沸騰前90℃

モントローザは
無言でお湯を沸かし始めた

どくん、どくん
ホームラの心臓は
ホッキョクの側で音を立てる
彼は枕に顔を埋めるように
心臓に擦り寄って
目を閉じている

鼓動は一定の拍動リズム
心地よく波打っている

水の入ったポットは
やがてブクブク泡を立て
フタはカタカタ揺れていた


「石薔薇の果実のお茶だけど、口に合うかしら?」
── 石薔薇の魔女、モントローザ
「出していただけるのであれば、どんなものでも」
── 鋼鉄の鳥人、ホームラ


ホームラの心音が
先ほどより早くなった
ホッキョクは
心臓から離れて
コックピットに座った

ポットのお湯は
今にも吹き出しそうで
湯気が変わるがわる
はみ出していた

石薔薇の実の入った
ティーポットにお湯を注ぐと
煙のような
鮮やかな紅が
立ち上り拡がった


「どう?お味は」
── モントローザ
「香り高くて、とても美味しいです」
── ホームラ


ホームラは
ツギハギの鋼鉄の皮膚を
波立たせて笑顔を作って見せた


「ちぇっ、もっと遊べると思ったのに」
── 整備士、ホッキョク


ホッキョクは
つまらなそうな顔をした

ホームラの心臓は
モントローザの手の上に
石薔薇に包まれて乗っていた


「ガキンチョ、これはあなたのオモチャになるようなシロモノじゃないのよ」
── モントローザ


ホームラの背後に潜んでいたガニメデ小隊は
早速行動を開始した



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