空 第4話

〈 屋根 〉


夏の屋根の上は、早朝に限る。昼になると瓦が熱すぎて足の裏が焼けてしまいそうになる。終業式の日も屋根に登ろうとしたけど、窓から足を片方を屋根につけた瞬間に瓦に降りるのは無理だと思ってやめた。
しかし、朝の屋根の上は大人に見つかりやすいのが難点だった。父の出勤に始まり、祖母が庭の掃除、祖父の出勤、母の洗濯物干し、見つかってしまうタイミングが色々あった。その度に窓から家に大急ぎで戻らなければならなかった。父と祖父は
「落ちるなよ。」
で済むが、なぜか母と祖母はものすごい剣幕で叱ってくる。これまでに私が何回屋根に登ったことがあると思っているのだろうか。私が屋根から落ちるなんて事は無いのに、本当に分かっていない。叱られるたびにそう思っていた。
大抵屋根に出る時に使うのは、両親の寝室のベランダから3メートルくらい斜め上の方にある、子供部屋の天井近くの換気用の小窓だった。2段ベッドの上段からは容易に出入りできる。その度に埃が舞う。その度に少し息苦しくなった。
いつものお気に入りの、屋根の少し窪んだ場所にいつものように寝転んでみた。足元の屋根の軒下には燕の巣があり、時折親鳥が餌を運んでくる。ひなの成長が楽しみで、毎日屋根に登ってひなの声を聞き続けた。ほんの数ヶ月のうちに、小さくか弱い声からどんどん力強い声になってきた。

もうすぐ8月になるある日、私は熱を出した。38度の熱があった。誰かに言うと一日中寝てろと言われるので、黙っておいた。せっかくの夏休みなのに、風邪ごときで布団の上で1日を過ごさなければならないなんて耐えられない。
でもそれも1週間続くと、隠しきれなくなってきた。ご飯が全く食べられなくなった。そしてお母さんに見つかってしまった。
「良子、観念して寝てなさい。お盆におばあちゃんちに行けなくなるよ。クワガタ取りも夜釣りも行けないよ。」
今年は従姉妹たちと朝3時からクワガタ取りに行く事になっていたり、おじさん達と海へ夜釣りに行く事になっていた。お盆に寝込むなんてありえない。こんな事を言われたら、私も観念せざるを得なくなった。私もようやく諦めて大人しく布団に入る事にした。
昼から寝ていると当然夜は眠れない。小窓を開けて、南の空を眺めた。近所には家も街灯もないので星がよく見えた。秀夫はこんなに暗い夜の道を歩いて行ったのだろうか。
私は、秀夫が犬に喰われていないその後を妄想し始めた。

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