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#01|わが子のように迎え、暮らしの中で育てる漆のうつわ 「めぐる」。

その価値に気づき、磨き上げるのはいつも他所からの人なのだ。この「めぐる」の漆器を世に送り出し8年になる貝沼航さんも大学卒業後に会津へ来た。サラリーマン時代に会津の工芸と出会い天啓を受けたように起業し、ものづくりに携わる人達に伴走してきた。
〝三泣き〟で知られる会津に溶け込み、自身の思いが形になるまでのご苦労は並大抵でなかったはず、と勝手に思う。

東北の漆を使い、売上の一部がまた会津の漆の植栽活動に寄付される「めぐる」シリーズは、そんな感傷をおいても真っ先に紹介したい素晴らしさがある。会津漆器の木地は元来、周辺の山々に産するトチを主に用いてきたが、年々安定的な確保が困難に。
そこで「めぐる」では奥会津の木こりさんに毎年1本トチの木を切り出してもらい、全てを大切に使うところから始まる。1年の乾燥を経て木地師に加工を託すが、熟練の手が寸分違わず再現するフォルムは、ものの形や触覚を感じ取る優れた感性を持つ全盲の方達のアドバイスを元に、試作と改良を重ねてきた結晶だ。

自然の素材だけで作る堅牢な下地、本堅地ほんかたじをベースに、美しく使いやすい現代的な漆塗り表現で仕上げられている。さらに、特注で誕生花の蒔絵も入れることができる。
塗りや加飾に新しい技法を編み出してきた会津塗の正統と独自性に触れることもできる。禅僧が日々用いる応量器おうりょうきに範をとった三ツ組で、おひとりさまの一汁一菜、家族で飯椀にシェア、と使い勝手もいい。

塗り直しも依頼できるので、何よりも愛着を持って長く使う、その心の豊かさを育める逸品だ。

■漆とロック

(取材撮影:2022年3月 初出:月刊会津嶺4月号)


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