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京王井の頭線踏切事故事件

こんにちは。

 京王電鉄には、京王線と井の頭線があるのですが、何か違和感があるなと思って調べてみると、京王井の頭線は元々、帝都電鉄が開業したもので、その後に小田原急行鉄道に吸収合併され、さらに東京横浜電鉄にも吸収合併されていたと複雑な歴史があることを知りましたね。

 さて今日は、社会にインパクトを与えた、京王井の頭線の踏切で起きた「京王井の頭線踏切事故事件」(最判昭和46年4月23日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 塩野幸雄さんの3歳の子どもが、井の頭線東大前駅と神泉駅の中間にあった遮断機や警報機のない無人踏切で、電車にはねられて死亡しました。そこで、両親は、京王帝都電鉄株式会社に対して損害賠償を求めて提訴しました。

2 塩野さんの主張

 せめて、踏切に、警報器と遮断機があれば、うちの子どもは事故に遭わなかった。踏切道のレール施設は、警報器や遮断機とあわせて一体として見るべきで、電車の通過に備えるべき保安設備がない場合には、民法717条にいう土地の工作物である軌道施設の設置に瑕疵がある。だから、電鉄側は損害賠償責任があるはずだ。

3 京王帝都電鉄の主張

 そもそも警報機は、踏切道とは独立した工作物である。遮断機や警報機がないのに、土地の工作物に瑕疵があったと言えるのか。また我々は、運輸省鉄道監督局長通達で定められた地方鉄道軌道及び専用鉄道の踏切道保安設備設置標準に従って、保安設備を設けていたが、今回事故が起きた踏切ではこの標準に従えば保安設備が不要だったのだ。だから我々には軌道施設の設置に瑕疵はなかった。

4 最高裁判所の判決

 列車運行のための専用軌道と道路との交差するところに設けられる踏切道は、本来列車運行の確保と道路交通の安全とを調整するために存するものであるから、必要な保安のための施設が設けられてはじめて踏切道の機能を果たすことができるものというべく、したがつて、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備と併せ一体としてこれを考察すべきであり、もしあるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置に瑕疵があるものとして、民法717条所定の帰責原因となるものといわなければならない。
 とくに、問題となった踏切を横断しようとする者から上り電車を見通しうる距離は、踏切の北側で50メートル、南側で80メートルで、所定の速度で踏切を通過しようとする上り電車の運転者が踏切上にある歩行者を最遠距離において発見しただちに急停車の措置をとつても、電車が停止するのは踏切をこえる地点になるという見通しの悪さのため、横断中の歩行者との接触の危険はきわめて大きく、現に事故までにも数度に及ぶ電車と通行人との接触事故があつたことと、事故当時における一日の踏切の交通量は700人程度、1日の列車回数は504回であつたことに徴すると、踏切の通行はけっして安全なものということはできず、少くとも警報機を設置するのでなければ踏切道としての本来の機能を全うしうる状況にあつたものとはなしえないものと認め、踏切に警報機の保安設備を欠いていたことをもって、電鉄所有の土地工作物の設置に瑕疵があつたものとした原審の判断は、正当ということができる。
 よって電鉄側の上告を棄却する。

5 工作物責任の解釈

 今回のケースで裁判所は、踏切道の軌道施設に警報器などの保安設備がない場合に、土地の工作物の設置に瑕疵があるとして、電鉄側に賠償責任を認めた原審を支持しました。現在、警報機と遮断機がついている踏切は全体の90%に登りますが、まだ遮断機や警報機がない踏切が全国に2603カ所もあるようです。痛ましい事故がなくなることを願ってやみません。

 では、今日はこの辺で、また。


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