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ITサポートの原体験<Vol.2>

これから話すのは、社会人2年目後半の出来事。
自分が、とあるCATV系ISPのサポート業務に関わっていた頃の話である。
 
※以下、一部事実をベースに脚色しています。
 
当時の自分は、週6日勤務だった。
週2日:CATV局に常駐しての社内PCおよび社内サーバーの管理
週2日:オンサイトスタッフとしてCATV局のエンドユーザー様の訪問
週2日:CATV局のコールセンターにて電話&リモートサポート対応
 
上記の中で3つ目のコールセンター勤務で起きた事件、それは今でも忘れられない出来事の1つだ。
 
2004年2月、自分はコールセンターのサポートチームでサブリーダーを務めていた。チームメンバーは8人。
登場人物は、自分の上のチームリーダーのYさん。そして事件の引き起こしたS君。そしてスーパーバイザー(以下SV)のTKさん。お客様のH様。
 
 
ことの発端は、CATVのエリアに引越されてきたH様。
大手ISPから、自社のケーブルインターネットに乗り換えしたものの、メールエラーが発生していまい、サポートセンターに、電話をしてきたのだった。
 
チームメンバーのS君が、新しいCATVのメール設定を完了させた。そこまでの対応は良かった。
その後、他のお客様と同様の対応というカタチで、古いISPのメールアカウントの設定を削除してしまったのだった。
 
【たったの1クリック!削除ボタンを押して貰う案内をした事が、悲劇を招いた】
  
H様は、Macをお使いで、お使いのOSは「Mac OS 10.2 Jaguar」。使っているメールソフト(アプリ)はApple『Mail(通称:Apple Mail)』だった。
 
このメールアプリは、メールアカウントを削除してしまうと、受信メールとアカウントが削除されてしまう【要注意】アプリだった!

■本来のMac『Apple Mail』対応フロー
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アカウントを削除したときに消されるのは、Mail.appのビューアウィンドウで左上に表示されている「受信」「下書き」「送信済み」「ゴミ箱」「迷惑メール」ボックス内のそれぞれ「アカウント名」に保存されているメールです。
アカウントを削除しても、この中のメールを残す場合には、
1.「メールボックスメニュー>新規メールボックス...」を選択
2.場所:「このMac内」/名前:「好きな名前でOK」として、「OK」
3.ビューアウィンドウの左サイドに新しいメールボックスが作成される。
4.「受信」ボックス等の中の「アカウント名」に保存されているメールを新しく出来たメールボックスに移動する。
これで新しいメールボックスに移動したメールはアカウントを削除しても、削除されません。
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Yリーダーが、S君からエスカレーションを受けて代わりに対応。
H様より
「以前のISPのアカウントデータと受信メールの全てが消失してしまった!どうしてくれるんだ!」
「メールだけのやり取りのお客様もいたのに!自分の新しいメールアドレスを知らせる事も出来ない!どう責任を取ってくれるのか!」
とのお言葉。
 
H様は、とある美容室の【店長】として、現在の地域に転勤(引越)をされてきたとの事。新店舗の店長として、以前のお店のお客様を新店に呼ぶ予定だったのに、全てのメールデータが消えてしまい、案内文を出す事すら、出来なくなってしまった、との事。
 
悲劇は未だ続く、『受信メールを全て保管しているから、アドレス帳を別途作っていなかった』のだ。
さらに、メールデータのバックアップも取っていなかった事が判明。
 
H様より「今までのお客様に、新しいメールアドレスをお知らせしないと、『シカトしている』と思われてしまう!!!本当にどうすれば良いのか?」
(深刻そうな状況ではなく、本当に深刻な状況に陥る)
 
<<<<一旦ここで1回目の電話対応を終了。解決策を考える事に>>>>
 
しかし、この時点で、どうしようもない事が次々と判明する。
 
・データの復元が、非常に厳しい事。
・以前のISPに問合せをしてメール開示を依頼するもOKが出ないかも知れない。
・仮にメールデータが開示されても1~2ヶ月分のみでは、到底足りないとの事。
・喪失した顧客数は、50名弱の人数。
 
<<<<翌週、再度H様にTKさんから架電>>>>
  
H様から「『ぜひ東京のお店に行きたいので、早く住所を教えて下さい!』と美容室のお客様から言われているのに、データの復元は本当に難しいのか?」と言われる。
 
さらに、H様から悲痛な叫びが続く。
 
・お客様と二度と連絡が取れなくなってしまうのは本当に困る
・新店舗のスタッフ達からも、「店長って、誰もお客様を連れてこれないんですね」と言われてしまう。
・美容師の給料は、有る意味、歩合制で、お客様とのコネクションが極めて重要なのに、それを一瞬で失ってしまった。
 
ここで、TKさんから、ダメ元でデータ復元出来ないか?と、自分が相談を受ける。
非常に難しい話で有る事を伝える。
TKさんから、大手ISPのサポートセンターに連絡。メールデータの開示を依頼するもNGの返答。
理由は「警察または裁判所からの依頼が無い限り、データ開示は出来ない」との事だった。また、メールに関してのログデータの提供も不可、との回答だった。
大手ISPのメールアドレスは「まだ契約済」のステータスだったが、重要なメールはアカウント削除される以前で有って、それ以降のメールを受信しても意味が無いことも判明。
 
この時点で、TKさんから「トリング君、Macのデータ復元をお願い出来る?試して貰える?準備出来る?」と言われる。
  
『90%以上、無理だと思うけれども、SVであるTKさんと一緒に訪問して、お詫びします』という形になった。次の週、H様のお宅を訪問する事に。
 
<<<<翌週、実際に自分とSVの2名で訪問>>>>
  
事前に用意しておいた、数種類のデータ復元ツール(UnErase等)で、復元が可能か検証作業に着手、しかし、その後色々と試すも復元は無理だった。
「出来うる全ての作業を行ったが、残念ながら復元は出来ませんでした。お役に立てず、申し訳ありません。」と説明。
そして、以前、利用されていたISP側のサポートセンターにも問合せをしたが、メールデータの復旧は出来ない、という回答について説明。

その上で、2人で土下座して謝罪。
後にも、先にも【人生で、ここまで地面に頭をこすりつけて、土下座する事は無いだろう】という位に謝った。
他人のミス、いやチームのミスでは有るけれど、本当に、本当に、本当に、辛い訪問だった。なにより『招かれざる客』としての訪問。 
 

そして何より、復元が出来なかったという結果。

『お客様を救う方法は、本当に、もう他に、何も無いのか!?』と、胸にこみ上げるものが有った。


H様から
「6年間、美容師をやってきて築いてきたお客が0になってしまった。」
「本当に、これからどうしたら良いのか分からない。」
「もう、自殺するしかない!!!」
との話に。
 
再度、本当に申し訳ない旨を何度も、何度も、陳謝。
 
「再三陳謝をするが、同じ話の繰り返しになってしまうため再度の連絡を提案」して、一旦、帰ることになった。
    
  
  
その数日後、H様との連絡が取れなくなる。
そして、その後『自殺未遂』の連絡を受けるのだった。
  
<了>

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