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“地名ロンダリング”、有りや無しや。

9月は二十四節気の白露と秋分があり、残暑が続く中にも秋の気配が徐々に濃くなる1ヶ月でしょう。店先にもみずみずしい梨が並ぶシーズンです。一概に梨と言いますが、ナシは和梨・中国梨・洋梨に分類されます。おなじみの和梨は中国原産とされるヤマナシから改良された赤梨と青梨の二系統があり、シャクシャクとした食感に独特の美味しさを感じられます。

ナシは「無し」に通じる忌み詞とされ、「有の実」と呼ぶことがあります。祝いの席で饗されるコース料理のお品書きに、デザートの梨を「有の実」と書く場合もあるようです。“忌み詞”とは縁起を担ぎ、使うことをはばかる言葉で、受験生のいる家庭が「滑る」「落ちる」を使いにくい、というのが分かりやすい例でしょうか。結婚式のスピーチでも「切れる」「割れる」「終わる」などが忌み詞となるため、内容の事前チェックは必要ですね。

地名も古くは「火(ひ)」と書いた字を火災を連想させることから「氷(ひ)」に変えた、などの例があります。名前とはもちろん人が便宜上つけたものですが、日本の地名名称は複雑で、土地の成り立ちや伝説、生活利用上の名称にはじまり、行政単位が合併すればそれぞれの頭文字を並べるならともかく、「公募にて決定しました」という近頃は来し方を切り離してしまうキラキラネーム化も進んでいます。古くからの地名には土地の形状を示すキーワードが潜んでおり、例えば「水」や「谷」など、そこは低地で水が集まりやすいといったリスクがあります。ただし、転訛が繰り返されてもとの意味と異なることもあります。

土地を求める時に古い地図を確認することが必要なように、自主防災組織などに参画して地域の防災マップづくりを主導する場合も、目に見えるリスクだけでなく、併せて地歴を遡ることが大切です。特に新しく造成された住宅地などは注意が必要で、リスクがあるにも関わらず「そこに住みたくなるようなステキな地名」が新たに被せられているケースが多いからです。

Writing / 鈴木里美


参考資料|草木花歳時記・秋(朝日新聞社刊 1999年)|地名の研究(柳田國男著 講談社 2015年)|地名は警告する〜日本の災害と地名(谷川健一編 冨山房インターナショナル 2013年)|日本の地名(鏡味完二著 講談社 2021年)


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