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あってはならない、あるかもしれない水害。防災意識のはぐくみが一線を分ける。

日本では晩秋に実をつけるオリーブ。地中海を中心に栽培され、果実からとれるオイルは私たちの食卓でもずいぶん馴染み深くなりました。国内での栽培は明治41年(1908)瀬戸内海に浮かぶ小豆島での成功に始まり、現在では全国各地にて栽培されています。宮城県石巻市では東日本大震災復興の一環としてあらたにオリーブ栽培に取り組んでいます。

オリーブの葉枝はギリシャ・ローマ時代より平和や勝利の象徴とされてきました。旧約聖書に神の奇跡として記される「ノアの方舟」では、放したハトがオリーブの葉を咥え戻ったことで洪水が引いたことを知ります。ノアの家族とすべての生き物を乗せた方舟は、世界を満たした水を40日間漂ったと記されており、土地の痕跡から紀元前に起きたメソポタミアの洪水に範を求めたという見解も示されています。大陸の高低差の少ない平原地帯では、洪水が引くまで長いと数ヶ月かかるといわれますが、山と海が近く急勾配で、急流河川の多い日本では洪水がおきても数日のうちに概ね水は引くようです。

日本人にとっての水害は戦後、ダムや堤防などの治水工事が行き渡るまでは近くを流れる河川がもたらすいちばん身近な災害だったといっても過言ではありません。古くはあえて水を氾濫させ、水を一定の場所に留め城下町への浸水を防いだり、浸水を前提に速やかに解体移動できる家屋を建てるなど、さまざま方法で頻繁に起こる水の氾濫をいなしてきた文化が、かつての日本にはあったのです。

それでも水害により命を落とす事態がなくならないのは、気候の激甚化に対策が伴っていかなくなったことや、水害に遭う経験が少なくなったことで河川近くに暮らす人々に根ざす「ダムがあるから堤防があるから大丈夫」というバイアス思考にほかなりません。ハード対策だけでは防げない水害は、いち早い避難が必要となりそのための情報が「洪水ハザードマップ」です。避難を発信する自治体側は空振りを恐れず、情報の受け手側も、何事がなくとも「空振りで良かった」と言える防災意識を育むことが肝要です。

Writing / 鈴木里美


参考資料|草木花歳時記・秋(朝日新聞社刊 1999年)|洪水と水害をとらえなおす(大熊孝 農文協 2020年)|洪水と人間(伊藤安男 古今書院 2010年)|水害に役立つ減災術(末次忠司 技報堂出版 2011年)|聖書の奇跡(金子史朗 講談社 1980年)

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