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こんにちは。

 世界情勢が不安定になると、日本の防衛についての議論が活発になります。このときに、避けて通れないのが旧ソ連を仮想敵国として太平洋進出を防ぐために結ばれた日米安全保障条約です。また、この安保条約をめぐっては憲法9条に違反しているのではないかということが議論されてきました。実際にどのような理由でアメリカ軍が日本に駐留することが認められているのでしょうか。

 今日はこの点を考える上で、「砂川事件」(最大判昭和34年12月16日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 東京都砂川町(現在の立川市)にあった在日米軍立川飛行場の拡張をめぐって、住民や労働者、学生たちで結成された基地拡張に反対するデモ隊の一部が、立ち入り禁止の境界柵を壊して侵入したため、7名が逮捕、起訴されました。

2 検察側の主張

 被告人らは、日本とアメリカ合衆国との間の安全保障条約3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法に違反して基地に侵入したので、逮捕されてしかるべきである。

【日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法第2条】 
正当な理由がないのに、合衆国軍隊が使用する施設又は区域(行政協定第二条第一項の施設又は区域をいう。以下同じ。)であつて入ることを禁じた場所に入り、又は要求を受けてその場所から退去しない者は、1年以下の懲役又は2000円以下の罰金若しくは科料に処する。但し刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条がある場合には、同法による。

3 被告人の主張

 そもそも、日本政府がアメリカ軍の駐留を許容するのは、憲法9条2項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、安保条約は憲法違反である。そうすると、安保条約に基づいて規定された刑事特別法は無効となるので、我々は無罪となるべきである。

【憲法9条】
① 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

4 東京地方裁判所の判決

 伊達裁判長は、「日本に指揮権のない軍隊であっても、我が国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用する目的でアメリカ軍の駐留を許容することは、憲法9条に違反するので日米安全保障条約は違憲である。被告人ら全員を無罪とする」と判決を下し、国側が敗訴しました。翌年に安保条約改定を控えていた岸総理大臣は、跳躍上告(高裁を飛び越えて最高裁に上告)するという異例の手段を選択しました。

【刑事訴訟法406条】
最高裁判所は、前条の規定により上告をすることができる場合以外の場合であつても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、その判決確定前に限り、裁判所の規則の定めるところにより、自ら上告審としてその事件を受理することができる。

5 最高裁判所大法廷の判決

 憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない。

6 司法の独立?

 最高裁の差戻し判決を受けて、再度審理を行った東京地裁では、被告人に対して罰金2000円の有罪判決が言い渡され、その後に確定しています。

 ところが、2008年以降に機密指定が解除されたアメリカの公文書を調べた研究者によると、アメリカのマッカーサー大使が藤山外務大臣に対して、1審を短期間で破棄するために跳躍上告するようにアドバイスし、藤山が全面的に同意したとあり、またマッカーサー大使は田中耕太郎最高裁判所長官と密談し「田中は大使に審議から決定まで少なくとも数ヶ月かかると語った」ということが明らかになっています。

 今回紹介した判決が下された当時、田中長官はインタビューで「司法権の独立を裁判所が放棄したと言われるのは非常に心外」と語っていました。元東京帝国大学法学部教授だった田中長官については、司法権の独立も含めて、後世の検証を受け続けていくことになるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


 

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