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第1話でつかめなきゃ打ち切り…

だいぶ遅ればせながら、

アニメ『ハイキュー!!』を見ました♫

ただしまだ全部は見てないです。マンガも読んでないです…

名前だけは知ってたんですが、ずっと読んでませんでした。


その状態で感じたことを、

マーケティングっぽい視点も含めて書いてみました。


少年ジャンプという雑誌は日本で一番売れてる雑誌ですので、

当然ですが、連載される漫画たちは熾烈な競争を繰り広げています。


とりわけジャンプに掲載される第1話がフロントエンドですので、

この第1話が勝負と言っても過言ではないんですね。


僕が見たのは漫画ではなくアニメなので、

ジャンプの尺とは少し違っているかも知れませんが、

アニメもジャンプも、だいたい同じ区切り方かと思います。


アニメにせよ漫画にせよ、どちらにとっても大事なことは、

第1話でいかに読者(視聴者)を見込み客化するか

です。


ここで読者(視聴者)の興味を惹きつけて、

バックエンドである単行本の販売、アニメの視聴、

グッズ販売、映画公開、DVD販売、ゲーム販売…

などなどにつなげるというビジネスモデルですから、

第1話で興味を持ってもらえるかどうかは

事実として死活問題なわけですね。


いかに有名な漫画家さんの作品であったとしても、

第1話でうまくつかむことができなければ初速がつかず、

無慈悲にも損切り(打ち切り)の対象にもなるようです。


ジャンプの場合は人気がないと少しずつ

ページが後ろにずらされていくんですよね。。


だからこそ尚更、フロントエンドに全てを詰め込む

というマインドセットが不可欠になるわけですね。


『ハイキュー!!』の第1話を見てみると、

「ほんと詰め込んだなー!」というのが第一印象でした。


まず驚かされたのは、

第1話に3年間分のストーリーを詰め込むスピード感ですね。

『ドクターストーン』に至っては3000年とかですけどね笑


このへんはやっぱりさすがのジャンプさん、

第1話の見せ方はかなり研究されてるようですね。


ちなみに

『ハイキュー!!』は、かなり『スラムダンク』に近い

プロットになっていて、潔いほどのオマージュを感じるのですが、

『スラムダンク』のような、平成初期までの漫画は、

わりとダラダラとスタートしてた印象でした。

第1話ではバスケはほとんど出てこなかったような気がします。


これが、『ハイキュー!!』においては、第1話で、

バレーへの動機(商店街で見たテレビの中の小さな巨人)

→恵まれない環境、孤独な練習(部員のいない中学時代)

→敗北の悔しさ(初公式戦でのボロ負け、ライバルからの蔑み)

→新たなスタート(高校入学、ライバルとの再会)

