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小樽市外国人入浴拒否事件

こんにちは。

 海外メディアで、日本の温泉文化について「温泉は、日本が誇る平等主義を育む場所といえます。裸になって温泉に入ると、物質的な所有物がすべて取り除かれ、誰もが平等になります」と紹介されていて、そんな深い意味があったのかと熱湯風呂に入って飛び上がるぐらいビックリしましたね。

 さて今日は、銭湯で外国人の入浴拒否が問題となった「小樽市外国人入浴拒否事件」(札幌地判平成14年11月11日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 小樽市にある入浴施設「湯の花」は、ロシア人船員の入浴マナーの悪さが他の入浴客に迷惑を及ぼしていることに頭を悩ませていました。そこで、玄関入口に「JAPANESE ONLY」という貼り紙をすることにしました。ある日、大学の講師だったドイツ国籍の有道出人(あるどうでびと)さんとアメリカ国籍の2人が、「湯の花」に入ろうとしたところ、店側から拒否されてしまいました。そこで有道さんらは、湯の花と人種差別撤廃のための措置をとらなかった小樽市に対して600万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 有道さんらの主張

 私たちが入浴しようとしたら従業員から拒否されました。その後、私は日本国籍を取得して再度、入浴しようとしたら「あなたは白人であり、外見上は日本人であることがわからないから、入らないでください」と、また入浴を拒否されました。外見が外国人であるというだけで入浴を拒否するのは、法の下の平等を定めた憲法14条1項、市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)、そしてあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)に反する違法な人種差別です。我々は、これによって人格権や名誉を侵害されたので、損害賠償を求めます。

3 湯の花の主張

 開業当初は外国人の利用をまったく制限していませんでしたが、そのうちロシア人船員らが土足で入場するわ、浴室に酒を持ち込んで飲酒しながら大声で騒いだり、体に石けんのあわをつけたまま浴槽に入ったり、ひどいときにはプールみたいに飛び込んだりと、やり放題やった。迷惑行為を注意するが言葉が通じなかったので、伝わっていなかったことが多く、日本人の利用者からも、外国人が入ってくると脱衣場やサウナ内に強烈な匂いが立ちこめてくるので我慢ならないといった苦情が多く寄せられていた。これらを受けて、経営難に陥る危険性が極めて高かったので、やむを得ず入店の拒否をするとの方針をとったのです。また、有道さんらは入浴を拒否されることを予想して、あらかじめ北海道新聞の記者を引き連れながら入浴拒否の事実をマスコミを通じて世間にアピールしようとしていたのです。しかも札幌市内に住んでいて、小樽で入浴する必要はなかったのです。裁判長、このような経緯からすると、私たちの入浴拒否は社会的に許される限界を超えていたとは言えないんじゃないでしょうか。

4 札幌地方裁判所の判決

 私人相互の関係については、憲法14条1項、国際人権B規約、人種差別撤廃条約等が直接適用されることはないけれども、私人の行為によって他の私人の基本的な自由や平等が具体的に侵害され又はそのおそれがあり、かつ、それが社会的に許容しうる限度を超えていると評価されるときは、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等により、私人による個人の基本的な自由や平等に対する侵害を無効ないし違法として私人の利益を保護すべきである。
 外国人一律入浴拒否の方法によってなされた入浴拒否は、不合理な差別であって、社会的に許容しうる限度を超えているものといえるから、違法であって不法行為にあたる。 
 また、小樽市に差別撤廃条例の制定を一義的に明確に義務づけるような憲法、条約及び法律の規定は見出し難いから、小樽市が差別撤廃条例を制定しなかった不作為を違法ということはできない。
 よって、湯の花は有道さんらに300万円を支払え。

5 人種差別撤廃の法制化の義務はない

 今回のケースで裁判所は、公衆浴場が外国人の入浴を一律に拒否することが人種差別にあたるとして不法行為を理由に損害賠償を認めましたが、小樽市には差別撤廃について措置をとらなかったことの責任はないとしました。
 この事件以外にも外国人であることを理由にマンションの入居を拒否された事件(大阪地判平成5年6月18日判例タイムズ844号183頁)、宝石店に来店したブラジル人に対して外国人入店のお断りの張り紙を示し、警察官を呼ぶなどして追い出そうとした事件(静岡地浜松支判平成11年10月12日判例タイムズ1045号216頁)があります。今後も、これらの問題に注目していきたいと思います。
 では、今日はこの辺で、また。


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