一般社団法人を活用した事業承継×家族信託
今回は、事業承継×家族信託の事例の中から、
【一般社団法人を活用した家族信託】についてご紹介していきます。
事例内容
今回の事例は、A社（仮）の現社長（６４歳）よりのご相談。
現社長のご相談は
「認知症対策のために自社株式を信託しておきたいが、現時点で議決権を託すのは早いと考えている」といった内容でした。
A社では、後継者候補として現社長の長男と次男がいましたが、後継者をどちらにするかは決まっていませんでした。
現社長は認知症になると議決権行使ができなくなると聞き、認知症対策として家族信託の活用を検討し始めたことがきっかけで、今回のご相談に至りました。
現社長は、事業継続のために認知症対策はしたいけれど、現時点ではまだ経営能力が未熟な長男や次男に議決権を行使させるのは早く、しばらくは現社長自らが議決権を行使していきたいと考えていました。
「後継者が決まっていない」場合の事業承継×家族信託
上この事例におけるポイントは「後継者が決まっていない」ということです。
ここで「とりあえずどちらかに後継者を決めましょう」と言うのは、現社長の思いをないがしろにしており、コンサルティングとは言えません。
とはいえ、このまま何もしなければ、現社長が認知症により判断能力を喪失した場合には、議決権の行使ができなくなり、議決権の凍結によって会社の経営が立ち行かなくなってしまいます。
家族信託を活用した事業承継の中で、議決権行使に制限を付ける方法としては、現社長に「同意権」や「指図権」を付与する信託契約とするというものがありますが、この方法は機動性や融通性に少なからず影響が出るので、今回のケースではなじみませんでした。
「一般社団法人」の活用
こういった事例で活用されるのが、「一般社団法人」です。
受託者として「一般社団法人」を設立します。
この一般社団法人に現社長と、次期後継者の候補である長男と次男が社員となります。
(一般社団法人の設立は1人ではできず、2人以上の社員が必要です。)
ちなみに株式会社と一般社団法人では、役割に関する用語が異なります。
株式会社の「取締役」は、一般社団法人では「理事」といい、
株式会社の「株主」は、一般社団法人では「社員」と言います。
社員というと、「従業員」のイメージを持たれている方も多いかと思いますが、一般社団法人では異なる意味となります。
信託後も現社長が議決権を行使するには
一般社団法人の最高意思決定機関は社員総会です。
そして、一般社団法人の社員が有する議決権の数は定款で自由に設定することができます。
例えば、現社長１０、長男１、次男１といった設定もできるわけです。
この性質を活用して、信託組成当初は現社長が単独で意思決定ができるようにしておく。
かつ、任意のタイミングや現社長が意思能力を喪失したタイミングで議決権の数が変更されるような
定款規定をおいておけば、現時点においては現社長の支配権を維持しながら、将来の認知症対策をすることが可能です。
代表理事の変更で事業承継が可能になる
将来、現社長がトップの地位を退く際は、上記の議決権の変更及び代表理事（株式会社で言う代表取締役）の変更を行います。
（このタイミングでは、後継者を長男、次男のどちらにするか確定している必要があります。）
このようにすることで、信託時には後継者が決まっていなくても、事業承継に適した時期まで、現社長が議決権を行使しながら、後継者を見極めていくことができます。
コンサルティングに正解はない
「信託はしたいけれど、あと1～2年は自分で議決権行使がしたい」
上記の事例のようにオーナー経営者の多くは、「自分はまだやれる、頑張れる」という思いを持っていらっしゃいます。
家族信託のコンサルティングに正解はありません。
お客様によってどう捉えるかがとても大事です。
専門家が正解だと思ってご提案したものでも、お客様にとっては不正解の場合もあります。
大事なのは「納得解」であり、いかにお客様が提案内容に「納得したか」が重要になります。
上記の事例の場合、一般的な家族信託の方が、一般社団法人を設立するコストもかからずにシンプルで分かりやすいように感じる方もいらっしゃるかと思います。
しかし、お客様にとっては、一般社団法人を作る方がコストはかかっても正解な場合もあるのです。
お客様の希望は何か、何が納得いただけるポイントなのか
納得解を提案し、形にできるコンサルティングをしていきましょう！
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