までの流れを詰め込んじゃってるんですよね。 


認知コストがかさむ現代の消費者はせっかちです。

Twitterしかり、インスタ然り、TikTok然り、

もはや文字情報が140字までしか読まれないのはデフォルト。

そのうち学術論文も3行になるんでしょうか。

動画にまでライトさとクイックさが求められる時代です。

第1話でぜんぶ見せなきゃ次のチャンスは来ないんでしょうね。


そうです、

たぶんこの長い文章をここまで読めるあなたは

この時点ですでに稀有な存在ということです。


文字を読む事を我慢できない日本人が増えている、

というのは危惧されるべき事態ではありますが、

それはまた別の問題。


現実がそうなのだから、商品はそれに合わせて

マーケットフレンドリーに作られるわけです。


第1話に詰め込まれた要素の続きですが、

これは平成中期〜後期のキーワードでもあると思いますが、

物語の早い段階で主人公の持ち味と可能性を見せて

「共感」を引き起こし、読者を応援者に変える

ということです。


「共感」に重きを置いたストーリー設計は

『ハイキュー!!』の随所に見ることができます。
 

僕がとくに感じたのは、

一握りの勝者だけでなく、大多数の敗者にも

スポットライトを当てていること。


スポーツでは、優勝以外は全員負けです。

運動部だった人ならほぼ全員が負けを知っています。


つまり、弱小チームが全国制覇してしまうような

シンデレラストーリーよりも、

来る日も来る日も重ねた努力が報われずに、

あっけなく負けていくというストーリーにこそ

リアリティを持てる層の方が実は圧倒的に厚く、

市場が大きいということになります。


そりゃ当たり前のことなんですが、

ジャンプがあまりフォーカスしてこなかった側面であり、

これを描いたのが『スラムダンク』の凄みでもありました。


『ハイキュー!!』でも、負けたチームメンバーの想いや

天才にスポイルされる凡人の苦悩と葛藤を

細やかな心象描写で表現していますね。


また、登場人物たちのキャラクター設定は、

平成後期に急浮上した価値観であるところの、

「ありのまま」「等身大」といったキーワードを

よく捉えていると感じました。


『スラムダンク』とは違って

暴力系のキャラがほとんどいないこと、

全体的になよなよ感がただようこと、

個性の違いが当たり前というマインドセットが土台にあり、

多様性を認め合い、生かそうとするキャラが多いこと。


『スラムダンク』は前時代に流行した不良漫画の

影響を受けながら登場した作品だと思いますが、

『ハイキュー!!』はレリゴー世代。

『アナ雪』よりも先に世に出た作品ながら、

「ありのままに現象」の片鱗を見る事ができます。


また、「ゆとり世代」の次の世代は「さとり世代」

などと言われることがありますが、

そんなキャラ(とくにツッキー)も描かれています。


熱さとは無縁で、周りの人間とは対立も迎合もしない、

ニュートラルで無欲な少年というキャラ設定は、

時代の空気感を見事につかんでいる印象です。
 


基本プロットはきれいに『スラムダンク』を踏襲した

平成の成功パターンであると感じます。


「成功にはパターン認識が必要である」

と喝破したのはジェームススキナーさんですが、

まさに彼が提唱する通りに、

『スラムダンク』のパターンをモデリングしたのが

『ハイキュー!!』であると言えそうです。


超身体能力系バカ主人公に天才ライバル、

後から登場する同チームの強キャラ達、

大事な試合中のケガなど、

『スラムダンク』で使われてきた展開がそのまま、

あるいは若干のアレンジで組み込まれているところは、

スラムダンク世代としてはむしろ安心して見れるポイントです。


「テーピングでガチガチ」というワードが出た瞬間に

僕は身震いしましたよ笑


「あの感動」をリメイク、または再解釈して再現してくれることに

ワクワクしながら見進めるこちらの期待に見事に応えてくれます。


「日向翔陽」のようなキャラの名前の付け方も

なんとなく『スラムダンク』のそれに近く、

意図的にオマージュを感じさせているようですらあり、

むしろ好感が持てます。


『スラムダンク』のファンを敵に回すことなく、

上手にその成熟市場に自らの市場をドッキングさせています。


ストーリーは『スラムダンク』や神話の法則を踏襲しつつ、

時代感を鋭敏に取り入れることで新たな価値を創出し、

あくまでパクリ漫画ではない、

しっかりとバレー漫画としてのアイデンティティを

感じられる作品に仕上がっているなと感じました。


平成という時代は、科学や技術の発展の例に漏れず、

漫画やアニメもずいぶん進歩した時代でした。

作画やプロットも、アイデアは出尽くし、

ノウハウ研究もほぼ完了したと言っても

過言ではないようにも思えます。


その上で、さらに二次創作などの需要も高まったことで、

本チャンの漫画家がそのフィードバックを受け、

二次創作目線やマニア目線を意識しながら

作品を作る向きも見られるようになりました。


きっと文化というのは、こういうごちゃ混ぜの

カオスを俯瞰した概念なのでしょう。


そしてこの積み重ねられた文化の恩恵で、

漫画を売る側にとっては攻められる市場の選択肢が

だいぶ増えたのではないかと思います。


『ハイキュー!!』を読むのはなにも

バレー部の男子高校生だけではありません。


もともとのターゲットである「少年」の他に、

元祖スポ根好きのオヤジ層や

スラムダンク世代の40代男性層、

綾波の匂いのするマネージャーに誘われた30代男性層、

かわいい男子好きの少女層から熟女層、

カップリング好きの腐女子、腐男子層まで、

