Caetano Veloso/Livros
独特な曲です。流麗なオーケストラで始まった矢先、変形サンバのような独特のリズムパターンが重なり、さらに不穏なブラスとノイジーなギターが上乗せされてくる、万華鏡のような音世界。そんな中でも、ボーカルはあくまで端麗で涼やか。こんなアレンジ、どうやって思いつくのか、不思議でなりません。
歌詞がまた、摩訶不思議な世界観で。
”星の間で、不吉にも君は躓いた
僕らの家には ほとんど本がなかった しかも町には本屋が一つもなかった”
”僕らの人生い入り込んでいた書物は 黒い肉体の発する光のように 宇宙の膨張を指し示す” ”なぜなら文は、概念は、物語は、詩句こそは、
幾多もの世界を この世に投じることができるのだから“
Livrosとはポルトガル語で「書物」の意味。曲名は複数形ですが、この曲が収録されているアルバムタイトルは単数形の「Livro」。つまりここでいう書物とは、概念ではなく、数や重さのある物体です。曲の終盤では、ためこんだ書物(物語や知識)が、ずんとのしかかってきます。
”幾枚もの頁を 空虚な言葉で埋め 本棚をさらなる混乱で埋める"
"星の間で、不吉にも君は躓いた だがその君は僕にとって 星々の中の星だった”
理系の人が、「数字でこの世の理を表せないか」という夢を抱くのと裏腹に、
文系人間は、「言葉ではこの世の全ては表せないのでは」という絶望を抱きます。
言葉は無限に紡がれ、物語は無限に増殖するが、それでも、世界が完全に表現されることはかなわない。よって、書物は増えど、本棚は永遠に完成しない。
ま、そんな難しいことは忘れて、メキシコ撃破を祝して、サンバを踊りましょう。
(引用元)
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