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David Byrneの「AMERICAN UTOPIA」 アメリカ人が直面する「分断」をテーマにした デビッド・バーンの実験的ブロードウェイ公演を、SPIKE LEEが最高のドキュメンタリー映画に。

80年代、TALKING HEADSで一世を風靡したデヴィッド・バーンの映画が、全国の映画館で公開されている。「AMERICAN UTOPIA」。https://americanutopia-jpn.com/

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デヴィッド・バーンが2019年にブロードウェイで大成功させた舞台を、スパイク・リーが2時間弱の映画にしあげたドキュメンタリー・舞台作品。面白い!って友人に教えられて見に行っているので期待も膨らみまくっていたが、映画は、その膨らみまくった期待を超えてさらにパワフルに刺さる素晴らしいものだった。

デヴィッド・バーンは、80年代に世界的ヒットをいくつも飛ばしたレジェンダリーなミュージシャン。誰にも似ていない強烈な個性。シャープでシニカルな批評眼に溢れた楽曲。オシャレで時代的なサウンドデザイン。豊かなユーモアとともに伝える表現スタイル。個性的なダンスとファッション。世界中の音楽ファン、なかでもマニアックな世界の音楽好きの絶大なる支持を得ていた。

「人間の根源的な興味の対象が、自分以外の他の「人間」そのものにあるなら、人間以外の要素を限りなく削ぎ落とした人間だけで構成する舞台を創ろう」そう考えて設計され、構成された舞台は、びっくりするほどシンプルで美しい。バックコーラスとギター、ベース、ドラム、パーカッションで構成されたバックミュージシャンたちは、すべて、舞台用に開発されたユニークな装具で楽器を体に密着させ、電源ケーブルからも解放された自由な動きで舞台を歩き回る。全ての演者は、歌いながら演奏しながら、楽曲ごとに設計されたアルゴリズミックな動きとフォーメーションでパフォーマンスを展開する。本業とは違う動きやダンスを求められながら、すべてのミュージシャンが超高度な演奏技術でデビッド・バーンのステージを盛り上げる。

肩幅の極端に広いスーツというアイコニックなファッション記号(80年代のデヴィッド・バーンのトレードマークだった)はそこにないが、逆にそれすら削ぎ落とした末に浮かび上がる強烈な個性と人間臭さが、シンプルにストレートに訴えかけてくる。

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世界はもっと良くなれる。移民排除、黒人差別・黒人への暴力、ヘイトスピーチ。この数年、アメリカ社会が直面してきた問題は、ひとりひとりが問題に目を伏せることなく考え選挙にいく権利を正しく行使しすることで変わっていく。スタイリッシュにしてクールなパフォーマンスのすべてが、そのメッセージをイモーショナル&クリエイティブに伝えるための表現だということが次第にわかってくる。バックミュージシャンが世界各国からキャスティングされていることも、今のアメリカが豊かな移民たちの才能によって成り立っていることを訴えるためのもの、違う民族がつながり融和することで素晴らしい世界が生まれることを改めて実感させるためのもの。すべての演奏者がケーブルに縛られず自由に舞台を動き回るのも、人々の自由でクリエイティブな視点が重要であることを伝えるため。余計なセットを可能な限り削ぎ落とし人間だけで舞台を構成しているのも、人間とそのつながりに目がいくようにするため。

広告の世界では近年「パーパスブランディング」というブランディングの時代的考え方が濃く議論されている。ブランドパーソナリティやカラーを定義して、それにそったブランド活動を積み上げていく従来の考え方からさらに踏み込み、その企業が社会に存在しているそもそもの目的=パーパスを明らかにし、そのパーパスに沿ってすべての企業活動を再整理・再設計していく考え方。デヴィッド・バーンというアーチストは、はるか昔TALKING HEADSの時代から、アーチストとしてのパーパスブランディグが完璧にできていた人だったのかもしれない。「世界を見つめる目線を養うことで誰もが世界を変える一人になれることを音楽を通じて伝える」。ぶれることなく続いてきたその流れは、70歳になろうとする今もまったく変わっていない。だからこそ、このAMERICAN UTOPIAでは、過去の楽曲もあわせて1つのストーリーにつむぎ直し「世界を見つめる目線を養うことで誰もが世界を変える一人になれる」をコアに据えた2時間の物語を表現することに成功している。70代を前にしてさらに磨きのかかった天才クリエイターは、「分断」というダークで巨大な時代暗部に立ち向かい、他者や隣人とコネクトすることの意味を深く問うている。

っていうか、理屈はどうあれ、たった1800円で世界最高クオリティのパフォーマンスが見られると思ったら、こんなお得なことはない。さあ、何はともあれ家を出て、映画館に向かい、今世紀もっともキュートで、クレバーで、パンクなじいちゃんに会いに行こう。そして、彼独特の世界の観察の作法や問いの立て方、カッコイイ人生のあり方、クールな体の動かし方を、右脳と左脳をフルコネクトして感じに行こう。

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