幅広いマーケットに訴求していると推測できます。


このリーチの広さと深さこそが、

これまで日本の数多の作者と作品、読者と視聴者が

積み上げてきた日本の漫画、アニメ界の

土台なのかと関心せずにはいられません。


さらに、図ってか図らずか、

『ハイキュー!!』がスタートしたのは2011年、震災の年。

この漫画の舞台が被災地の宮城県であることは大きなポイントです。


あの頃の宮城のモメンタムは凄かった。

日本中から、あるいは世界中から人・物・金が集まっていました。


誤解を恐れずに言えば、「震災」を連想させるだけで

何でも売れましたし、だいたいのビジネスが資金を集められました。


被災地でがんばっている人を賛美したり、

被災三県に忖度したりするムーブメントはしばらく続きましたので、

当然このパワーも後押ししたと考えると、

タイミングも絶妙でしたね。


ただし、

まだ漫画やアニメの聖地巡礼がメジャーではなかったからか、

『ハイキュー!!』の中で描かれる風景で、

宮城県だと認識できる描写は少ないように思います。


仙台市体育館はよく出てきますが、

もうちょっとこう、松島で走らせるとかさ…

これから出てくるんでしょうか。


よく出てくる町並みも、なーんかずいぶん田舎だなと思って

ちょっと調べてみたら、どうやらこれは宮城ではなく、

岩手県の小さな町をモデルにしているようですね。


とにもかくにも総合的に見て『ハイキュー!!』は、

「売れるべくして売れた感」がありました。

「作品」として見てすばらしいのはもちろんですが、

「商品」として見たときにもやっぱり作り方が上手で、

これは漫画に情熱を持って生きている人だけが

集まって作れるものではないと思いますし、

かと言って、ゴリゴリの理論派マーケッターが

集まって作れるものでもないと思うんですよね。


その両方の側面を持った人なんてそうそういなそうですから、

それぞれに特化した能力を持って集ったチームの仕事なんでしょう。


つまり『ハイキュー!!』の成功は、

まさに個性を生かしたチームの勝利ということですね。


ミクロで見れば作者陣と編集社のチームでしょうが、

マクロで見れば歴代の漫画やアニメの関係者、

それに二次創作者や各種マニア、一般読者、視聴者など、

それはそれは大きなワンチームで作られるのが

人気漫画、人気アニメということなんだなと再確認しました。


褒め称えるだけというのもあれなので、

一応、個人的に気になるポイントも挙げておくと、

まず10歳そこそこの(たぶん)サッカー好きの少年が、

たまたま商店街のテレビでチラッと見ただけの

バレーボールにあそこまで打ち込める理由はなんだろなと。


日向くんの言動からは人並外れたバレーボールへの

モチベーションをひしひしと感じるわけですが、

とくに「少しでも長くコートに立っていたい」というのがあって、

それは不遇の中学時代の経験をベースにしたモチベーションのようです。


トスを上げてくれる部員もいなかった。

努力した先の未来を見せてくれる先輩もいなかった。

バレーを教えてくれる先生もいなかった。

人数が足りずに試合にも出れなかった。


それが「もっとバレーをしていたい」という

強いモチベーションの根源のように描写されますが、

そもそもまずもって、13歳とか14歳とかの少年が、

そんな劣悪な環境下でひたすらバレーの練習を3年間も

一人で続けることができるのかどうか。

これは甚だ疑問です。


というか、そのためのモチベーションが、

テレビで見た、ぽっと出の「小さな巨人」だけでは

あまりにも弱すぎるのではないかと思ってしまいます。


ストーリーが進むにつれて、何か別の理由が

明かされるのかどうか、注視したいと思います。



そして、やはり拭いきれない「結局天才かよ」感。

「身長が小さくても努力すればすごい選手になれる」ではなく、

「身長が小さくても天性の高い身体能力があればすごい選手になれる」

という寓意は、いまだ中2の心を忘れていない僕としては

なかなか受け入れがたい現実を突きつけられた気分です。


元々の天才が謎の無限モチベーションをひっさげて努力までしちゃうと、

凡人にはなす術がないなと思わされずにはいられません。


こういうのは中2というか、むしろ擦れた大人の感覚かもしれませんが、

あまりにもチームワークがよすぎる感にも納得がいきません。


実際はもっとギクシャクするでしょう?

いろんな人が集まってるわけだし仲悪いわけだし。

レギュラー争いとかバレーへの情熱の違いとか…

いまの子供たちはこんなに平和で大人な感じなんでしょうか。


大人と言えば、先輩たちも大人すぎます。


突如として現れた1年の天才にレギュラーを奪われても

笑顔で応援する3年の先輩(スガさん)とか釈迦かと。


しかも自分にできることとできないことをわきまえていて、

ベンチにいてもしっかりとチームの中に居場所を見出している…

高3にしてこれは、もはや管理職の鏡でしょ。


こういうのは小暮先輩の布石があればこそでしょうかね。


まあ本来そんな細かい意地悪なイチャモンを

少年漫画につけること自体がお門違いなんですが、

いまや少年漫画というのはそれほどまでに、

つまり、逆説的ですが、

現実との齟齬に歯痒さを感じるほどに読者のリアルに寄り添い、

それでいてしっかりと非現実の夢も見させてくれるような、

ディズニーランド+αみたいな作品であり商品を

作れるようになってきてるんだ。

という称賛に変換できるのではないかと思いました。


これがまだ平成時代の漫画だなんて、じゃあ令和は…

伸びしろしかねえな。

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