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河出書房世界文学全集レビューその② 「アフリカの日々」とそれにまつわる映画について。

 2012/2/12にアップしたやつ。

 あー、すんごい時間かかった。
 読破するまで、2カ月くらいかかっちゃいましたよ。
 アフリカの大地を思うには日本の冬は寒過ぎました。

 デンマークの女流文学者、イサク・ディネセンのアフリカでの生活をつづった「アフリカの日々」と、ナイジェリアのヨルバ族出身の作家、エイモス・チュツオーラの「やし酒飲み」が収録された一冊。アフリカに対する、異邦人と出身者の視点からの二作品と言うわけです。

 「やし酒飲み」に関しては、いろいろ評価の分かれるところがあるようです。私は何の知識もなく、「ふーんこんな人がいるんだね」くらいのスタンスで読みだしたので、そう言うシンプルな感想を書きたいと思います。
 やし酒大好きな「私」が、美味しいやし酒を造ってくれる人が死んじゃったので、彼にどうにかしてまたやし酒を造ってもらうために、死者の国に向かって旅立つんです。実は「私」は人ならぬ存在であるらしく、呪具を用いたり、不思議な力を操ることが出来ます。旅路の中途で、「私」は様々な困難に見舞われます。怪物じみた森の住人や、この世ならぬ街の人々に襲われたり騙されたり。それを、自分の持つ力と、途中で娶ることになる妻の力で乗り越えていく、と言うお話です。
 何と言うか本当に荒唐無稽な、民話的な、神話的なお話なんです。旅立ったきっかけは「美味しいお酒が飲みたい!」と言う、居酒屋のうたい文句かよ、みたいな理由なんですけれども、道すがらの冒険は、各国の伝承の貴種流離譚のように奔放で、イマジネーション豊かです。「どこまで行くんだよ!」って思いながら読んでいくの、楽しかったです。
 冒頭で「アフリカに対する、出身者の視点からの作品」と言うようなことを書きましたが、物語の中には「アフリカ」と言う言葉は出てこないので、ちょっと書き方を誤ったかもしれません。
 アフリカを血肉にした物語、とでもいうべきかもしれないです。

 イサク・ディネセンの「アフリカの日々」。
 彼女の、アフリカに対する愛情が素晴らしいです。決してアメリカや、そこに住む人を褒めそやす訳ではありません。ただ、彼女の眼前に広がる光景や、触れ合う人々のことを、彼女一流の観察眼で記しているだけです。しかしそこには、異邦人として、観察者としての卓越した視点があります。
 彼女は、目の前のものを、フラットに受け入れています。自分たち白人と比較して誉めたり、けなしたり、皮肉ったりと言うことを全くしません。「彼らはこうである」と言うのを、ものすごい文化的なギャップがあるにもかかわらず、自然に受け入れると言うのは、簡単なようで凄く難しいことだと思うのです。それをどう言う努力のもとにか、それとも天性のカンゆえにか、しなやかにこなしてしまうディネセンは、とても聡明な女性だったのだろうと思います。
 また、草原を移りゆく自然や、そこの住人達…ライオンやキリン、ガゼルらを形容する語彙が本当に的確で、かつ美しく、こんな言葉で動物や自然を表現できるのかと感嘆させられます。現地の人々の生活や性格、祭りなどもまた然りです。私の目に映っているのは白い紙に印刷された黒いインクにしか過ぎないのに、私の脳には色彩に満ちた、豊穣な風景が呼び起こされます。文章が本当に素晴らしい。理知的で、客観的で、精密で、そして愛に溢れています。

 それで、この「アフリカの日々」を映画化したのが、メリル・ストリープとロバート・レッドフォード主演のこの作品。
 原題は「OUT OF AFRICA」で、これはディネセンが自らの原稿に付けたタイトルと同じです。「アフリカを出でて」みたいな意味でしょうか。スゲー普通なのに、映画の邦題だけが「愛と哀しみの果て」と言うヒドイものになってます。まあ、良いですけど。
 内容も、ディネセンがアフリカ滞在中に恋仲になった探検家、デニス・フィンチ=ハットンとの恋愛を、もうこれでもかと言うくらいに膨らませまくってます。5章構成の原作小説の、その第5章で「あれ、この二人はそう言う関係なのかな?」と察せられる、くらいの記述しかないのにも関わらずです。アフリカを背景にした壮大なメロドラマです。しかも超なげーし。もう設定だけ借りた別の話になってる。映画単体で観れば「ふーん、そっかー」で終わるのに、原作と合わせて観ると「なんじゃこりゃ」ってなっちゃう実に残念な映画。役者が勿体ないかんじです。
 繰り返しになりますが、単体で観れば、普通の恋愛映画です。超なげーけど。
 メリル・ストリープとロバート・レッドフォードの濡れ場も、微妙に「誰得?」なんで、恋愛映画としてもどうなのかよく解らんです。
 空撮のアフリカの光景はすごかった。161分中50分それでも良かったね。


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