見出し画像

三中の長南

見出しの写真が和田先生。その後どこかの教頭先生になったとか。

プロレス

格闘技と言えば当時はプロレスだった。

全日や新日がゴールデンタイムで見れた小学生の頃とは違い、放送時間はだんだん遅い時間へと移行。プロレスを中学生が夜更かししながら見ることに大人の男っぽさを感じるのだった。

ボクシングでは絶対王者だったマイク・タイソンが東京ドームでジェームス・ダグラスに敗れると言うビッグアップセットが起こっていた時代。

プロレス中継の翌日には鶴田だの三沢だの長州だ藤波だ盛り上がるのだが前日に寝ていた奴らは話にもならないので好きなヤツらは親の言う事など聞かずに夜更かしをする。
テレビ以外に俺は週間ゴングが好きでよく買っていた。
ネットが無い時代だ。テレビや雑誌、スポーツ新聞が情報源だった。今はオンタイムで試合結果が解る時代だけど録画放送であってもドキドキしながらPPVを見ているようなあの感覚は今の世代は解らないだろう。

プロレス中継で見た技を学校の体育館の用具室のマットの上で技の練習をするのだった。
いつものようにマットの上でバックドロップやDDTをしていると柔道部顧問の和田先生が通りかかりギロっとこっちを見た。
一瞬怒られるのかと思ったらいきなり俺と四つに組んできてフロントスープレックスされた俺は綺麗に宙に舞った。
その後アメリカーナを極めてアームロックの説明をして去っていった。
「あれはヤバいだろ。」口だけの暴力教師と違ったとてつも無い説得力だった。

実戦的な関節技としてはアキレス腱や腕十字みたいなストレートに伸ばして極めるものしか当時は出来なかった。
あとは相手の同意か実力差があって成立するのが足四の字やコブラツイスト、サソリ固めだったが当時の俺達にアームロックは難し過ぎた。

強い=尊敬
動物みたいな話だがこの先生が最強なんじゃないかとこの頃は思った。

そう言えば俺はクラスメイトにコンクリートの上でDDTをした事があった。
そいつはゴンと言う音と共に頭を押さえて転がりまくっていた。
隣のクラスのユタは放り投げジャーマンをコンクリート上で喰らってその後キレて投げた奴をぶん殴っていた。
そのユタと同じクラスでは雪の上の降下式ブレンバスターを喰らった奴が頭が雪に刺さったまま直立で墓標と化していた。

こんな危険な事をしても誰一人重傷者は発生しなかった。運が良かっただけかも知れないが田舎の子供達は頑丈である。

プロレスが学年全体で流行ってきたのだが流行らせたのは俺達だったと思う。

手に入れた強さ

放課後ファイトクラブにおいてはベーサトとユタよりはっきりと俺の力の方が強くなっているのがわかった。小柄な負けず嫌いのユタが何度挑んできても俺が力でねじ伏せると「ギブギブ」と叫んだ。
後ろを向くとまた襲ってくるのだがそれさえもひっくり返すくらい強くなってるのが自分でも解った。

ベーサトの弟のツカは小学6年生。いつものように同級生のムッちゃんがベーサト邸に遊びに来るのだが俺とベーサトは彼らにホラを吹き込んだ。

中学校じゃ俺達は何でもやりたい放題で教師たちは皆ぶん殴ってやった。
短ランもボンタンも何でも自由に履いてると。
完全に自分達の願望を伝えていたのだが純粋なツカとムッちゃんは目を輝かせながら俺らの妄想中学ライフを聞いていた。
俺達的にはギャグだったんだけどこれが我々卒業後の三中荒廃に向かうきっかけになるとは思ってもいなかった。

俺が学校の廊下でコンクリートの壁にジャンプして顔の高さにローリングソバットをするとパーンというデカい衝撃音が響き渡り見ていた友人達が驚く。
俺は夜道を走ったり腕立てしたり自分でトレーニングをしていた。
2年の後半辺りで三中最強は和田先生で生徒では俺だなと自分で思うようになっていた。

直接戦ってはいないがベーサトよりもユズルよりもシンよりも強いのは俺だ。
何中の誰が強いのか?
ベーサト達も三中の長南が最強とあちこちに言いふらすようになっていた。

しかしそんな風になってもクラスメイトとは凄く仲良かったし校内では腕相撲やプロレス以外に他人に暴力を振るうような事はなかった。
なので誰でも冗談を言い合えて間違っても「亮君と呼べーーーー」など人を威嚇した事はない。本当に楽しかったと今になっても思う。

俺達は3年に進む。他校からは三中の長南とはどいつだ?みたいな話がちらほら聞こえるようになった。

脅迫電話

携帯も無い時代、学校の緊急連絡網には各家の電話番号が印刷され誰かの電話番号を調べる事は簡単だった。
それほど親に内緒にしなければいけない話のなかったこの頃、部屋にはまだ電話の子機が無かった。

ある日、夜に名を名乗らず「亮君いますか?」と電話が来る。電話に出た母親が何か異変を感じ、話す俺を見守る。
「お前が三中の長南か?今から○○に来い」と電話で脅してくる。向こうには何人もいるようだ。
当時はこのような事をやってターゲットをビビらすと言う手法が流行っていた。

まず相手を知らないし何人かで待ち構えてるのがバレバレだった。
俺が怖いからこんなしょうもない事をしてるのだと電話で先制攻撃してくる時点で解った。
母親に心配させたくないから友達と話してる風を装い電話が終われば心配ないと言ったが内心イライラしていた。

ベーサトに連絡すると「俺の家にも電話来たけど俺よりも長南の方が強いからそっちに連絡しろ。」と丁寧に俺の電話番号を教えたらしい。
この電話はどうやらベーサトのせいだった。

この時期何度かこんな電話が来るのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?