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知らんがな/Esperanza Spalding/I Can't Help It

この曲は、Micheal Jacksonの大名盤「Off The Wall」の収録曲のカバー。ファンキーで粒揃いの曲の中で異彩を放つ、Stevie Wonder作曲ナンバー。スティービー曲は、何かしら“引っ掛かり”があるスルメ曲が多いのですがこれも「あぁ、いかにもスティービー」とため息が出る、珠玉のヘンテコ構成が楽しめます。冒頭の凝ったコード(テンションノート)によるミステリアスな雰囲気や、Aメロ終盤の突然のスケールっぽいメロディ、サビのリズムパターンチェンジ等。

となると、曲に食われちゃうリスクもあるのですが、エスペランサは、コード楽器を減らして、ベースとサックスをフィーチャーするやり方で、クールに料理している。ちなみに原曲のマイケルのバージョンは、20歳とは思えない色気むんむんファルセットで、これも脱帽。是非聴き比べてみて下さい。ちなみに歌詞はめっちゃ単純、「(あなたを想うと)もうガマンできない」です。

マイケルもスティービーも、1960年代の黒人音楽レーベル出身。「使い捨てのコマ」ポジションから、血のにじむような努力と策略をはりめぐらし、自身の才能を世に出す環境を勝ち取り、のし上がってきた巨人です。

どちらかというとエスペランサは、そういうパワープレイからは若干距離を置き、業界を利用しようとか、業界のアイコンになるとかじゃない、クレバーなスタンスをとっているように感じます。音楽的にも、過去の名盤から現代のポップスまで分け隔てなく扱えるイメージ。色眼鏡かけず、自分の奏でるサウンド自体を聴いてくれればという、職人気質が垣間見えるような。
前回のAviciiしかり、一度ビッグネームになってしまうと、本人の意図せぬパブリックイメージや重圧に苦しめられがち。彼女のクレバー且つ柔軟なスタンスは、そういう先達の受難を踏まえているような。好きなように追い込んだ挙句、最後は「Help」してくれないのが世の常ですもんね。

ということで、彼女の歌う“I Can’t Help It”は、身悶えするような艶っぽい「ガマン」のみならず、「知らんがな」的な小気味いいニュアンスを、そこはかとなく感じます。

https://www.amazon.com/Radio-Music-Society-Esperanza-Spalding/dp/B005VR9C42


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