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ディズニーパワハラ事件

こんにちは。

 今日はディズニーのキャストがパワハラを訴えた千葉地判令和4年3月29日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 ディズニーランドで着ぐるみを着用してショーに出演してた女性キャストが、客から指を曲げられて負傷するという事件が起きました。この事故について被害にあったキャストが船橋労働基準監督署に労災を申請しようとしたところ、上司から「エンターなんだからそれ位我慢しなくちゃ。君は心が弱いよ」と言われ、申請を断念し、うつが発症しました。その後、バックステージで過呼吸に襲われることが多くなったことから、女性キャストが配役の変更を申し出ても、「わがままには対応できない」「解雇対象になる」「次に倒れたら辞めてもらう」と言われたり、懇親会で仕事仲間から「早く辞めてくれないか」「病気なのか。それなら死んじまえ」「死んじゃえNISSAN」「30歳以上のババアはいらねーんだよ,辞めちまえ」「てめーのわがままはきいてらんねーんだよ」「俺の前に汚え面見せるな」と言われて、精神的な苦痛を受けたと主張し、オリエンタルランドに対して、労働契約上の債務不履行もしくは不法行為または使用者責任に基づく損害賠償として、約330万円の支払を求めて提訴しました。

2 千葉地方裁判所の判決

 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負うところ、オリエンタルランドは、その義務の一環として、女性キャストとの間における出演者雇用契約上、女性キャストに対し、その時々の女性キャストの心身の状況に応じて、女性キャストの仕事内容の調整を行い、又は職場の人間関係など職場環境の調整を行う義務を負っていたというべきである。
 女性キャストは、平成25年2月7日、ショーに従事していた際、男性客から右手の指を折り曲げられる暴行を受けた。オリエンタルランドのセキュリティ部は、ショー運営部から、女性キャストが暴行被害を受けたと報告を受け、加害者である男性客の特徴を基に捜索を行い、閉園するまで、加害者の捜索を行った。上司は、セキュリティ部のオフィスで、女性キャストと面談をしたところ、その際、労災申請への協力を求める女性キャストの心の弱さを指摘するものともとれる発言があったものの、オリエンタルランドは、その後、療養の給付請求書に必要事項を記載するなど女性キャストの労災申請に協力した。
 女性キャストは、過呼吸の症状が出るようになったことから、配役について希望を述べることが多くなったところ、過呼吸の症状が出るようになったことを女性キャストができる限り人に知られないようにしていたこともあり、他の出演者の中には、女性キャストに対する不満を有するものが増えた。女性キャストは、他の出演者の理解を得るため、60名ほどの同僚に対し、自らの過呼吸の事情を説明し謝罪する手書きの手紙を書き、各人のレターボックスに差入れたことがあるところ、一部の者からは無理解を謝罪する言葉があったが、その手紙を破り捨てたものもいた。
 平成28年1月5日夜から同月6日午前1時頃にかけて、新浦安駅近くの居酒屋において懇親会が行われ、女性キャストは一次会から、同僚は二次会から、本件懇親会に参加したところ、本件懇親会において、女性キャストと同僚との間には、職場におけるいじめなどについて、やり取りがあった。
 女性キャストは、これらのパワハラ及び職場における常習的ないじめがあったことを前提として、オリエンタルランドが、女性キャストの仕事内容を調整する義務に違反し、職場環境を調整する義務に違反したと主張するものである。そして、女性キャストの仕事内容を調整する義務の違反については、女性キャストは、本件出来事の後、うつ症状が発症し、過呼吸の症状が出るようになったが、来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り、できる限り人に知られないようにしていたこと、医師は、休職の上、療養に専念することを勧めたが、女性キャストは、出演者雇用契約の継続にこだわり、出演者としての就労を継続しながら治療を受けることを望んでいたこと、オリエンタルランドは、女性キャストが出演者としての就労を継続することを前提として、なるべくゲストに接することがないように配慮したポジションである本件配役を配役したものであることからすると、オリエンタルランドが女性キャストの仕事内容を調整する義務に違反したとまでいうことはできないが、職場環境を調整する義務の違反については、女性キャストは、過呼吸の症状が出るようになったことから、配役について希望を述べることが多くなったところ、過呼吸の症状が出るようになったことを女性キャストができる限り人に知られないようにしていたこともあり、他の出演者の中には、女性キャストに対する不満を有するものが増えたのであって、女性キャストは職場において孤立していたと認めることができるところ、出演者間の人間関係は、来期の契約や員数に限りがある配役をめぐる軋轢を生じやすい性質があると考えられること、女性キャストは、本件出来事の後、うつ症状が発症し、過呼吸の症状が出るようになった後も、来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り、できる限り人に知られないようにしていたが、女性キャストの状況は、遅くとも平成25年11月28日及び12月18日の面談により、部長、MGR(マネージャー)の知るところとなったことによれば、オリエンタルランドは、他の出演者に事情を説明するなどして職場の人間関係を調整し、女性キャストが配役について希望を述べることで職場において孤立することがないようにすべき義務を負っていたということができる。ところが、オリエンタルランドは、この義務に違反し、職場環境を調整することがないまま放置し、それによって、女性キャストは、周囲の厳しい目にさらされ、著しい精神的苦痛を被ったと認めることができるから、これによって女性キャストに生じた損害を賠償する義務を負う。 
 よって、オリエンタルランドは女性キャストに対して、88万円を支払え。

3 高等裁判所では逆転敗訴

 今回のケースで裁判所は、ディズニーランドで働く女性キャストに対する上司や同僚からのパワハラ発言についてその不法行為性を否定したものの、女性キャストが職場で孤立しないよう職場環境を調整する義務を怠ったという安全配慮義務違反を理由にオリエンタルランドに損害賠償を命じました。
 これに対して、東京高等裁判所(東京高判令和5年6月28日)は、パワハラの発言に関しては客観的な証拠と整合せず、また女性キャストの状況に理解を示す同僚もいたことから、オリエンタルランドに女性キャストが孤立しないように職場環境を調整する義務違反はなかったと、女性キャストの請求を認めませんでした。
 それでも、企業側にはパワハラ対策を講じることが求められていることに注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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