異形の間、という体験

うっかり気合いが入り過ぎた結果、30分前に着いてしまうという失態をおかす。待ち合わせ場所には私の他には誰も居らず。路地裏に位置するこの場所はひっそりとしていて、夕暮れ時の涼しい風が心地良かったので、椅子に腰掛けひとり静かに時が満ちるのを待つことにした。#異形の間 pic.twitter.com/iQTPQtZYHu

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

東京戸越のギャラリーHasu no hanaで5/3、4、5の三日間で行われた「異形の茶会」。
異形の茶会に参加してくれた、ちかたぬきのこさんの茶会レポートツイートが、茶会でどんなことがあるのかを分かりやすくまとめてくれていたので、見やすく繋げてみました。

ぼんやり座っていると、中からふたり人が出てきた。その後ややあってギャラリーの方に声をかけられる。時間は随分早いが、中に入れてもらえるようだ。
全体的に白っぽくて明るいギャラリーの一階にはトリックスターが並べられていて小さな個展会場のようだった。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

「それでは早速お茶会を始めさせていただきます。会場には手ぶらで入っていただきますので、荷物は全てこちらでお預かりいたします」
「すぐに始まるんですね」
「はい。先ずはこちらから、今日お使いになる茶碗ックスターをお選びください。手に取っていただいて構いません」#異形の間 pic.twitter.com/MZATpqItHe

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

紋様の異なる茶碗ックスターはどれも、実際手に取ると驚くほど印象が違った。あるものはしっとりと、あるものはすっきりと、ざらざらと、ぽつぽつと、手に馴染む。
私は亭主である蓮ックスターと揃いの、ボロノイ紋様の茶碗ックスターを指名することにした。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

「それでは2階の茶室にご案内いたします。足下にお気をつけください」
夕方の階段室は、もう大分薄暗い。
「時計も無いから、今が何時かもわからないですね」
階段を踏みしめながら呟く。
「お時間になりましたら、ノックでお知らせいたしますので」#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

階段を昇りきると『異形の間』と貼り紙のされた黒い木戸が現れた。
「こちらを引いて、中に入っていただきます」
言われるがまま、おそるおそる取手に触れそのまま引くと、異形の間の入り口は私の前にぽっかりと口を開けた。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

「頭上にご注意ください。一段高くなっている場所の前で靴をお脱ぎいただいて。中に正座椅子がございます。そちらに脚を入れていただきますと痺れず正座していただけますので。このお時間ですともう必要かと思いますので、ランタンを置いておきますね」#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

それではお茶を淹れてまいりますので。そう声をかけられ、茶室の扉がぴたりと閉じられる。深呼吸をすると、畳と香の匂いで肺が満たされた。私は靴を脱ぎ、のろのろと正座椅子に腰掛ける。
たおやかな闇の満ちかける茶室で、私はついに、蓮ックスターと対面した。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

「はじめまして」ランタンを蓮ックスターの顔に近づけ声をかけてみる。返る言葉は当然無い。がしかし、蓮ックスターは闇の中でどこか、うっそりと微笑っているようにも見える。顔の前面に空いた無数の穴からは、いくつもの種ックスターが今にもころん、とこぼれ落ちようとしていた。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

顔の側面にぐるりと空いた穴からは、触れれば指の切れそうな金糸が幾本も壁に向かって張り巡らされており、ランタンの灯りを受けて煌めいている。
「ふたりきりと聞いていたけれど……」
金糸の向こうには小さな蓮ックスターが数人、かべに向かって正座したり遊んだりしていた。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

ここに来るまでに、こぼれ落ちた種ックスターが成長したのかもしれないな。そう思った。他にも幾人か、部屋の中にはトリックスターが居た。
コンコン、と部屋の戸を叩く音がする。
「お茶をお持ちしました」
ローテーブルの上に、茶碗ックスター、皿ックスター、匙ックスターが並べられた。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

ざらりとしたボロノイ紋様が温かい。茶碗ックスターの内側を満たすのはほろ苦いお抹茶で、匙ックスターに載せられた甘い闇は、口溶けのよいストロベリー味のチョコレートだった。
ランタンをテーブルに置き、ほう、と息をついてお茶と甘味を味わいつつ蓮ックスターの顔を見る。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

絵の具を洗うバケツへ、今画用紙に黒い絵の具を塗り広げたばかりの筆を沈めるよう闇の満ちていく茶室で、私はふと『さっき食べたのは本当にお茶とチョコレートだったろうか』という考えに思い至る。気づかず食べてしまっただけで、本当は表面に紋様が刻まれていはしなかっただろうか、と。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

密室とは。そこで何があったとしても、そこに居た者にしか、真実の知れない空間だ。トリックスターに空いた穴。あれは目なのだと、いつか文献で読んだことがある。蓮ックスターはそこで私を見下ろして「さあ、どうでしょうねぇ」という顔で私を、見て、観て、視て、いた。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

私はランタンの灯りを完全に落とした。向けられる視線が恐ろしかったわけではない。暗がりの中に在る姿を、ただ見たかったのだ。茶室の中に窓はひとつきり。弱々しい自然光は、そのくびすじから胸元、差し出された三本の腕の滑らかな凹凸を美しく照らし出してくれた。恍惚に溜息がこぼれた。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

ーコンコン
心地良い静寂と甘い暗闇はノックの音で唐突に破られる。
「……真っ暗にされていたんですね」
人工の灯りの一切が消えた茶室に、ギャラリーの方は少しギョッとしているようだった。
「あっと言う間でした」
どれだけ眠っていたかわからない夢から突然醒めたような気持ちがした。#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

「いつでもまた。暗闇が美味しい季節に」
不意に、背中へそう声をかけられた気がしたが、茶室の扉はとうに閉じられ、私の目に映ったものは『異形の間』と貼り紙のされた黒い木戸だけだった。
ー了#異形の間

— ちかたぬきのこ (@chika_crunk) May 4, 2022

異形の間での過ごし方によって、時間帯によって、光の加減によって、その時の心の在りどころによって、感じ方は異なりますので、ちかたぬきのこさんのツイートとはまた違う体験が待っているかもしれません。
今後も蓮ックスターによる茶会は行われる予定です。
あなたも是非、参加してみてください。