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確かにゴヤですよ

昔、スペインのマドリッドに滞在していた時の酒場での話です。

その頃わたしは、マドリッドの安宿に滞在していました。
当時ドマティオ(domátio)と呼ばれていた家族経営の小さな旅館です。
裏には、宿主のアデラさんお勧めの酒場(Bar)がありました。

毎晩その酒場で遊び、太っちょのおやじと仲良しになり、大好きなタパス(一口サイズの小皿料理)をつまみながら楽しく吞んでおりました。

その日の話題は、プラド美術館。
なぜかと言えば、昼間に私がプラドに行ってきたからでした。

残念なことに当時のプラドは、おりも悪く、他国で開催される大きな展覧会のために、多くの有名な作品が貸し出されていて、歯抜け状態でした。

くやしがる私を客達がいじると言うテイで、みんなプラドの話に沸いておりました。なぜか美術館のこととなると酒場の常客達の話に勢いがつき、誰もが胸を張って語り出す。その熱量を私は心地よく感じておりました。
誰かが「オマエは何が一番観たかったのだ」と聞きますので、マハの連作だと言うと、みんながいったんドヨめき、また盛り上がる。

しばらくするとおやじが突然、俺のウチには「裸のマハ」があるから、今からオマエに見せてやると言いだした。夜も明けそうな深夜に、おやじの家まで連れて行かれるという流れで、酔った勢いもあり、二人で店を出て石畳の道を歩き始めました。

家に着きましたが、当然家族は寝静まっており、そのまま奥の部屋まで手を引かれていくと、ドアを乱暴に開けた彼が「ココだ!」と、大きなベットを指さしました。そこには彼の妻らしき女性が眠り込んでおりましたが、女性をむりやり手で横に押しやり、壁をグイグイ指さして「裸のマハだ!」と、私を近くに呼ぶのでした。

確かにマハです。雑誌の切り抜きらしき手のひらサイズの絵が壁にピンで止めてありました。気抜けすると同時に、なぜか感動が湧き上がりました。

分かったよおやじ、アンタはこの絵が、すごく好きなんだよね。

二人で笑い出していました。
バスク系の太っちょなスペイン人おやじと、東洋の小柄な娘が、子供のように抱き合って二人で笑い転げておりました。

ときどき暖かく思い出す、マドリッドの思い出です。




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