見出し画像

一枝顔面負傷事件

こんにちは。

 軟式野球では、デッドボールを受けても、そこまで大ケガをしないものだと考えていましたが、顔面にデッドボールを受ければ、鼻を骨折することもあると知って、ビビってしまいましたね。

 さて今日は、交通事故で顔面を負傷した場合の慰謝料が問題となった「一枝顔面負傷事件」(最判昭和33年8月5日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 自動車を運転していた渡辺金二は、少女の本橋一枝を発見したものの、警笛を鳴らしただけで、十分な減速をせずに走行したことから、一枝と接触事故を起こしました。この事故により、一枝は顔に消えないキズを受けたことから、母親の本橋久子は一枝の被った損害以外に、娘の顔の傷を見て自身が受けた多大な精神的苦痛に対する損害賠償を求めて提訴しました。

2 本橋久子の主張

 私は、夫を戦争で失い、内職をしながら一枝を育ててきました。なのに、今回の事故で、一枝の顔にこんなキズが残るなんて、不憫でなりません。娘の将来を思うと、心がズタズタに傷つきました。なので、直接の被害者として娘の被った損害に加えて、近親者である私が被った精神的苦痛に対しても慰謝料を払っていただきたいです。

3 渡辺金二の主張

 民法711条によれば、交通事故の被害者の父母や配偶者、子が被った精神的苦痛に対して、加害者が損害賠償しなければならないのは、被害者の生命を侵害した場合に限られている。なので、今回の事件のように、近親者の身体傷害により、たとえその父母や配偶者、子が精神的苦痛を受けたとしても、加害者は損害賠償する必要はないはずだ。

4 最高裁判所の判決

本橋一枝は、渡辺金二の不法行為により顔面に傷害を受けた結果、外傷後遺症の症状となり果ては医療によつて除去しえない著明な瘢痕を遺すにいたり、同女の容貌は著しい影響を受け、他面その母親である久子は、夫を戦争で失い、それ以来自らの内職のみによって一枝の外一児を養育しているのであり、不法行為により精神上多大の苦痛を受けたというのである。ところで、民法709条、710条の各規定と対比してみると、所論民法711条が生命を害された者の近親者の慰籍料請求につき明文をもつて規定しているとの一事をもって、直ちに生命侵害以外の場合はいかなる事情があつてもその近親者の慰籍料請求権がすべて否定されていると解しなければならないものではなく、むしろ、久子はその子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められるのであって、民法709条、710条に基いて、自己の権利として慰籍料を請求しうるものと解するのが相当である。

5 娘の顔の傷にショックを受けた親自身の慰謝料

今回のケースで裁判所は、交通事故により顔に傷跡が残った娘の母親が、その事故で娘の生命を害されたのと同じぐらいの精神上の苦痛を受けていた場合には、自己の権利として慰謝料を請求できるとしました。
 その後も最高裁判所(最判昭和39年1月24日裁判所ウェブサイト)は、 12歳の娘が不法行為により身体の傷害を受け、娘が世間なみの幸福な結婚生活を送れるかどうかを危惧するなど、その父母が相当の精神的苦痛を味つている場合には、自己の権利として加害者に対し慰謝料の請求ができるとしています。
 痛まし事故がなくなることを願ってやみません。

では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?