリコ」。

「さいまつ警戒の巻」

 これも新には収録されなかった話です。

 近隣の家にビラを配るおばさん。受け取った家の人は「ああ さいまつけいかいの注意ね」

 次の家へ。「町内からのすりものです よくおよみください」
 対応した男「こりゃどうも」

 ビラを読みながら家へ入る男「えー ひるでも家をあけないこと 戸じまりは厳重にすること……と 非常ベルをつけること か」。サザエが縛られていた。

「ところでさあ 金のありかをいってしまえ」
「エ、エプロンのポケットです」

 壁に掛けられたエプロンのポケットを探る男「なーんだ たった九百四十円しかないじゃないか!」

 外から声「こんちわー ガス代のしゅう金です」ギョッとする男。

 水道代の集金も来ていた「えー 水道料金三百円也ね」ガス代の集金「六百四十円です」

「冗談じゃないぜ はらいをすましたらなくなっちゃったよ」
「いまんとこ おろしてこなきゃ一銭もないんです」銭の字は金が省略されています。
「ニャーニャーニャー」と寄って来る猫。

「チェッ まぁなんとうるさいネコだよ めしのさいそくかー 話もできん」

 猫の餌を用意する男。サザエ「ア ごはんか……すみません」

 また外から声「小包です みとめねがいますよ」
「なるほど くれはいそがしいや」

「いそいでください!!」「すみません」叱られる男。
「オーイこっちはゴミやだがね ゴミ箱にねずみのしがいがへえってたぜ!」

「え? こまるよおたくは! きをつけてもらいましょう!」
「どうもすみません きをつけます」叱られる男。

「しんぶん代のしゅう金です」
「炭やです 千八百円いただきます」
「またこんどにしてくださいな」

「冗談じゃありませんよ これで四回目ですよ くれですからこの上 待たせないでやってくださいな」

「このうえぐずぐずしてたらとんだめにあわぁ! オーバーとぼうしだけにしとこう」急いで帰ろうとする男。

外に出た男。向こうから警察官が歩いて来る。

「くせもの まてッ!!」「ど どうしてわかったんです」

「きみ めかくしとるのを わすれてるじゃないか!」
「アレッ!! よういわんわ」

 帰宅したフネがサザエのロープを解いている。
 警察官「このごうとう おたくにはいったんだそうですね」
 サザエ「はぁ」

 フネ「まぁよかった!! お父さんのオーバーとぼうし」
「ほかに被害とどけをいってください」

 男「被害は私のほうでして 炭や 新聞代のたてかえ しめて二千六百円ありますんで」
 サザエ「はあ そうなんですの」
 後ろに転ぶ警察官。驚くフネ。

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