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秋田 27歳 夏

初めての一人旅を敢行した。
例えば、目的地で誰かと待ち合わせをして、そこまでの移動が一人、というのは何度か経験した。
仕事で一人どこかに行くこともあった。
けれど、今回は本当に一人だ。
途中で友人に会うこともなく、何か約束があるわけでもない。
純粋な、一人旅。2泊3日のドライブ。

出不精な家庭に育ったからか(大人になるまでは一般的な家庭と思っていたが、どうやら同世代と比べると旅行の回数が少ないらしい)、東北で生まれ育ったものの秋田は訪れたことが無かった。
男鹿半島を車で一周したい、というのを一番の目的に、初めての一人旅を敢行した。

あまり細かな計画は立てなかったけれど、目標地点になるように、もっと言えば途中で投げ出さないように、宿だけは確保した。

出発の朝。
それまで夜な夜なGoogle Mapで所要時間を調べていたが、いざカーナビに最初の目標地点を入れると、想定していた2倍の時間が表示される。
もう行きたくなくなった。
何とか走り出し、しかし20分ほど進んで立ち寄ったコンビニで、すっかりやる気を失う。
ここで、何日か前の自分が予約したホテルが、当日キャンセルするの?と、引き返すことを踏みとどまらせる。

自分の意思で旅行を決めたはずなのに、渋々、といった心持ちで、再び車を走らせた。

途中、ローカルFMラジオを聴いてその土地のことを少しだけ感じたり、田園風景のまっすぐな道で、横切るように飛行機が飛び立って行ったり、些細なことが今でも思い出せるほど、ドライブは結局楽しかった。

秋田県に入り、海沿いに並ぶ風車を横目に、巨大ななまはげに足を止めながら、ついに目的の男鹿半島にたどり着いた。

この旅で最も気に入ったのは、寒風山展望台だ。
男鹿半島の真ん中あたり、山の頂上にある円形の展望施設で、そのものが回転するので座っているだけで360度の景色が見渡せる。

男鹿半島から本州へと向かう曲線。日本海。もとは干潟だった街並み。
目の前で変わっていく景色をぼんやりと眺めていると、途方に暮れるような大自然を切り開いて暮らしを作ってきた人々の営みに、涙が出そうになってくる。

展望台が2周するあいだじっくりと景色を楽しみ、屋外の展望台からも四方の景色を楽しみ、ソフトクリームを食べて、名残惜しくも展望台を出た。

その後も男鹿半島を周り、なまはげの施設は一人で入るのが憚られてスルーし、秋田市内や周辺の名所を巡り、無事に2泊3日の旅を終えた。
道中に神社があると、無事に帰れますように、と初日から徹底してお願いしていたので、その願いは3日後にしっかり叶えられたとも言える。

初めての一人旅は、食事や体験ものは少々場所を選ぶけれど、景色や展示施設を見ることは、あまり臆さず、人目も気にならないものだな、と発見した。

帰宅後、出発して20分で引き返したくなった、と父に話すと、共感を得た。
そのことが、なぜかとても嬉しかった。
少しだけ、父のような大人になった気がした。

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